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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 十二章 2

年末から年始にかけての怒涛の書類地獄が終わり、今は休暇の最中だ。
数日間、ゆっくり休んだ事で熱も下がり、体調も元に戻った。
ヒースやスノウ嬢も、僕のせいで慌しい年の始まりを迎えさせてしまって申し訳なかったけれど、今頃は穏やかな休日を満喫しているだろう。今度彼らに何かお礼の品でも差し入れないと。

「蜂蜜など入れてないだろうな!?」
「入ってないから安心していいよ」
長官は僕の淹れたお茶を、疑わしげに見る。いつも彼は、小さな体でふんぞり返って偉そうだ。

(疑わしいなら飲まなきゃいいのに)
とは、思っても口にしない。そんな細かい事で言い争っているようでは、この長官の補佐役は務まらない。彼との付き合いには、適度なスルー技能が不可欠だ。

ちなみに、本来ならこの人への見舞い品だったあの大量の蜂蜜は、スノウ嬢が持って帰ってくれた。後で甘すぎないお菓子にして差し入れしてくれるそうだ。
僕の元にも小瓶で一つ残っていて、偶にお茶に入れたりして使っているが、甘いのが苦手な長官がいるから、今回は使っていない。
執務室で休憩にお茶を飲む事もあるから、僕は彼の好みをそれなりに把握している。
……そのせいで、「何故あの気違いが僕の好みを知っている!? まさか密告したのか!?」と、詰め寄られたのは、記憶に新しい。

言い掛かりだ。僕は、どうせ嫌がらせするなら自分でする。楽しみを人に譲ったりなんかしない。


「精神論より具体案がほしいな」
やる気だけですべてが解決するなら、世の中もっと楽なんだけどね、と苦笑する。
「む。根底にやる気がないと、どんな良案も無駄になるんだぞ!?」
「それはまあねえ」
彼の言う事ももっともだ。意識改革が重要なのは確かだ。
だが、職員全体の意識を改革する為に、まず僕らがどんな政策を打ち出せるかが、今の焦点なのでは。
そもそも具体的な策を練る為に、わざわざ休暇中にここまで来たんじゃないのかな。改革案を「やる気」の一言で終わらせたりしたら、ヒースにものすごい馬鹿にされそうだ。


「具体的に言うと、だ。給料だ。良く働く者は増給し、働きの悪い者は減給する」

人差し指を立てて自信満々にされたその発言に、僕はまたたきをする。
それはまた、随分と思いきった策を打ち出してきたものだ。この人の事だから、やるとしたら徹底的なまでに実力主義でやりそうだ。

「即物的だね」
俗人は金で釣るのが一番だ。これで部下どものやる気を生み出す」
「まあ、真理だけど。……減給については、かなりの反発を生みそうだね」

「愚か者の反発など痛くも痒くもないわ」

気持ちいいくらいきっぱりと言い切った。
(あんまり変わってないなあ)
彼のこういう不遜なところが微笑ましい。
万事が万事この調子では、まだ大人と呼ぶには早いかなと、少し安心もする。
成長の早い子供だから、きっとこの先も、驚く程の早さで変化してゆくだろうけど。まだ手の届く範囲内にいてほしいと思う。これは僕の我が儘かな。

「うーん。基準値以上の仕事をこなした者には、基本給の他にも特別給料を上乗せするっていう案は、悪くないと思うんだ。ただ、最低限と定めた仕事を出来ない人に対していきなり減給処分だと、どうしてもこなせない人が出てくると思うんだよね」

僕は柔らかな微笑みを浮かべて、ちょっと困ったように小首を傾げる。
特に長官は、人に求める基準値が高すぎるから、とは、心の中だけで付け足しておく。

これをそのままで採用したら、絶対反感買いまくるだろうなあ、と密かに溜息をつく。
徹底した改革には犠牲はつきもの、という意見もあるだろうが、現時点で既に慢性人手不足な財務省から、更に人材を削減しかねない改革は、正直勘弁してほしい。先日のあの書類地獄の再来は、流石にご免被る。

「使えない人材を使えるように教育しなおすのが、今回の最大の焦点な訳でしょう。なら、減給にする前に、何らかの処遇……、たとえば、再教育とか補習とか、そういうワンクッションを置いた方がいいんじゃないかな?」
「ふむ。成る程な。それはいいかもしれん」

冷めてきたお茶を、目の前でぐいーっと一気に飲み干す。毒の心配とかしないんだろうか、仮にも王族なのに。お茶を淹れたのが僕だから信用されていると取るのは自惚れか。
――――というか、猫舌だよね、この人。これもアルフォンソ殿下辺りにばれたら、きっとまた、嫌がらせのネタに使われるんだろうな。

「僕はこの案を煮詰めてみる! おまえも他に、何か考えておけ!」

身軽にソファーから飛び降りて、彼は来た時同様、唐突に勢い良く帰って行った。
……本当に、落ち着きのない人だ。
そこが面白いんだけど。



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「明日、花が咲くように」 十二章 1

十二章 『変わるもの、変わらぬもの』




子供のままでいてほしかったのかなあ、と、自分の心情を分析してみる。
意外と、その我が儘に振り回されるのを、僕は楽しんでいたみたいだ。



「まず必要なのは、やる気だ!」

「素晴らしい意見だね」
意気揚々と宣言する長官に、僕はやる気のない疎らな拍手を送る。

「なんだ! そのやる気のなさは!!」

途端に鋭く怒鳴り返される。いつも無駄に元気だよね、この人は。いっそ感心する。

弟であり上司でもあるエクスカイル殿下に睨まれて、軽く肩を竦めてみせる。
ちょっと空気がピリピリする感覚がした。
多分、長官の石化攻撃を防ごうと、僕の周りの精霊たちが、僕を守ってくれたんだろう。
いつもいつもの事で、何が起こっているか想像に難くない。

ついこの間、仕事詰めで倒れたも同然なのに、長官ときたら短気なのも相変わらずでなによりだ。
ヒースにきつい事言われてちょっとは落ち込んでるのかと思ってたんだけど、予想よりかなり復活が早かった。
僕としては、もうちょっと落ち込むなり反発するなりするんじゃないかと期待してたのに、肩透かしを喰らった気分だ。

彼は財務長官の立場だって、なりゆきでなったようなものだったから、飽きればすぐに放り出すと思っていたのに。
未だ「財務長官」であり続け、そして未だに僕を「副官」として、補佐役に置いている。

――――もう、三年。
配属された当初、予想したより長く、そしてまだこの先も、お遊戯は続くらしい。

(お遊戯なんて言ったら、長官は激怒しそうだけど)
子供らしい正義感と溢れんばかりの才能を振りかざし、財務省を我がものにする様は、僕の目からは、彼特有の遊びに見えていた。
それも時が経つ内、彼の真剣さが伝わってきて、自分の楽観を反省させられる事しきりだったが。
……まあそれで、彼なりに真面目なのだと理解したつもりになっていたのだけど。
僕の認識はまだまだ甘かったのだと、この前また、彼の徹底した仕事ぶりを見て反省しなおしたところだ。


腕を組んで反り返って立つ長官に「とりあえず、座ったらどうかな?」と、僕は椅子を勧めてみる。
王子宮の自分の住処に、誰かがやってくるのは珍しい。こうして僕がお茶の準備をするなんて、もっと珍しい。
台所でお湯を湧かして、お茶菓子の用意をする。
彼は甘すぎるお菓子が苦手だから、あっさりしたものにしないと。


立場ある者を無闇に甘やかすな、とはヒースの言。
けれど、指摘された事柄を真摯に改善しようと検討する彼はもう、歳に似合わず、充分大人らしいと思う。
それがとても残念だ。そんな事をヒースに言ったら、すごく怒られそうだけど。


(僕はこの人に、子供のままでいてほしかったのかなあ)
今の自分の心情を冷静に分析してみると、多分そんな感じだ。

彼がきちんとした大人になって、周りを無闇に石化しなくなったら、僕の副官という立場は解任されるだろう。
……僕は、彼に振り回されつつ仕事をするのが、それなりに居心地が良かったのだと自覚する。

だから、僕の存在が不要になる日が少しでも遅ければいいのにと、……彼に子供でい続けてほしいと、勝手に望んでいたらしい。



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「魔界令嬢」 5、依頼

近隣諸国の情勢とか、人気のある王子さまとか。一通り、聞きたい情報を教えてもらった。
岩爺はこの森の魔物の主だから、森に来る渡り鳥の魔物などから情報を仕入れたりして、とても物知りなんだって。
わたしの目的を聞いて、面白そうにカラカラと笑って、色んな噂話を教えてくれた。

その後で、岩爺が別の話を切り出した。
「ところで嬢ちゃん、余裕があるなら、ワシの頼みごとを一つ聞いてくれんか」
「頼みごと?」
顔見知りのアズにではなく、わたしに頼むのは、わたしが主体になって人間界にやってきたからね、きっと。
この面子の中ではっきりとした旅の目的があるのは、わたしだけなんだもの。

「そうじゃ、この森には流れの猟師がいたんじゃが、そいつがしばらく前に死んでしまって、その幼い娘が、一人で小屋に残されておるんじゃわい。その娘を連れていってくれんか?」
「まあっ、たった一人で?」
意外な頼まれごとにびっくりする。
魔物って、大抵は人間と敵対してたりして、仲が悪いイメージだったのだけど、この岩爺は違うのかしら。
(それに、親が死んで一人で残されたなんて、まるでわたしみたい。他人事とは思えないわ)
話を聞いただけで、俄然、その娘さんが気になってくる。

「急ぎの旅じゃないですから大丈夫です。その子をどこに連れていけば良いですか?」
わたしが意気込んで頷くと、岩爺が嬉しそうにほっほと笑う。
「そりゃ~ありがたいわい。まあず、一番近い村は駄目じゃな。余所者じゃって、猟師が死んだ後もだ~れも娘を引き取らんかったでな。じゃから、どっかの街の孤児院にでも連れてってくれると嬉しいんじゃがの」
「わかりました」
一番近い村はダメと、わたしは脳内で反芻する。
森に一人きりで残された子供を放っておくなんて、なんて薄情な村なのかしら。
そりゃ、貧しい村では、余計な食い扶持を増やす余裕なんてないのかもしれないけど。
でも、放っておけば確実に死んでしまうとわかっていて放っておくなんて、やっぱりひどいわ。

「岩爺が人間なんか気にするなんて珍しいね」
アズがまたたきして小首を傾げた。
そういうって事は、普段は岩爺も、人にやさしい魔物じゃないのかもしれない。

「猟師は余所者じゃったが、村のモンよりよっぽど森に対する礼儀がなっとってな。それに、その娘はまだ幼いんじゃが、殆ど目が見えんのじゃわい。このまま森に一人でおれば、遠からず獣にでも襲われて死んでしまうからのう。
ワシは元来、人間などどうでも良いのじゃが、ちいっとばかし不憫に思えての~」
気まぐれでも、ちょっとばかしでも、気にかけてくれる相手がいて良かった。

「その子のいる場所を教えてください。きっと、面倒を見てくれる孤児院まで連れていきます」
人間界について早々、目的とはまったく別の用事ができたけれど、これも何かの縁だもの。わたしが責任もって、その子をちゃんとした孤児院まで送り届けよう。



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