朝の水やりを終えると、お父様とお母様と私は朝食を摂る。
お父様の作られた食事はとてもおいしくて幸せだ。
お父様の料理はどれもすばらしい。材料がどんな質素なものでも、とてもおいしく仕上げてしまうので、私たち家族はいつも、物を食べる幸せを噛み締める恩恵に預かっている。
私も家事全般は得意だ。家政婦代わりをする事で弟子になってきたのだ。何でもこなせると自負している。
けれどまだまだ、料理の腕前だけはお父様には遠く及ばない。
お母様は安息日でも工房に働きに出掛ける事が多く、今日もこれから出勤されるのだという。
あまり無理をして、お体を壊されなければ良いのだけど。
うちの家計は、お母様の細腕で稼がれているといっても過言ではないから、止められないのが切ない。
美しく強く淑やかで働き者のお母様は、私の憧れる女性像そのままの方だ。
平均より魔力が強く精霊に愛される気質なので、老化が遅く、娘である私と並んでも姉妹で通りそうな程、若々しい見た目をしている。
「スノウさん、工房で余った布をたくさんわけてもらえましたの。貴女の誕生日が来月でしょう。今年は貴婦人らしいドレスを作ってあげますね」
「ええ! よろしいんですか?」
お母様の言葉に、私は驚いた。
貴婦人用のドレスなんて布を大量に使うから、うちのように貧乏だと、新品を買うなんて、夢のまた夢で。中古でも贅沢品というイメージだ。
お母様の勤め先の工房で、余分な布をわけてもらえる事があるので、私たちの服はいつも、お母様の手作りだ。
「お師匠様のところへ通うのにも着ていけるように、丈夫で可愛らしい服を作れるよう頑張りますので、どうぞ楽しみにしていてください」
「はい、すごく楽しみです」
私は驚きの余韻が抜けないままに、こくこくと二度頷く。
「前のお師匠様のところでは、武術の訓練が激しくてスカートを穿く機会もなかったですけれど、今のお師匠様のところなら、訓練以外の時はスカートでも構わないでしょう? 十七歳といえば成人ですから、貴女もそろそろ、貴婦人らしい立ち振る舞いを身に付けなければ」
「は、はい」
お母様のように素敵な方から「貴婦人としての立ち振るまい」などと言及されると、緊張してしまう。
私だって小さい頃に、貴族の令嬢として恥ずかしくないようにと、お母様から礼儀作法を一通り教えてもらっているけれど、それ以降はずっと、魔術や護身術にばかり熱心に取り組んできたから、あまり自信がないのだ。
貴婦人らしい礼儀作法なんて、私にできるだろうか。
……ああ、でも、ドレスを着れるのは、すごく嬉しいかもしれない。
ようやく私の内で、驚きが喜びに変わって、じわじわと実感が湧いてくる。
私だって幼い頃は普通の少女らしくスカートで過ごしていたのだけれど、護身術を習うようになってからは動きやすさを重視して、自然とズボンばかり穿くようになっていた。
それでも、私だってやはり、年頃の女の子だ。
どうせなら、男の子のようなズボンよりも可愛いドレスが着たい。
でも、ドレスを作ってほしいなんて贅沢なわがままは言えなかったから、ずっとなし崩し的にズボンばかりだった。
だけど、お母様はちゃんと考えてくれていたのだ。嬉しい。
ああ、一体どんなドレスになるんだろう。毎日着ても大丈夫だろうか。
ドレスの事を考え出すと、どうしようもなく心が弾んだ。
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