この国では十数年前から、上下水道の大規模な整備が行われている。地方はまだ工事の最中だが、王都は王のお膝元だけあって、真っ先に整備が行われた。
我が家は高級住宅街からはかなり外れた寂れた住宅街にあるのだけど、ここの区画も、九年前に上下水道の工事が行われた。
あの時は、毎日の生活がとても大変だった。
いくら国の一大事業とはいえ、工事費すべてを国の予算で賄ってはくれない。そこに住む私たちにも、一部の負担が求められた。
うちは貧乏だったから、それはそれは苦労した。下級とはいえ貴族階級だったので、求められる負担金も一般より多めだったのだ。
織物工房に勤めているお母様は、連日のように残業をして、少しでもお金を稼ごうと頑張った。
家事全般を任されているお父様も、少しでも家計を浮かそうと、自分の分だけ食事をこっそり減らしたりしていたらしい。
それでも、弟の薬代にさえ欠く有様で、熱を出したあの子の傍で、私はお金を稼ぐすべのない自分の無力さを歯噛みしながら、何度も何度も、額を冷やす布きれを取り替えた。
そんな状況が続いて、私は自分にできる事はないかと考えて、自分の髪を自分で切って、これを売って家計の足しにしてほしいと、お父様に差し出した。
私の髪はお母様譲りの淡い銀色で、容姿が平凡な私にとって一番の自慢とも言えるものだったから、それなりに高く売れると思ったのだ。
短くなった髪を見て、お父様は私を抱きしめて、何も言わずに泣いてしまわれた。
馬につける車など、家財道具の多くを売ったのもあの頃だ。
工事は区画ごとに行われるから、納税が滞るとご近所さんにまで迷惑を掛けてしまうし。とにかく、お金をひねり出すのに必死だった。
生活に少しは余裕が出てきた今も、私が節約・倹約にこだわり続けるのだって、あの頃の経験が忘れられないからだと思う。
うちの区画の工事が終わると、水道によって、いつでも綺麗な水が使えるようになった。
私はその衛生さに驚いた。
水道の普及によって、毎年のように街を襲っていた流行り病の数が減って、ルルの体調もそれまでより、少し良くなった。
貧乏人にとっては過酷だった負担金と引き換えに、私は綺麗な水がもたらすもののありがたさを知った。
水道は今や、私たちの生活にとって欠かせない。
だからこそ、水道維持費や水の料金を払えなくなって水道が止められては困るから、普段から、地道に倹約に努めないといけないのだ。
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