忍者ブログ
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
[41]  [42]  [43]  [44]  [45]  [46]  [47]  [48]  [49]  [50]  [51

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「明日、花が咲くように」 十章 4

三年前、大量の財務官を処罰したせいで、財務省は他に比べ慢性的な人手不足だ。
僕に石化されるのを怖れ、不吉眼の伝承を怖れるせいで、中々新しい人材が入ってこないのも、人手不足に拍車をかけている。

別に、財務官の多くが処罰されるきっかけを作った事自体は後悔していない。悪事を働いた連中が悪いのだ。
けれど、国務を滞らせる訳にはいかない。
僕は、人材不足を補うだけの仕事をしないといけない。

それに、不吉眼が倒れたのも、そんなになるまで気づけなかったのも、上司としての僕の責任だ。
最近、無理をしているような気はしていたのに、年末業務の忙しさにかまけて放っておいたら、何でもないふりしていて、いきなり倒れた。


「無理しすぎだよ、長官」
「ふん。先に過労で倒れた軟弱者の台詞とは思えんな」
「ごめんね」

過労で倒れてから四日経って、不吉眼が執務室にやってきた。それと同時に、その顔を見て、末弟以外の連中がさっさと散っていった。
白魔術で僕の治療をしていた臆病者など、「ごめんなさい~~~~っ」と叫んで、不吉眼の顔を見るなり全速力で走って逃げようとして、途中でつまずいて盛大に転んでいた。滑稽すぎる。

「熱は下がったのか?」
「大体はね」
「……大体?」
僕が胡乱な目を向けると、不吉眼に付き添ってきた魔術師ヒースが、「仕方がない」と溜息をついた。
「何が仕方ないんだ」
「おまえが無理をしているといって、エディアローズが聞かない」
「ねえ長官。もう少し、僕に寄り掛かってよ」
不吉眼が、毛布に包まった僕の頭をそっと撫でる。
普段なら、そんな事は絶対にしないのに。自分から触れる事を極端に避けてばかりだったくせに、一体どんな心境の変化だ。熱で頭までやられたか。

「シュシュ、長官の傍についててくれてありがとう」
僕の毛布の中で丸まっている小動物に、不吉眼が柔らかく笑いかける。
「こいつは書類の山を崩したぞ」
「だけど、この子はあたたかかったでしょう」
「ふん」
無性に腹が立ってそっぽを向いた。
これまでずっとそういうあたたかさを、この小動物にしか求めなかったのだ、こいつは。

「キーリ殿下も、長官を手伝ってくれてありがとう」
兄弟の中で一人だけこの場に残って黙々と机に向かう末弟にも、不吉眼が笑いかける。
無口で無愛想な末弟は無言で頷き、そのまま何事もなかったようにサインを続けた。
こいつは不吉眼を避けるでもなく、懐くでもなく、他の兄弟に対するのとまったく同じ態度を取っている。
こいつは誰に対してもそうだ。国王であり親である相手に対してさえこんなだ。
(僕も、人の事は言えないが)

だが、不吉眼は自分を避けない末弟に対してさえ、「殿下」という敬称を外さない。
こいつはどの兄弟に対しても、殿下とか長官とか敬称をつけて、決して呼び捨てにしないのだ。ヒースの事は呼び捨てにするクセに。

それは、一定の距離を踏み込ませない為の、目に見えない防御壁だ。

避けられるのに慣れすぎて、人と距離を置く事で精神の安寧を計る不吉眼は、とても愚かだと思う。
そういう態度を取らせる周囲の方が、より愚かなのは確かだが。

……本当に皆、どうしようもなく愚かだ。
僕以外は。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→ 「十一章」


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



PR

「明日、花が咲くように」 十章 3

「何故」
「いいから言われた通りサインしろ。僕は最早、利き腕でない左手までろくに動かせんのだ」
「無茶」
「うるさい」

無口で無愛想な末弟の第六王子に、口頭で指示を出す。
無理を押して仕事していたら、なんと本当に腕が動かない状態になってしまった。
それで苦渋の策で、正式には宮廷魔術師であるが一応は財務官の資格も持つ末弟に、代理署名をさせている。

末弟は、幼いながらも腕の良い宮廷魔術師だが、魔術関連以外は単語でしか喋らない、無口すぎる生物である。
意志の疎通ができんから僕はこれが苦手なのだが、不吉眼が倒れ、僕自身も手が動かなくなった今、代理署名をさせられる人材が他にいなかったのだからこの際仕方がない。
他の無能兄弟どもは資格がないから駄目だ。

財務官の資格は、大学できちんと取得しなければならないのだ。僕は飛び級で取得したが、兄弟でこの資格を取得しているのは、僕の他には、不吉眼と無口と気違いだけだ。
資格だけは持っていても気違いは論外だし、他は代理署名もさせられない。消去法でいくと、この無口な末弟以外には任せられるのがいなくなる。

一度、療養を命じた不吉眼が無理に仕事に戻ろうとしたので、僕はヒースを呼び出して、ヤツを王子宮に連行させた。
高熱の病人にまで仕事をさせる気はない。僕は鬼じゃないのだ。
「鬼」
「うるさいわ! 妙な部分だけ以心伝心で心を読むな!

現在僕は執務室のソファーの上で、毛布に包まった状態で、末弟に指示を出している。
ちなみに不吉眼の飼っている小動物も、一緒に毛布に包まっている。そうして押さえていた方が、書類への被害が出ないからだ。

両手がろくに使えなくなったせいで、腹立たしい事に、僕は日常生活すら覚束ない有様だ。この書類の山が終わったら、思う存分有給休暇を取りまくってやる。誰が何と言おうと絶対有給だ。これは譲れない。
あと、慰謝料も請求してやる。この書類の山を作った連中、覚えてろ。僕は恨みを忘れない。

「石」
「……が、…だ」
(誰が石だ)

いかん。段々と意識が朦朧としてきた。
まだ書類は山とある。これを終えるまでは、僕が倒れる訳にはいかないというのに。


「年端も行かぬ子供が無茶をするではないわ」
ナルシストで高慢ちきな第二王女が僕を叱りに来たが、僕はガンとして執務室から動かなかった。
「いい加減に休め、エクスカイル!」
うるさいだけの馬鹿長兄は、当然の如く無視しておいた。
「馬鹿じゃないの」
眉を顰めて、陰気な第三王女が口を尖らせる。これも無視した。手伝える権限がないなら放っておけ。役に立たない愚者はいらない。
「えくす~~~」
シクシクと鬱陶しく泣きながら僕を治療する臆病者は、辛うじて動く左手で一発殴っておいた。


……不吉眼はまだ戻ってこない。
今日も僕は茶色い小動物を抱えて、書類の山と格闘する。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



「明日、花が咲くように」 十章 2

「今すぐ書類を片付けろ、愚か者ども!」
「ひえええ!」

仕方なく、他の財務官を数名呼び寄せて、書類を拾わせ分類させる。
不吉眼以外の財務官は役に立たない事この上ないのだが、この際仕方ない。部下に使える人材がいない事実が腹立たしい。
次世代の有能な人材育成はまだか! まだなのか!?

無駄口を叩く気力も失せてきて、黙々と書類をサインし続けていたら、利き腕が腱鞘炎になった。
それでも仕事は溢れるばかりなので、臆病な第四王子に白魔術で手を治療させて、またサインする。その繰り返しだ。
この臆病者が不吉眼に怯えて近寄らないせいで、わざわざ治療にヒースを呼んだのだ。
兄弟が倒れたというのに治療すらせんとは嘆かわしい。この人非人め。

書類は積み上がるばかりで、いくら臆病者に治療させても追いつかなくなってきて、握力もなくなった。
舌打ちして、ペンと手を包帯で縛り付けて固定する。

(この上まだ書類を追加しようものなら、関係者全員石にしてくれるわ!)
ジクジク痛む手を無理やり動かして、段々と不恰好になっていく文字で署名し続ける。最早書いている僕自身が判読不可能な域にきている。流石にこれは拙いかもしれない。

夜中まで机に向かって唸っていると、ふと、執務室の灯かりに影が差した。

「その状態でサインを続ければ、腱鞘炎が悪化するが」
淡々と述べる相手を、僕は苛々と睨みつける。
いっそ石化すればいいのにという気持ちで強く睨むが、これには大抵の術が通用しない。
不吉眼と違って精霊の加護がある訳ではないが、黒魔術で石化を無効化する札でも持ち歩いているのだろう。
「喧しいわ! 仕事を手伝わんなら、偉そうに講釈たれるな! そして何気に小動物に過剰な餌を与えるな!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、神出鬼没な気違いの第二王子が、頬袋いっぱいに餌を詰め込んだ小動物を片手に、僕の様子を眺めていた。

凶王子と呼ばれるこの次兄は、仕事もせんとふらふら王宮内を彷徨っている気違いで、親兄弟に嫌がらせするのを生き甲斐とする、はた迷惑な生物である。
これが黒魔術を平然と使うせいで、王宮内には藁人形があちこちに出没する。由々しき事態だ。誰か止めんか。
藁人形もだが、その使役者当人も神出鬼没だ。いつどこに現れるか予想もできん。いっそ幽閉すればいいのに。

「この薬を置いていこう。これは、腱鞘炎を悪化させる薬だ」
「悪化させてどうするっ!?」

「くくくく、ははははっ」

「不気味な笑いを残していくなーーー!  それと小動物は置いていけ、この気違いがっ」



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング





忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne