忍者ブログ
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
[55]  [56]  [57]  [58]  [59]  [60]  [61]  [62]  [63]  [64]  [65

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「明日、花が咲くように」 五章 1

五章 『貧乏貴族の安息日』




今日は、週に一度の安息日だ。

私は毎日、体を鈍らせない為に朝稽古をつけている。
今日も空が明るみ始める頃に起き出して、庭の片隅で格闘技の型を確認したり、基礎トレーニングをしたりして汗を流した。

いつもならその後、お風呂場で汗や汚れを落とし、お父様の作った朝食をいただいて師匠のお屋敷へ馬で出勤するのだけど、今日はお休みの日だ。
デヴィッド師匠とクラフト師匠の元にいた時は、魔術や武術を磨くのに必死で、時間がほんの僅かでも惜しくて、安息日も出勤していた。
だが、アイリーシャ師匠とヒース師匠は、安息日には休むようにと言う。

(そう言う本人は、研究に没頭してばかりなのに)

今の師匠であるヒースは、休日でも研究に没頭している。私が休日明けに出勤すると、明らかに研究資料などの散らかり具合が違っているから、訊かなくてもわかるのだ。
師匠がそうなら弟子の私だって、掃除なり何なりできる事をしに出勤すると言ったのだが、「安息日の意味をわかっているのか?」と、あっさり断られてしまった。

そう言う本人だって、ろくに休んでいなさそうなのに。

師匠は自分で天才と言うだけあって、研究分野が多岐に渡っているし、魔術師としての仕事の依頼も多くて、とても多忙な人なのはわかる。
けれど、日々が魔術漬け、研究漬けで、見ているこちらが心配になってくるような生活を送っている。
女嫌いだけあって、異性の影など微塵も見当たらないし。
私も人の事は言えないが、何が楽しくて人生送っているのかと不思議に思うような暮らしなのだ。


だが、せっかく師匠が休んでいろと言ってくれているのだ。出勤しないならしないで、やりたい事はたくさんある。
師匠に言ったら怒られそうだが、貧乏人には安息日などないのだ。


私は朝稽古を終えてから、鶏小屋の掃除をして産みたての卵を回収する。
卵は貴重なタンパク源だ。栄養満点でおいしいから、日々の食卓には欠かせない。
朝食の準備をしているお父様に、まだ温かい新鮮な卵を渡してくる。

それから、こじんまりとした庭で自家栽培している野菜や薬草たちに水をあげた。
野菜も食卓に欠かせない大切な栄養源だし、薬草は病弱なルルに必要なもの。どちらも大切だから、お父様が毎日しっかり手入れしてくれている。

滑車を取り付けた井戸の底から、桶で何度も水を汲み上げて運ぶ。
水道はあるけれど、そちらの水は有料だから、必要最低限以外は使わないようにしているのだ。

(前の工事でうちの井戸が潰されなくて良かった)

桶いっぱいの水をくみ上げて運ぶのは大変だけど、家計の節約には変えられないので、いつもは肉体労働に適さないお父様が一生懸命、桶で水をあげているのだ。休日くらい私が代わって差し上げないと。

私は力仕事が得意だ。こじんまりした庭だから、庭全体に水をあげるくらい、私にとっては大した労働じゃない。

普段から鍛えているだけあって、私は余分な脂肪などは一切ついていない。そのかわり、柔軟な筋肉がついている。
筋肉はつけすぎて重くなっても、身軽に動けなくなる。素早さを最優先する私は、しなやかながらも重くなりすぎない、最適な状態を保つ必要があるのだ。



「四章」6 ←  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



PR

「明日、花が咲くように」 四章 6

「殿下のお立場の改善にも役立つでしょうが、同じ瞳を持った人たちはきっと他にもいて、ただ公になっていないだけではないかと思います。
そんな人たちの為にも……、そして、未来に生まれてくる子供たちへの差別を失くす為にも、魔術的な研究は、ぜひとも必要かと」
「そうだな。その通りだ」

確かに、シズヴィッドの言う通り、事はエディアローズ一人の問題では済まされないのだ。
伝承は大陸全土に広まっているのだ。今この時にだって、差別され迫害されている者がいるかもしれない。むしろ、他にもいると考えて動いた方が良いだろう。

僕が伝承を否定できるだけのしっかりとした根拠を示せれば、今後、色違いの瞳に対する差別を減らしてゆける。
仮に伝承そのものを否定できなかったとしても、その瞳の原理をはっきりと解明するだけでも、人々に根付いた畏れを、ある程度は払拭できるはずだ。
僕の研究成果が、幾つもの人生を左右する可能性を秘めている。極めて責任重大な立場だ。やりがいがある。
いずれは、「生まれてすぐに捨てられても当然」などと言われるような現状を打破したいものだ。


