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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 二章 1

二章 『魔術師の考察』




女嫌いの魔術師として有名なこの僕、ヒース・アライアスが、つい先日女の弟子をとった。
自分でも驚きだ。
その弟子、スノウ・シズヴィッドは、紹介状を持っていたとはいえ強気で図々しい言動で僕に弟子入りを志願してきた。
僕はその執念深さに根負けしてしまったのだ。


「遠見鏡を磨き終えました。次はどれを掃除しますか?」

魔導具を磨いていた布を手にしたまま、シズヴィッドが振り返る。
その布でそれまで磨いていた遠見鏡は翳なく、新品同様に輝いている。手入れの仕方は丁寧で文句のつけようがなかった。
ここに来るまでに数人の魔術師に師事してきただけあって、シズヴィッドは魔道具の扱いの基本をきちんと心得ていた。
扱いは慎重だし、わからない事はその度に聞いてくる。
注意すべき点を一度聞けばきちんと覚える辺り、頭の回転も良いのだろう。


「この魔力計測機器を。濡らさず、配線を切らず、傷つけないように注意しろ」
「わかりました」

魔導具は扱いに専門の知識がいる代物であり、金額的に希少な価値を持つ物も多い。
正しい取り扱いを知らぬまま、安易に扱われ壊されるのが一番最悪なのだ。
以前、知人に頼み込まれて渋々弟子にした見習いに、短期間で貴重な魔導具を幾つも駄目にされた苦い記憶がある。
その見習いは早々に追い出したが、その後も魔導具の扱いに自信があると言うので雇った専門の整備士ですら、僕が作成したオリジナルを故障させた。
そういった事態を防ぐべく、最近は手元にある物はすべて自分で手入れしてきたのだが、シズヴィッドが正しい手入れをこなせるならば、作業の効率が随分と上がる。

……僕は女は嫌いだが、有能な人材は嫌いじゃない。


そもそも僕が女嫌いになった原因は、僕の顔や財産や魔術師としての名声を目当てに群がってくる女どもが非常に鬱陶しかったからだ。
そいつらは化粧と香水と笑顔で男を媚びる、外身ばかり着飾った頭の軽い連中で、表では可憐なふりをしようとするくせに、裏では醜い足の引っ張り合いばかりしていた。
僕がまるで靡かないとなると、今度は「男色」だのと不名誉な噂を流す始末だ。タチが悪い。失礼にも程がある。
女が嫌いだからといって、男好きの変態にされるとは屈辱だ。

そんなこんなでいい加減嫌気が差して、女嫌いだと自分で公言するくらいだったから、そんな自分が女を弟子に取るなど夢にも思ってなかった。
……事実、一度はきっぱりと断ったのだ。
だが、この女は諦めなかった。魔術師になりたいという執念で僕に「女と思わなくて結構」と喰らいついてきた。


自分の研究に没頭するふりをして、僕はちらりと掃除する弟子の背を見る。

シズヴィッドは、これまで僕が嫌ってきた女どもとは正反対の、女らしくない女だ。
化粧も香水もつけないし、魔道具以外のアクセサリーもつけない。服は素朴なローブだし、下にズボンを穿いている。
スカートではなくズボンだ。
しかも、馬に乗って出勤してくるのだ。あれには僕も驚いた。

貴族の女が外出するとなれば、ドレスに日傘に馬車というのが常識なのに、この女はズボンを穿いて、供の一人も付けずに、単騎に跨るのだ。
下級とはいえ一応は貴族出身だというのが疑わしく思える程、常識外れな女だ。

とにかく何もかも型破りな女だが、部屋の掃除や魔道具の手入れには、決して手を抜かない。
この屋敷に通うようになってからずっとそういった事ばかりやらせているが、自分の勉強を見てくれと、こちらにせがむ事もない。
僕がこの女を弟子として相応しいかどうか見定めている最中なのを、良くわかっているのだろう。


その忍耐強さは、まあ、悪くない。


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「明日、花が咲くように」 一章 2

「スノウ・シズヴィッド。独学で魔術を学び始めたのは4歳。飛び級で中等学校を卒業後、11歳にて魔術師の内弟子となり、その後3度に渡り、自らの魔力資質が特異であるが故に師事先を変えている」
ヒースがペレ師匠からの推薦状を読む。
「研究分野は「変質」と「節約」。……ふむ。確かにどちらも、国内においては研究が進んでいない分野だな」
「はい」

玄関先でのやり取りを終えて、私はようやく立派なお屋敷の内部に入る事を許された。
現在、広い応接間において、柔らかな感触の大きなソファに座り、館の主であるヒースに向かい合っている。

(それにしても本当に、どこもかしこも立派なお屋敷だわ)
弟子にしてもらうのは無理かもしれない。
そんな、私らしからぬ弱気な考えをどうしても振り払えないのは、私が貧乏だからだ。
魔術の授業料を家政婦として働く事で賄ってきた私にとって、ヒースのこの大きくて立派なお屋敷は、門戸が高すぎる気がする。
ここには、お屋敷を切り盛りするメイドさんや執事さんがちゃんといるのだ。貴族なのに召使い一人いない我が家とは、何もかもが違いすぎる。
メイドさんがもてなしてくれた紅茶も、とても上品な味わいと香りで美味しいし。
とても、家政婦代わりの弟子が必要な状況には見えない。流石はお金持ち。


「確かに僕は多方面の研究に手を出している。おそらく国内で、こんな珍しい研究に本格的に着手している者は、他にはいまい。おまえの師事した魔術師達が手を焼いたのも、僕を推薦した理由も、わからんではない。
……だが、シズヴィッド。本気でこの分野で魔術師となりたいのなら、国外に行く気はなかったのか?」
魅惑の低音で、淡々と訊ねられる。

確かにヒースの言う通り、この国はお国柄か、精霊魔術が大勢を占めていて、他の分野の研究があまり進んでいないのが実情だ。
ここよりも、私の携わる分野の研究が進んでいる他国もある。
けれど、他国に留学するとなると、金銭面で非常に不都合なのだ。
「学業でそれなりの成績を残しても、魔術師としての素質……魔力の総量が平凡な私では、衣食住を補ってくれる程の奨学金を受けるのは難しいですし。
それに、金銭面以外でも、この国を離れたくない理由が私にはあります。病弱な弟を放って家を空けられません。私は毎日、あの子の体調に合わせて薬を処方していますから」
「薬剤師の免許を?」
ヒースがやや意外そうな顔をする。

女の身で、特殊な資格を取って外で働こうという人は、この国ではわりと少ない。
女性は家を守るもの、男性は外に働きに行くもの。そんな古めかしい風習が未だ根付いている土地だから。
けれど私の家では、お父様は家にいてお母様が働きに出るという、世間とは逆の環境だったから、私も物心ついた頃には、自分の食い扶持は自分で稼ぎたいと考えるようになっていた。

「はい。最初の師匠のところにいた時に、免許を取りました。それにお恥ずかしながら、我が家には、家族をお医者さまに診せれるだけの蓄えもろくにありませんし」
恥ずかしながらと言いつつも、私は自分が貧乏なのを隠さない。寧ろ積極的にアピールする。
「弟子に取ってください」と訴えかけるのに簡単かつ有効な手段だから。

「僕は国の補助金を受ける程、金には困っていないが」
「それは見ればわかります」
「僕の助手を務められる程の力量が、果たしておまえにあるか?」
「やり遂げてみせましょう」

私の答えは常に強気だ。
ここで迷っても落とされるだけだから。


魔術師が弟子を取るメリットはいくつかあるが、その中で最も大きなメリットは二つ。
一つは、弟子を受け入れる魔術師には、国から補助金が出る事だ。
これは次世代の魔術師を育成する上で重要なシステムになっている。
私がこれまで家政婦の仕事をこなす条件だけで魔術師に弟子入りしてこられたのも、この補助金制度が大きかった。

そして、弟子を受け入れるもう一つのメリットは、個人研究の助手が得られる事だ。
魔術の知識がない相手ではかえって邪魔になるばかりで、ろくに助手として勤まらない。
研究の手伝いをこなせるなら、師の役にも立って、弟子としての存在意義も果たせる。

私がこの国で魔術師となる為には、天才と名高い彼の元で有能な助手として務められなければならない。
おそらく、他に道はない。
やらなければならないなら、意地でもやり遂げてみせる。
余裕ぶって微笑んで、私は内心の緊張を押し隠した。



「女はすぐに嘘をつく」

ヒースの女嫌いは相当に根深いらしく、結局話題はそこに戻った。
私が女であるという事に、まだこだわっている。
だけど、そんな些細な問題で切られるのは絶対に嫌だ。駄目なら駄目で、もっとちゃんと納得できる理由がないと、私だって引けやしない。

「ならば、男性はすべて誠実だとでも?」
「口の減らない女だ」
「これくらい口が達者でなければ、貴方の弟子になどなれそうにありませんから」

すまし顔で言い切る。
ヒースが苦い顔になったが、気にしない。気にしない。
私の取り柄は、熱意と根性と図太さだ。これまで面倒を見てくれた師匠達だって全員が、最後には私の根性を認めてくれた。
四人目の師になってもらわねばならないヒースにだって、絶対にこの根性を認めさせてみせる。

