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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 七章 1

七章 『師弟の王子実験』




「研究で試したい事があるから、時間が空いたら来い」と、ヒースから連絡をもらった。


ヒースは、色違いの瞳にまつわる伝承の研究をしてくれている魔術師だ。
僕とヒースはわりと古くからの付き合いで、ある意味では幼馴染みのようなものだ。そして、良い友人同士だと思っている。

最近は、彼が弟子にとったスノウ嬢とも友人になれた。
彼らのところに行って他愛ない会話を交わすのは、僕にとって楽しい事である。

(早めに時間を空けて行ってこよう)

僕は急ぎの仕事を片付けて、早速、馬車の手配をした。


「こんにちは。ヒース、スノウ嬢」
「こんにちは、エディアローズ殿下。先日はクッキーをありがとうございました。家族もとても喜んで、殿下にお礼を申しておりました」
「喜んでもらえたなら嬉しいな」

これから向かうと知らせておいたからか、広い屋敷の中庭で、師弟揃って僕を出迎えてくれた。
スノウ嬢は相変わらず、僕を喜ばせるのが上手い。

本人にはあまり自覚がないのだろうけど、彼女は表情や話し方に、遠慮や嘘といったものがない。口調こそ丁寧だが、思った事はズバズバと口に出すタイプだ。
だからこそ、本心から僕を嫌っていないのがわかって安心できるのだ。
彼女のまっすぐな態度はとても心地良い。

「早かったな」
「何か、面白い実験でもやるのかなと思って」

僕がヒースに楽しげな笑みを向けると、彼はそれだけで嫌な顔をする。
普通ならそんな態度を取られれば嫌われていると思うところなのだが、流石に長い付き合いだけあって、僕も彼相手にはそんな心配はしない。
するだけ無駄だから。

ヒースは口も態度も悪いけど、なんだかんだで僕みたいなのを放っておけない、面倒見の良い性格をしているのだ。
研究者としてだけでなく、腐れ縁の幼馴染みとしても接してくれる、貴重な存在。
そして、僕にとっては一番面白い、からかいの対象でもある。


とりあえず、今回どんな実験を行うつもりなのか説明したいからと、いつものテーブルでお茶会をしながら話をする。
こうしてこのメンバーでお茶会をするのも三度目で、このまま定番になっていったら嬉しいなと密かに思う。

打てば響くような反応をしてくれるスノウ嬢と二人で、ヒースをからかい倒して遊ぶのが、すごく楽しくて仕方ない。
だから僕は、また時間を作って遊びに来ないと、と心に決める。


「おまえの周りの精霊を、一時だけ引き剥がしてみるつもりだ」
「え?」

いつも仏頂面のヒースが、眉間のしわをいつも以上に寄せて、これから行う予定の実験内容を告げる。

それは僕にとって、ちょっと意外な内容だった。


僕の周りには、いつもたくさんの精霊が溢れているという。
魔力をろくに持たない僕には彼らの姿を視る事はできないが、「何か」がずっと傍にいる気配だけは、昔から感じていた。

彼らは物心つく前からずっと僕を護ってくれている、優しくてあたたかな存在だ。
害意ある者が僕に危害を加えようとすると、彼らが大怪我を負わせない程度に退散させてくれた。

仕返しされた連中が不気味がって、「僕に近づくと不幸になるのは本当だ」と吹聴したせいで、色違いの瞳の伝承に真実味を与えてしまった一面はあるが、それでももし、彼らが護ってくれていなかったなら、僕への嫌がらせはもっとひどいものになっていたと思う。
もしかしたら、事故を装って殺されていた可能性だって否定できない。

姿が視えなくても、僕にとって、彼らは大切な恩人たちだ。
その彼らを僕から引き剥がすなんて言われれば、正直戸惑ってしまう。


「確かに、驚かれるのも無理はありません。私としても、こんなにも殿下を慕っている精霊たちを強引に引き剥がすのは心苦しいのですが、師匠と話し合った結果、これも実験の一環として必要かと判断したのです」