「おまえは今の段階では、伝承をどう解釈している?」

僕が試しに訊ねてみると、「難しい質問ですね」と眉を顰める。

「師匠のように研究を重ねてきた訳ではありませんので素人意見になりますが、色違いの瞳が精霊に愛されすぎる特性を持つ可能性はあるかと。それで、精霊たちが彼らを守ろうと行った行為が、周囲に何らかの作用を及ぼしたとか」

首を傾げてしばし考え込んで、己の推論を口にする。
それは、エディアローズの周囲に群がる異常な精霊の数を直視した魔術師ならば、誰でも考える可能性だ。
僕もまず、それを可能性の一つとして考えた。

「当然それも、可能性としては考えている。だがそうなると、愛する者や身近な存在を不幸に陥れると伝えられてきたのは不可解だ。
精霊は己が守護する者に害のある存在を敵視する事はあれど、愛する存在に害を加えるような事はしない。
それに、記述を調べても、精霊の影響を書き記したものが見つかっていない。
これだけ広く知られている伝承だ。それがもし精霊の仕業なら、視える者にはわかっただろう。それらしい記述があってもおかしくないはずだ」
「そうですね。色違いの瞳の持ち主が皆、あのように精霊に愛されるのであれば、それに関する記述がないというのは不自然ですね」

僕が探し出した関連記述は、数十年前のものから数百年前のものまで溯る。
それ以前の古い記録は見つかっていないが、いずれ見つかるかもしれない。
生まれてすぐに捨てられて存在そのものを認知されてこなかった例が大半だが、それでも確かに、色違いの瞳の持ち主は歴史上存在してきたのだ。

だが、不吉をもたらすと伝えられてはいるが、その原因について言及する記述は見つかっておらず、魔術師から見た考察も、一切見つかっていない。
それが僕の研究を遅らせている。

「私の最初の師匠も精霊にとても愛された方でしたが、あの方の周囲の精霊たちは、弟子となった私を避けこそすれ、いつも遠くで見守ってくれているような感じでした。危害を加えられた事など一度もありません」
「おまえは精霊たちに避けられてはいるが、嫌われてはいないからな」
「師匠はとっても愛されていますよね。周囲をうろうろされるのが嫌だからって、用がなければ近づきすぎないように言いつけているのに、それでも健気に「ご用があればいつでも呼んでください、それまではそっとお傍に控えています」って感じで、こちらを窺っている精霊たちの、なんて多い事か」

シズヴィッドが軽く肩を竦める。

僕は確かに膨大な魔力の持ち主で、精霊に愛される性質を持ち合わせている。
用があって軽く呼び掛ければ、一体で済むような用であっても、先を競ってワラワラと集まってくるくらいには好かれている。

「エディアローズのような視えない者とは違って、視える者にとっては、ある程度の距離は必要となってくるものだ」
もし視えていたならエディアローズだって、もう少し離れてくれと哀願するに違いない。あの精霊すべてが視えていれば、それらが邪魔で、視界すらろくに確保できない。

「モテる方の台詞ですね。ああ、私も一度でいいから精霊たちに囲まれる幸せを堪能してみたい」
「囲まれるのが幸せか? ……とりあえず、あいつが来た時には囲まれていただろう」
「あれは、殿下の傍をどうしても離れたくない精霊たちが、私を苦手としながらも、渋々残っていたような感じでした」
「確かに、そんな感じだったな」

僕が肯定すると、シズヴィッドが恨みがましい視線を向けてくるが、こいつが精霊たちに避けられているのは厳然たる事実だ。今のところ、どうしようもない。

(だが、精霊魔術が使えないこいつを一人前にする為には、何らかの手を考えなければならないのも事実だ)

色違いの瞳の伝承を、しっかりと解き明かす事。
変質の魔力性質を持つ弟子を、魔術師として育て上げる事。


僕に科せられた役割は多い。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→ 「五章」


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



「明日、花が咲くように」 四章 5

ひどく疲れるお茶会を終えて、エディアローズは「僕は君と親しくなれたのを、心から嬉しく思っているんだ。絶対にまた、近い内に遊びにくるから」と、シズヴィッドにかたく約束して帰っていった。
初対面だというのに、心底こいつを気に入ったようだ。
まさかとは思うが、惚れたはれたといった厄介な感情に発展しなければいいが。

僕が関わらないで済むならいいが、二人の接点は今のところ僕しかない。現状でそんなものが持ち込まれれば、関わらずに済むとはとても思えない。

もっとも、エディアローズがそうそう軽率に、他人に恋愛感情を寄せるとは思えないが。
あの瞳にまつわる伝承の中に「連れ添った伴侶をもっとも不幸にする」という記述があり、それを否定できる根拠が見つからない以上、誰かと付き合う気はないようだし。

「まったく、無駄に疲れさせられた」
僕は部屋に戻る。慌しい一日だった。

椅子に座って、大量の書類の束の中から、「色違いの瞳に関する考察」と題名をつけた束を探し出す。
エディアローズと会った後には、これに新しい記述を書き足して、自分なりの研究材料を集めている。
今日は変質の魔力を持つ変わった存在が傍にいたから、いつもとは違う精霊たちの反応があった。
それを記しておかなければならない。

メイドと共に茶器を片付けてきたシズヴィッドが、「お疲れ様です」と、適当な調子でねぎらってくる。こいつも僕を疲労させた元凶の一人であるというのに、まったく悪びれた様子がない。

「噂に名高い「不吉王子」に会った感想はどうだ」
僕は椅子の背もたれに体を預けて伸びをして、ちらりと弟子を流し見る。

「女として居た堪れないくらい、すっごく綺麗な方でした」
「……そっちに反応するのか」

つくづく予想外の反応をする女だ。
女顔とはいえ美貌の男だ。異性として気になっても不思議はないのだが、……これはどう見ても、鑑賞品をうっとり眺める程度の反応でしかない。

「だって、本当に綺麗でしたから。淡い金髪はキラキラと輝いていて芸術品のようでしたし、肌だって滑らかで白くて陶磁器のようでしたし、殿下だと気づかなかったら、私、絶対に女性だって思いこんでしまっていました。
お話しをしている時も、頭では男性とわかっているのに、つい女性にするような対応をしてしまいそうになって困りました。でも性別に関係なく、綺麗な方は見ているだけで眼福です。それに見た目を差し引いても、とても話しやすくて面白い方だと思いました」

随分と独特の感想だ。
見た目はともかく、話しやすくて面白いなどど言われるのは、エディアローズにとっては初めてだろう。この言葉を教えてやったらどれだけ喜ぶか。

「まさかおまえたちが、あれほど気が合うとはな」
「シュシュちゃんも可愛かったです。リスさんを友人って、殿下は素敵な呼び方をされますね」
「事実、あいつにとっては唯一の友だったんだろう。両親に忌避され、周囲からも避けられ続け、どこかに幽閉するといった話も出ていたというしな」
「幽閉、……ですか」
「物騒だろう」

幽閉という単語を聞いて、さすがにシズヴィッドも眉を顰める。
それだけ、色違いの瞳は不吉と考えられてきたのだ。生まれてすぐに殺されなかっただけ幸運と思わねばならない程に。
王家の醜聞など、巷まで知られているものもあれば、闇に葬られ外に出ないものもある。
れっきとした王子が、あるいは幽閉されて育てられたかもしれないとは、一般には知られていない。

「おまえは伝承が怖ろしくないのか?」
(あのふてぶてしい態度でそれはないと思うが)

「いいえ」
案の定、シズヴィッドは首を振って否定した。

「魔術的に実証されている説ではないので実感が湧きません。殿下と直接お会いしても、今のところ、自分が不幸になったと思うような変化もありませんし。今後何かあっても、それが殿下とお会いしたせいとは限らない訳ですし」

はっきりと言い切る。小気味良い考え方をするものだ。その神経の図太さに、いっそ感心したくなってきた。
せめて周囲の半分だけでもこのような考え方ができていたなら、エディアローズの不幸は半減しただろう。不吉王子という忌み名で呼ばれながら、その瞳でもっとも不幸になったのは、皮肉な事に当の本人だ。

シズヴィッドだって、今後自分の周囲でわかりやすい不幸があれば、もしかしたらエディアローズに対する態度が変わるのかもしれない。自分の態度がどれだけあいつを喜ばせたか、まだ、本当の意味では理解していないだろう。

僕が難しい顔で考え込んだのを見て、シズヴィッドが更に力強く言い募る。

「もし仮に伝承が本当だったとしても、殿下がご自分の意志で不幸をもたらしている訳ではないのですから、無闇に怯えるより、有効な解決策を探すべきです。そういう訳で、師匠にはぜひ頑張っていただきたいものです」

そう。魔術的な解決策を探るのは、それを依頼された僕の腕に掛かっていると言っても過言ではないのだ。

「ならおまえも弟子として研究に協力するように」
「喜んでお手伝いいたしますとも」



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング





忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne