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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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コメントお返事:7月30日分

13:14 問題児の多い王室に笑いました。周囲の人間は大変でしょうが、個性的な殿下達が今後沢山見られることを期待します。そしてスノウとの絡みも。
笑っていただければ嬉しいです。連載開始当初は、王室面子の出番はもっと少なかったはずなのですが、個々の性格が性格だけに、勝手に暴れ回ってくれてます。特にエクスカイルとか。キャラの暴走は、書く分にも楽しいので問題ないですが。
まだ王女達をろくに出せていませんし、またいずれ、王室関連の話も書きたいです。スノウとの絡みも出したいですね。


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「明日、花が咲くように」 十二章 5

「なんだ、不吉眼か」


執務室まで出向いた僕に対するエクスカイル殿下の第一声はそれだった。

これまでろくに話した事もなかったとはいえ、仮にも兄に対してその物言い。驚いて、同時に僕は、これまでの自分に対して呆れすら感じた。
僕は知らず、周囲に無関心になってしまっていたらしい。こんなにも個性的な弟の性格すら知らずにいたのだから、相当な重症だ。

幼く小さく愛らしいその容姿に反して、値踏みするように僕を見るエクスカイル殿下にシュシュが怯え、僕の肩からポケットの中に逃げ込む。

「さっさと仕事せんか。無能な阿呆は石にするぞ
「……君は、僕の眼が怖くないのかい?」
追い出そうとするでもなく、怖れ罵る訳でもなく、ただ仕事を促す彼に驚いて、僕は率直に訪ねていた。
それに対する答えは、とても簡単で、明瞭だった。

「僕は何も恐れはしない。何故なら僕が偉大だからだ!
「そ、そう。それは凄いね」

「当然だ!!」

妙な雰囲気に気圧され、世を拗ねる気すら削がれて、僕は、
(まあ、その内クビになるだろう)
という適当な気持ちで、エクスカイル殿下の補佐を始めた。

彼が飽きて長官の座を手放すのが先か、僕を不要と切り捨てて、他の補佐を選ぶのが先か――――
いずれにせよ、財務副官という役職についた当時は、こんなにも長期間、その補佐役を務める事になるとは、まるで予想していなかったのである。


彼はとても短気でせっかちで、何かあるとすぐ周りを石化して暴れ回る。そうなるともう、誰にも止められない。
そんな中、確かに僕だけは精霊の加護のおかげで石となる事はなかったから、時に宥め、時に煽て、時に叱りつけながら、幼い長官と向き合ってきた。
要は慣れだ。後は、忍耐とスルー技能か。

そんなこんなで、彼の対処に多少は慣れてきた頃、ヒースが留学から帰ってきた。
久しぶりに会う友人に、色々と言いたい事はあったのに、何を言えばいいのかわからなくて。言わなくてもわかってくれるヒースに甘えつつ、長官に振り回されつつもそれをどこかで楽しみつつ、日々はゆっくりと過ぎていった。

下の兄弟を個々として見る余裕ができたのは、そんなふうになってからで、近年に至ってようやくだ。
情けない話だが、それまで僕は自分の事で手一杯で、兄弟がどんな境遇に置かれ、どんなふうに育っているのか、ろくに見えていなかったのだ。
そして気がついた時には弟妹たちは、既に独自の性格を築きあげており、僕の手に負えないくらいの個性を確立をしていた訳だ。

まあ僕も、特定の相手以外とはろくに喋った事がなかったし、慣れない事続きで、過労や心労を溜め込んで倒れたのも、今回が初めてじゃない。
ただ、以前はとにかく仕事優先だった長官は、僕が倒れる度に呼び出されるヒースから厳しく叱られて以来、こちらの体調を気遣うようになった。




「さあ、仕事始めだぞ! 覚悟はいいか不吉眼!!

休暇が終わり通常の勤務に戻ると、長官が握りこぶしで元気に叫んだ。

「式典は出なくていいの? 長官」
「そんな退屈なもん、一々出とられるかっ!」
「王族の仕事だけど」

王城ではまだ連日、式典やら舞踏会やらの真っ最中で、王族はそれに出席しなければならないはずなのだが。
現王家の子供たちは個性的すぎて、まともに式典に参加するような神経の持ち主の割合が少ない。
僕はどうせお呼びが掛からないから気楽にしていられるけど、長官は本来なら式典に参加しなければならないのに、財務省の仕事を優先してばかりで、そちらに出た様子がない。

「うーん。キーリ殿下は研究所に篭ってばかりで出席を拒んでいるというし、アルフォンソ殿下は問題外だし。ラシェルリンゼ殿下は気難しくて公の場に姿を見せないし。となれば、王族としての務めを果たしてるのは三人だけか」
「三人もいれば充分だ。あのナルシストが式典用のドレスを何着も新調したせいで、一体どれだけ予算を喰ったか!! 着飾るのも王族の仕事だとか国家の威信がどうだとか、もっともらしい理由をつけて散財しおって! ああ、忌々しい!!
税金の無駄遣いが大嫌いな長官が、不機嫌に言い捨てる。

社交が苦手なジークフリード殿下は、妃に強引に引き摺られて出席させられているはずだ。
注目を集めるのが好きなセレナ殿下は、誰に言われるまでもなく、自分から出席するはず。
臆病なカロン殿下は、野心家である母のカルサーナ妃に逆らえず、出席を余儀なくされていそうだ。同腹の弟たちが母の言う事を聞かないものだから、その分の皺寄せまで彼が負わされている。


……それにしても、こんな状態でいいのだろうか。
王の年齢からいって、もう、いつ次期国王の選定に入ってもおかしくない時期だというのに、候補者たちは皆好き勝手に振舞って、王族らしい務めをろくに果たしていないような気がするのだが。



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「明日、花が咲くように」 十二章 4

ヒースやギーレンとの出会いから更に二年が経った頃、僕は騎士のサリア・ロッドベルトと出会った。

武術にも力を入れたいと、ヒースは騎士を紹介してもらったのだ。
そして自分だけでなく、僕にも、「精霊に守られてるだけじゃ、いざという時危なくなるかもしれない。武術もやっておいた方がいい」と、一緒になって訓練をやらせた。
僕らの訓練をつけてくれた騎士こそがサリアだったのだ。

彼は当初、僕の眼を気気味悪そうに避けていたが、ヒースに引っ張られていつも一緒に訓練をしている内に、次第に打ち解けてくれて、僕にも剣を教えてくれるようになった。
剣を習いたいと言い出した当人であるヒースは、数年で、「剣よりも杖術がいい」とサリアの教えを離れてしまったのだが、サリアはその後も僕に剣を教えてくれた。

ヒースが剣を離れるのと入れ違いに、白い巻き毛の少年が周囲を憚るようにやってきて、僕と一緒に剣の稽古をするようになっていた。
「誰にも秘密にしてほしい」とこっそり笑ったその少年に、サリアはしょうがないと言いたげに笑い返していた。
……その少年がアルフォンソ殿下だったと僕が知ったのは、十二歳の時、彼が王宮を去ってからの事。

一緒に剣を習っていた少年が兄だと、僕はずっと知らないままだった。知った時には彼はもういなくなっていた。
彼が病に罹ったのも、セレナ殿下の母上が病で亡くなられたのも、僕のせいなのか。
この色違いの瞳が、本当に不幸を招いているのか。
僕は、存在そのものが罪なのか。

…………どれだけ悩んでも、答えは出なかった。
ただ無性に何かを変えたくて、僕は軍に入った。
剣を振るいがむしゃらに体を鍛える事で、これ以上何も考えないようにしたかったのかもしれない。
結局は軍でも腫れ物扱いだったけれど、サリアは折を見て僕を気遣ってくれたし、ヒースやギーレンが僕を支えてくれた。
彼らがいたから、僕は正気を保っていられた。


そんな危うい均衡が崩れたのは、今から三、四年前くらいか。
ちょうど、ヒースが魔術師協会の総本部へ留学して国を空けていた間に、立て続けにいくつもの出来事が起こった。
ジークフリード殿下が妃を娶り。祝い事でふと気が緩んでいた頃に、それは唐突に訪れた。

病で王宮を離れていたアルフォンソ殿下の、気違い状態での突然の帰還。
その件で王宮が混乱していた隙を突くようにして、僕の剣の師匠で近衛副隊長だったサリアが、前触れもなく辺境に飛ばされた。
サリアの移転は国王直々の命令だったという。
それに付随して、僕に剣を教えていたのが王の不興を買ったのだろうという噂が流れた。

「おまえと係わった者は、皆、不幸になる」
サリアの移転に納得がいかず、陳情の為に謁見した国王陛下からは、冷然とそう告げられた。
父であるはずの相手から、初めて掛けられた言葉がそれだった。
汚物を見るような眼差しが、今も忘れられない。

サリアが赴任前に僕に残してくれたのは、一匹の小さなリスだった。
「薄情にいなくなってしまう俺と違って、このキャネリットっていう種のリスは、強い帰巣本能があって、どこにいても飼い主の居場所がわかるんです」と、教えてくれた。
そして、「こいつだけはきっと、どこにいっても、あなたの元に帰ってきますから」と。
サリアの言葉は、彼がもう戻ってこないという意思表示のように聞こえた。
それに対して何も言えず、僕は黙ってリスを受け取った。
僕のせいで近衛の任を解かれ辺境に飛ばされるという相手を前に、何をどう謝れば許されるのかわからなくて。途方に暮れて、沈黙を守った。

(どうして次々と、大切な人がいなくなってしまうんだ)
サリアまでいなくなり、僕は自分を肯定する気力がなくなった。
王宮に帰ってきたアルフォンソ殿下とも再会したが、心がまるでここにない有様に、やはりどうしていいのかわからず、戸惑うばかりで。無力感に苛まれ、人と距離を取って係わらないようにした方が、お互いの為なんじゃないかと考えるようになっていた。

――――なのに、そうやって距離を取るのが当たり前になった僕に、いきなり財務長官の補佐という役割が宛がわれた。

それを告げられた当初は呆然となった。次いで、理由を知らされて失笑した。
長官となった第五王子の石化を防げる者が他にいないなんて、なんて滑稽な理由。

(そんな理由だけで、これまでずっと忌み嫌ってきた僕を、要職につけるのか)
なんだか僕の存在自体が馬鹿馬鹿しく、愚かしく感じた。



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