忍者ブログ
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
[1]  [2

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「魔界令嬢」 目次

「魔界令嬢」
ジャンル:異世界ファンタジー
最終更新日:09.07.25  5、依頼

1、家出  2、従者  3、武器  4、岩爺  5、依頼
魔界公爵のご令嬢であるユエは、元は人間界育ちで母は人間という、中途半端な存在だ。
多夫多妻が当たり前な魔界ではまともな恋ができないと、人間界に家出して、王子さまとの素敵な恋を夢見るものの、その道は前途多難で……。



TOPへ


PR

「魔界令嬢」 2、従者

次元を歪めて界と界を繋げてある洞窟を抜けて、ようやくわたしは、かつて暮らしていた世界へ戻ってきた。
洞窟の外は深い森が広がってる。
父に引き取られて以来、人間界に来る事はなかったから、もう五年ぶり。
わたしは十八歳になった。でも見た目は十五歳。魔族の血を半分引いてるから、老化が止まってるの。
その上、半分は人間なものだから、アズのように好きに年齢に姿を変えられない。ちょっと不便ね。

「ユーエリシェンお嬢さま?」
「ウーリィね?」
「はいっ」

木の影からこっそり顔を覗かせる相手を見つける。声を掛け合って確認すると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
青い髪に青い瞳の七歳くらいの外見のこの子は、私の従者。
わたしを迎えにきた父の配下が、自分の子供を私の従者にしてくれたのだ。
ウーリィ……ウリは、見た目は少年っぽいけれど、普段は性別がない無性体で、繁殖期には雌雄どちらにもなれる種族なの。
こうして人の形にもなれるけど、本当の姿は青鱗の魔竜。
この子は幼竜だから、まだわたしを乗せて飛べるような大きさにはなれないけど、いつか大きく育ったら、騎竜も兼ねてくれるっていう。楽しみだわ。

「ユエ、もしかしてウリに先行させてたんだ?」
「そうよ。わたしが武器庫でこっそり武器を調達してる間に、ウリに街で宝石を換金してもらって、人間界で必要なお金や装備を揃えてもらったの。身一つで出てくるなんて怖い事しないわ」

最初から、この洞窟の出入り口で落ちあう計画だった。
ウリはわりと上位の魔竜だから大丈夫だと思ってたけど、小さい子を一人で先行させたのはちょっと無茶だったかもと心配もしてた。でも無事で良かった。

「アズリさま、どうしてこちらに?」
ウリが予定外の相手がいるのにびっくりする。

「うん? ユエがこっそり屋敷を抜け出そうとするから、心配になって、ついてきてあげたんだ」
「だいじょーぶです。お嬢さまは置き手紙に、「ちょっと遊びにいく」って書いたです。ぼくはお嬢さまの従者だから、いつもお傍にいて、お世話しなくちゃなんです」

ウリが能天気に言い募る。
それで済むならいいんだけど、多分、そう簡単な話じゃない。
いくら父が究極の放任主義で、引き取られた時に一度会ったきりとはいえ、父の配下が子供の好き勝手を許すとは限らないし。
帰ったらどうなるか、考えるとかなり怖い。

でも、わたしはまともな恋がしたくて、我慢しきれずに飛び出してきてしまった。
もう後戻りはできない。



←back  「魔界令嬢」 目次へ  next→


「魔界令嬢」 1、家出

「運命の人なんていないと思うな。ユエは夢見がちすぎるんだよ」
幼児姿を好んで使う腹違いの兄が、したり顔でそう言った。
「どこかに絶対いるわ。きっと見つけてみせるんだから」
わたしは唇を尖らせて反論する。

わたしたちが住む魔界は、人間界の常識が当て嵌まらない、多夫多妻が当たり前な世界。だからどんなに素敵な人を見つけても、独り占めなんてありえないの。

わたしは魔界で恋をするのは不毛だと諦めて、人間界へ行く為に、長い洞窟を抜けようとしてる。
腹違いの兄のアズリに屋敷を抜け出すところを見つかって、何故か一緒についてこられたのは計算違いだったけど、止められるよりはマシね。

兄は金色の巻き毛に翡翠色の瞳の、外見五歳くらいの美少年だ。わたしよりずっと年上だけど、いつも好んで幼児姿をしている。
地上に行ったら兄を「にいさま」なんて呼んじゃいけない。アズって愛称で呼ばなければ怪しまれてしまう。気をつけないと。


元々わたしは、父は魔界公爵だけど母は人間だ。
母が死ぬまでわたしは父を知らず、母と人間界でひっそり暮らしてた。
十三歳の時、一人になって困っていたら、父の配下がわたしを迎えにやって、そうして自分の父が魔族だと、ようやく知った訳ね。

魔界は恐ろしい世界だと聞いてたから父に引き取られるのは恐かったけど、他に引き取ってくれる人もなく、自分で生活もできる力もなかったから、仕方なく魔界へ行った。
ただ、恐々と連れていかれた魔界は、思ったよりずっと待遇が良くて、人間界より暮らしやすかった。
ただ一つ、一対一の恋ができないという点を除いては。


「ねえアズ。わたし、王子さまと恋をしてみたい」
「無理だよユエ。人間界でだって、王族は大抵一夫多妻じゃないか。それじゃ結局魔界と変わらないんだから」
「もう、アズってば夢がないわ。せっかく人間界に恋をしにいくのよ。どうせなら高望みしたいじゃない」
「王族なら魔界にも腐る程いるじゃないか。この僕でさえ王族の血を引いてるくらいだし」

わたしがふくれても、アズはしたり顔を崩さない。引き止めなかったからそのまま出てきたけれど、実はわたしを魔界に戻したいのかもしれない。
兄は本人の言う通り、母方から王族の血を引いている。
でも、魔界では王族の数は数え切れないくらいいて、希少価値はあまりない。わたしが夢見る「王子さま」と魔界の「王族」との間には、決定的な差があるの。

「アズ、わたしはわたしをたった一人の妻にしてくれる、素敵な王子さまがほしいのよ」
「そんなの、理想郷にでも行かなければ存在しないって」

肩を竦めて呆れてみせるアズ(見た目幼児)にも、これで既に三人の妻がいる。だけどわたしは魔界公爵の娘でも、半分は人間で人間界育ちなものだから、どうしても多夫多妻には馴染めないでいた。


「とにかく、わたしは人間界に、恋をしに行くの!」



「魔界令嬢」 目次へ  next→




忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne