朝食後、愛馬アイスブルーの手入れをして餌をやって、馬小屋も綺麗に掃除した。
私はこの子を、アイスという愛称で呼んでいる。賢くて逞しくて勇敢な、自慢の馬だ。
私が通勤中に暴漢に襲われても、相手を脚で蹴ったり、体当たりしたり、踏み潰したりといった大活躍で私をサポートしてくれるし、それでも危ないと思えば、私を背に乗せて、全力疾走してくれる。
馬は本来は臆病な生き物なのに、アイスは勇敢で、私はとても助かっている。
私のお小遣い稼ぎの手段である、襲ってくる暴漢を返り討ちにして褒賞金を得る上で欠かせない、大切な相棒なのである。
アイスに問題があるとすれば、背中に乗る人を極端に選ぶ事だろうか。
うちの家族なら誰が乗ってもおとなしくて良い子でいてくれるのだけど、家族以外の、特に男性が乗った時には、容赦なく振り落としてしまう。(メスなのに男嫌いなのかも?)
一度ヒースが近づいただけで、蹴飛ばされそうになった事もある。(師匠は反射神経がすばらしいから回避できたけど)
あの時は、「飼い主が飼い主なら馬も馬だ!」と、私が怒られた。……私が慌てて止める前にアイスに近づいていった師匠にだって、少しは非があると思うのだけど。
馬小屋の後は、屋敷内の掃除をする。
お父様がこまめに掃除してくださってあるから、古くて小さいけれど、我が家はいつも、明るくて清潔だ。
私の部屋の方がゴタゴタしている。ここも掃除する。
修行に忙しくて平日はつい手を抜いてしまいがちだから、休日くらいはしっかり掃除しなければ。
掃除を終えてエプロンを外す。
ルルがそろそろ起きる時間だ。今日は私が食事を持っていく役目を任せてもらおう。
ルルがゆっくりと食事を摂る間に、体調を診て薬を処方する。
いつもは夕食の後に、本を読みながら話をするくらいしか時間が取れないのだけど、今日はいっぱい話せて幸せだ。
我が弟ながら、ルルは本当に可愛らしくて仕方ない。
最近は、師匠とか殿下とか、周りに美形が増えているような気がするが、やはり、うちのルルが一番可愛い。
私はにんまりする。
血の繋がった弟に、惚れたら破門される師匠に、身分が違いすぎる王子様。
どれも恋愛対象にはならないが、それでも、そういう人たちが間近にいるのは素敵な事だ。
私も女の子だから、綺麗なものは普通に好きだ。
そういえば、エディアローズ殿下といえば、先日また、師匠のお屋敷へ遊びにいらした。
殿下は相変わらずお美しく、そしてリスのシュシュちゃんは相変わらず可愛らしく、見ているだけで心が和んだ。
師匠は何故か、とても疲れていたようだが。
シュシュちゃんに、師匠のお屋敷の庭で拾った木の実を食べさせてあげた。
カリカリと齧る姿が、それはもう愛らしくて、できればお持ち帰りして家族にも見せてあげたいくらいだった。
殿下はその時にクッキーを持ってきてくれて、「スノウ嬢さえ気にならなければだけど、よければご家族にもどうぞ」と、家族へのお土産まで包んでくれた。
さっくりとしながらも味わい深いクッキーで、家族皆で喜んでいただいた。
殿下がわざわざ「気にならなければ」と気遣ったのは、不吉王子と呼ばれる自分と家族を関わらせるのを、私が嫌がるかもしれないと思ったからだろう。
周囲に避けられて育った殿下は、避けられる事に慣れている。
だけど、私も他の家族も、そんな細かい事は気にしない。
だって、殿下からお土産を貰ったくらいでもれなく不幸になるのなら、殿下がこの国の王子として産まれた時点で、国民全員が不幸になっていなければおかしいではないか。
私がそう言ったら、殿下はお腹を抱えて爆笑した。
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