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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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web拍手設置

ブログに拍手を設置してみました。
お礼は現在のところ、「明日、花が咲くように」の主要登場人物のプロフィールとなってます。
かなり適当な紹介文ですが、ある意味ネタバレです。

基本的に拍手でコメントをいただいた場合、ブログ内でお返事してゆくと思います。
お返事不要の方はその旨を明記してください。

応援や一言メッセージなど、何にでもお気軽にご利用ください。

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「明日、花が咲くように」 十一章 2

「お疲れ様でした、エディアローズ殿下。こちらをお飲みください」
「ありがとうスノウ嬢。これ、薬茶なのにあまり苦くないね。結構おいしい」
「それは良かったです」
王子宮の自分の居住区に戻ってきて、エディアローズはシズヴィッドが差し出した薬茶を受け取って口に運ぶ。

エディアローズが仕事に戻ると言った時、シズヴィッドは相当怒ったのだが、「僕が行かないと、弟が無理してしまうから」と言われて撃沈し、僕を監視につけるのを条件に、渋々送り出したのだ。
弟を溺愛するシズヴィッドにとって、その一言は大打撃だったようだ。
こいつも同じ状況であれば、弟に無理をさせるくらいなら自分が無理をするという性格だ。それでは止められるはずがない。

ただ、シズヴィッドは王城には同行せずに、ここに残っていた。
王の居城まで行くとなればやはり、身分や服装やらに細かい規定があって、制限が厳しい。
僕はフリーパスで通れるが、シズヴィッドを連れていくとなれば、事前に細かい手続きが必要となる。
王城内は式典の準備でごたついていたし、僕らが財務の仕事をしている間、シズヴィッドには王子宮で昼間だけ待機させておいたのだ。


「師匠がエクスカイル殿下を叱ったと、エディアローズ殿下が眠り際まで、ずっと気にしていました」
エディアローズが寝室でシュシュとともに眠ったのを確認してから、シズヴィッドが居間に戻ってくる。
薬茶には睡眠を促す作用もあると言っていたから、エディアローズはすぐに眠りに落ちたようだ。
ようやく仕事が片付いたという安心感もあるだろう。

「僕は、正しいと思った事しか言っていない」
シズヴィッドが僕の返答に苦笑しながら、新たに二人分の紅茶を淹れる。
カップを一つこちらに差し出してきたので、それを受け取る。
「それでも、エディアローズ殿下が気に病む程度には、厳しい物言いだったようですが」
「……」
淡々とした口調で諭されると、沈黙するしかなくなる。これでは先程のエクスカイルと同じだ。
僕は正しいと思った事を口にしただけだったが、今思えば、大人げなかったのも確かだ。

実際、他の財務官は、異能の長官副官に怯えるばかりで、まともに仕事をしないらしい。それが子供の目に歯痒く映るのは当然だ。
部下の指導も、本来なら年長者の副官であるエディアローズが受け持つべき事柄だ。それをエクスカイルに押し付けるのは酷だった。
ただ、エディアローズはエクスカイル以上に周囲から避けられているので、それを行うのは到底不可能なのだが……。

(つまるところ僕は、友人を庇うあまり、エクスカイルに多くを求めすぎてしまったのか)
自覚と同時に、知らず溜息が零れる。

「エクスカイル殿下は兄君が倒れた後、ゆっくり休むように言い置いたのでしょう? そしてその分まで、ご自分が無理をされたとか。
エクスカイル殿下は殿下なりに、兄君を気遣っておられると思います」
「そうだな。……あれは、僕が言いすぎた」
シズヴィッドは責めるような言い方はせず、静かな声音で話を続ける。その声を聞いている内に僕も落ち着いてきて、素直に失態を認められた。

「エディアローズ殿下が熱を押して無理をするので、師匠も心配したのですよね」
「だが、あれも充分無茶をしていた。そこに追い討ちをかける必要はなかった」
冷静になってみれば、見えていなかったものも見えてくる。
自覚していなかっただけで、僕も疲労を溜めていたのかもしれない。きつい言葉を言いすぎた。

「後で一緒に謝りに行きましょうか」
柔らかく微笑むシズヴィッドの態度は、人を子供扱いしているようで腹が立つ。
事実、子供っぽい言動をしてしまった自覚があっても、年下の女からこんなふうに言われると、どうしようもなく居心地が悪くなる。
「子供扱いするな。謝罪くらい一人で行ける」
「そんなつもりはなかったのですが。……申し訳ありません」
謝りながらもくすくすと笑うシズヴィッドを、とりあえず睨んでおく。
どうも、今日はとことん子供扱いされているような気がしてならない。
案外こいつは、溺愛する本物の弟相手には、いつもこんな感じなのかもしれない。


……新しい年が明けて、王城では今頃、盛大な式典が開かれている真っ最中だ。
けれどここはとても静かで、時間の流れが穏やかに感じられた。

本来シズヴィッドは年始は休みの予定だったのだが、エディアローズを心配して、毎日ここに通っている。
その分、後でゆっくりと休暇を取らせなければ。



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「明日、花が咲くように」 十一章 1

十一章 『年が明けて』




「終わった、ああああ!」

包帯で固定させた左手で辛うじてサインしていたエクスカイルが、最後の一枚を終えると同時に立ち上がって絶叫した。

グリンローザの第五王子エクスカイル・キャロルは、青銀の髪に明るい灰色の瞳をした、見た目だけは愛らしい容姿の持ち主だ。
だが、その内面は見た目に大いに反して、毒舌を吐いて人を脅して威圧する、傲岸不遜な性格をしている。
この王子はある事情から、最高位の石の精霊と同化して生まれた。そのせいで生まれつき強力な石化能力を備えており、巷では「石化王子」と呼ばれている。
幼いながらもその手腕は確かなもので、実力は誰もが認めるところだが……。
エクスカイルは有能であると同時に、超のつく問題児でもあった。

「ごめんヒース。結局、年明けまで付き合せちゃって」
「そう思うなら、今度こそきちんと養生するんだな」
「そうだね。そうさせてもらうよ」
エディアローズが椅子に座ったまま伸びをして、僕を見て苦笑した。その肩には、ようやく飼い主の手元に戻ってきたシュシュの姿もある。
「しばらく有給休暇にしたからな。思う存分休めるぞ」
エクスカイルがふふん、と得意げに胸を張って宣言する。

「寝る」
「あ、キーリ殿下、お疲れさまー」
「おまえも僕の権限で有給休暇にしておいたぞ! 思う存分休むがいい!」
キーリが立ち上がり、一言だけ残して執務室の出口に向かう。兄二人がそれぞれ掛けた声に無言で頷いて、そのまま出て行った。
王の末子であるキーリ・ヒルカは、本来は宮廷魔術師の立場にあり財務官ではないのだが、資格だけは持っていた事からエクスカイルに強引に巻き込まれて、仕事を手伝っていたのだ。
だが、無口ながらも要領がいいらしく、適度に休憩を挟みながらこなしていたので、倒れる程の疲労は溜めなかったようだ。
本来ならこの二人だって、そういう体調管理ができなければならない立場なのだが、九歳の末弟が一番しっかりしているというのはどういう事か。

あまりの惨状を見かねて、積みあがった仕事が一通り終わるまでは、僕も臨時で手伝った。
僕が財務官としての資格を持っていると知って、エクスカイルは「くっ、こんなところに最終兵器がいたとは……っ」と悔しがったが、人材がほしいなら自分で育てろと、勧誘は突き放した。

「もう一人二人、使える部下がいれば、エディアローズが無理をしてまで仕事に戻る必要はなかったはずだ。部下の育成を放棄した報いがこれだ。少しは反省して今後に活かせ」
そもそもエクスカイルは、なまじ才能が有り余っているものだから、他者を無能と謗って、切り捨てるのに容赦がないのだ。
「あの無能どもを、僕に育てろと言うのか!?」
僕が忠告すると、エクスカイルが柳眉を上げて睨み返してくる。
「……先程まで仕事を手伝ってやっていた者を石化しようとするな」
その暴挙に呆れ果てて溜息をつく。
僕は常日頃から防御の魔術を構築しているから石化を未然に防げたが、他の者ではこうはいかない。

エクスカイルはそれこそ日常的に周りの者を石と化す。その暴挙は誰にも止められない。
だが、石化を恐れて大人がまともに叱らないものだから、こうまで我が儘に育ったのだ。
この問題児にはもう少し、常識を学ばせた方が良い。

「正式な資格を持つ財務官なら、基礎は心得ているはずだ。おまえが指導を怠って、部下を「使えない」まま放置しているだけだ。その態度を改めない限り、何度でも同じ事態が起こるぞ。そうなれば害を被るのは、おまえの副官という名のお守り役を押し付けられたエディアローズだ」
「……っく」
エクスカイルが悔しげに唇を噛み締める。
反論はなかった。拳を握り締めて深く俯く。背が低いので、俯くと表情が見えなくなる。
エディアローズがその様子を見て眉を顰める。
「ヒース、言いすぎ」
「おまえは弟を甘やかしすぎだ」
「長官、ヒースはこう言ってるけど」
「もういいっ! さっさと休め!」
エディアローズが言い掛けた言葉を遮って怒鳴りつけて、エクスカイルはそのまま執務室を走り去った。反射的に後を追おうとしたエディアローズを、僕は手で制する。

「幼いからと、立場ある者を無闇に甘やかすな」
僕に止められてその場に留まったものの、やはり弟が気になるらしく、エディアローズは愁いを帯びた表情で、弟が飛び出していった扉を見つめた。



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