僕の困惑を見て取って、スノウ嬢が申し訳なさそうに言う。
彼女は弟子として師に学ぶだけでなく、ヒースの助手としても大変優秀なようだ。

これまでヒースの弟子になった者たちは、「役立たず」「邪魔」「研究を盗もうとした」といった理由からヒースによってクビにされてきたというのに、彼女には今のところ、そういった気配がない。
むしろ、訓練でヒースと善戦している姿や、こうして研究の手伝いをしようとしている姿を見るに、ヒースが彼女を信頼しはじめているのが伝わってくる。

僕は初対面の時から彼女の態度を気に入っている。だから、彼女がこのまま無事にヒースの弟子として、ここにいられるのを願っている。



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「明日、花が咲くように」 五章 6

正午過ぎ、軽い昼食をお父様と二人で摂る。
ルルは小食の上に朝食が遅いので、お昼は食事を摂らない。本当は三食きちんと食べてくれた方が健康にも良いし私も嬉しいのだけど、無理やり勧める事もできず、悩みの種だ。


午後からはお父様と一緒に図書館に行って、その帰りに日用品の買い物をする。

露店に可愛らしい小物があると、「これはエレインさんに、こっちはスノウさんに似合いそうですね」なんて、お父様が立ち止まってしまうから、私はお父様の腕をぐいぐい引っ張って、露店の前から急いで離れる。

お父様は露天商の人から言葉巧みに勧められるとはっきり断りきれなくて、つい余計なものまで買ってしまうような人なのだ。

「無駄遣いは駄目です、お父様」
露店を離れてから私が腰に両手を当てて睨むと、お父様は困ったような顔をされて微笑まれた。これも、毎週のように繰り返される光景だ。


買い物から帰ってきた後は、夕食を作りながらお父様からお料理のコツを教わった。
平日なら私の方がお母様より遅く帰ってくるくらいだけれど、今日は私が家にいるので、お母様が帰って来るまで待って、家族揃って食卓を囲んだ。

具合が悪くない時はルルも一緒だ。家族が揃うと嬉しくなる。
私の為のドレスの色や型の話題が出たり、ルルが読んでいる本の話が出たりして、話をしながら和やかに食事をする。

私が師匠や殿下の話題をすると、楽しげな笑い声も上がる。
私と、王都でも有名な人達との心温まる(?)エピソードは、話を聞く家族にとってはおかしくて仕方がないらしくて、皆よく笑って聞いてくれる。
私としては笑い話のつもりではない部分でさえ、笑われてしまう時もある。

私の普段の何気ない言動が、家族にとってはおかしく感じる部分があるらしいのだが、「スノウさんはそれでこそスノウさんです」とお父様が言うのだから、別に悪い事ではないのだろう。
ルルだって、尊敬するように眼を輝かせて、私の話を聞いてくれているのだし。


夕食の後は、お風呂をたてて順番に入りながら、居間でそれぞれ借りてきた本を読む。
こうして夕食の後の一時を一緒に過ごすのは、家族で共に過ごす時間を少しでも増やしたいからでもあるし、部屋の灯かりの代金を節約する為でもある。



夜、二階の自分の部屋に戻って、ベッドに横たわる。この寝る前のわずかな時間が私は苦手だ。
疲れてすぐに眠れるのならいいのだけど、暗い部屋に一人でいると、不安になってしまうから。

いつまでも芽が出ないのに、私は私自身の夢を追っている。十三歳で中等学校を卒業してから、もう三年が経った。
家の事を考えるなら、いつまでも弟子として修行しながら魔術師を目指すより、働いてお金を稼ぐか、爵位が欲しいお金持ちにでも嫁いだ方が確実だけれど、お父様もお母様も、決して、そうしなさいなんて言わない。
「自分の人生を悔いのないように精一杯生きてください」と、いつだって優しく、私の夢を応援してくれる。

だからこそ、夢を諦める時には、私は自分で決断を下さなければ。

時間は無限ではない。できる限り精一杯やって、それで駄目なら諦めるより他はない。


(だけど、まだ、諦めたくない)


諦めたくないから、全力で頑張っている。いつか結果が伴う日が来ると信じて。


早く眠れればいいのに。
不安を覆い隠す夜が過ぎて、いつもの朝が来ればいい。



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「明日、花が咲くように」 五章 5

朝食後、愛馬アイスブルーの手入れをして餌をやって、馬小屋も綺麗に掃除した。
私はこの子を、アイスという愛称で呼んでいる。賢くて逞しくて勇敢な、自慢の馬だ。

私が通勤中に暴漢に襲われても、相手を脚で蹴ったり、体当たりしたり、踏み潰したりといった大活躍で私をサポートしてくれるし、それでも危ないと思えば、私を背に乗せて、全力疾走してくれる。
馬は本来は臆病な生き物なのに、アイスは勇敢で、私はとても助かっている。

私のお小遣い稼ぎの手段である、襲ってくる暴漢を返り討ちにして褒賞金を得る上で欠かせない、大切な相棒なのである。

アイスに問題があるとすれば、背中に乗る人を極端に選ぶ事だろうか。

うちの家族なら誰が乗ってもおとなしくて良い子でいてくれるのだけど、家族以外の、特に男性が乗った時には、容赦なく振り落としてしまう。(メスなのに男嫌いなのかも?)
一度ヒースが近づいただけで、蹴飛ばされそうになった事もある。(師匠は反射神経がすばらしいから回避できたけど)
あの時は、「飼い主が飼い主なら馬も馬だ!」と、私が怒られた。……私が慌てて止める前にアイスに近づいていった師匠にだって、少しは非があると思うのだけど。


馬小屋の後は、屋敷内の掃除をする。
お父様がこまめに掃除してくださってあるから、古くて小さいけれど、我が家はいつも、明るくて清潔だ。
私の部屋の方がゴタゴタしている。ここも掃除する。
修行に忙しくて平日はつい手を抜いてしまいがちだから、休日くらいはしっかり掃除しなければ。

掃除を終えてエプロンを外す。
ルルがそろそろ起きる時間だ。今日は私が食事を持っていく役目を任せてもらおう。

ルルがゆっくりと食事を摂る間に、体調を診て薬を処方する。
いつもは夕食の後に、本を読みながら話をするくらいしか時間が取れないのだけど、今日はいっぱい話せて幸せだ。

我が弟ながら、ルルは本当に可愛らしくて仕方ない。
最近は、師匠とか殿下とか、周りに美形が増えているような気がするが、やはり、うちのルルが一番可愛い。
私はにんまりする。

血の繋がった弟に、惚れたら破門される師匠に、身分が違いすぎる王子様。
どれも恋愛対象にはならないが、それでも、そういう人たちが間近にいるのは素敵な事だ。
私も女の子だから、綺麗なものは普通に好きだ。

そういえば、エディアローズ殿下といえば、先日また、師匠のお屋敷へ遊びにいらした。
殿下は相変わらずお美しく、そしてリスのシュシュちゃんは相変わらず可愛らしく、見ているだけで心が和んだ。
師匠は何故か、とても疲れていたようだが。

シュシュちゃんに、師匠のお屋敷の庭で拾った木の実を食べさせてあげた。
カリカリと齧る姿が、それはもう愛らしくて、できればお持ち帰りして家族にも見せてあげたいくらいだった。

殿下はその時にクッキーを持ってきてくれて、「スノウ嬢さえ気にならなければだけど、よければご家族にもどうぞ」と、家族へのお土産まで包んでくれた。
さっくりとしながらも味わい深いクッキーで、家族皆で喜んでいただいた。

殿下がわざわざ「気にならなければ」と気遣ったのは、不吉王子と呼ばれる自分と家族を関わらせるのを、私が嫌がるかもしれないと思ったからだろう。
周囲に避けられて育った殿下は、避けられる事に慣れている。

だけど、私も他の家族も、そんな細かい事は気にしない。
だって、殿下からお土産を貰ったくらいでもれなく不幸になるのなら、殿下がこの国の王子として産まれた時点で、国民全員が不幸になっていなければおかしいではないか。

私がそう言ったら、殿下はお腹を抱えて爆笑した。



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