「可愛げのない」
「弟子に可愛げは必要ですか? 女と思って下さらなくて結構ですと申し上げたはずですが」

再度訴えると、ヒースは渋々といった感じで、しかしはっきり頷いた。

「……いいだろう」
「!」
(やった!)
私は内心で握りこぶしを作って叫ぶ。内心でだけ。
根負けさせればこちらの勝ちだ。これで、魔術師としての道を閉ざされずに済んだ。


「その代わり、僕に惚れたような言動をした場合や、役立たずな無能だった場合は、遠慮なく破門する」
「……わかりました。お役に立てるよう、精一杯務めさせていただきます」
改めて釘を刺され、私は神妙な顔をして頷いた。

なんて自惚れが強いと呆れもあるけれど、壮絶な美しさというのは、時にとんでもない威力を発揮する。惚れてなるものかと自らに言い聞かせていても、これだけの美貌が間近にあれば、ふと心動かされてしまう事だって、有り得ないとは言い切れない。
けれど私は自分の為に、この人には惚れない。絶対にそれで押し通してみせる。
そして、もしも万が一惚れそうになったとしても、決してそれを態度に出さずに、さっくりきっぱり、欠片も未練を残さずに諦めてみせる。

私にとっては、恋愛なんて二の次、三の次。
私はここで弟子となって、いずれはお金を稼げる有能な魔術師となってみせる。


輝かしい未来と、可愛くて愛しくて仕方のない弟が私を待っている。


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「明日、花が咲くように」 一章 1

一章 『女嫌いの魔術師』




「新しく師事してくれそうな魔術師に、紹介状を書いたよ」
「はい、有難うございます」

本日をもって元・師匠となるペレ師匠が、申し訳なさそうな表情で、私に分厚い紹介状を手渡す。
私は神妙な表情でそれを受け取った。
これで、弟子の推薦をしてもらうのは都合4度目となる。
普通に考えるなら、4回も師を替える見習いなんてそうはいない。師を替えねばならない自身の特殊な事情を考えると、どうしても気は重くなる。


……私の名はスノウ・シズヴィッド。
貧乏な下級貴族出身で、性別は女。年齢は16歳。もうすぐ17歳になるが。
まっすぐな銀髪と青い瞳をしている。容姿はごく平凡だと思う。間違っても絶世の美女などと呼ばれる事はない、平均的な容姿だ。
特筆すべき特徴は、私が現在、魔術師になる為の修行中の身だという事か。

お金を払って弟子にしてもらうような金銭的余裕がないので、私はこれまで師の元で家政婦として下働きをする事で、空いた時間に魔術の手ほどきをしてもらっていた。
家事は忙しいし、時間が空かないと勉強も見てもらえないしと不便も多いけれど、お金がない身としては、魔術を教えてもらえるだけで御の字だ。
目立った魔術の才もない貧乏人としては、地道に頑張るしか道はない。

けれど、私の持つ魔術資質と目指している方向性は、魔術師の間でさえあまり普及していないものらしく、このままでは才能を伸ばすにも限度があると、これまで師匠となったくれた魔術師達は、揃って私に新たな師を探すよう勧めてきた。

「君の魔力は、ちょっと変わってるからね」
「はい」
「目指す方向性も、私が研究してるものとは専門が違うし」
「はい」
困ったように言われる元師匠の言葉に、ただ頷く。
確かにその通りだから、大人しく頷くしかないのだ。


私の魔術の資質は「変質」。
そして、魔術師としては平凡な量の魔力しか持たない私が大成する為に、選んだ研究の方向性は、「魔力の節約」。
片手間程度にその手の研究をする魔術師はいても、変質や節約を専門にしている魔術師は、国内には殆どいないらしい。
そりゃあ、最初からもっと使いやすくて実用的な魔術が得意であれば、それを伸ばす方がいいに決まっている。
私の持つ「変質」の魔力は地味で、とても使い勝手が悪いのだから。

けれどそれでも。
溢れるような魔力や魔術の才を持ち合わせておらずとも、魔力がゼロではないなら、まだ可能性はわずかながらも残っていて。
苦労しても構わないから努力したいと思うくらいに、私は幼い頃から魔術師に憧れていて。

だから、諦めない。
諦めたくない。



         *     *          



「女の弟子などいらん。帰れ」
「性差差別は良くないと思います」
「……」
「……」

差し出した紹介状を受け取りさえせずに突っぱねた美貌の魔術師を、私は精一杯のジト目で睨み上げる。

(「魔術師ヒース」。噂では聞いてたけど、こんなにも女嫌いだなんて)

お互い無言で、険悪な視線を交わす。
私の態度は弟子に志願している者としては決して誉められたものではないけれど、ここで弟子に取ってもらえなければ死活問題なのだ。このままでは引き下がれない。

ヒース・アライアスという魔術師は、天才と名高く、美貌でも名高く、更には爵位持ちでお金持ちでもあるという、天賦の才が揃いすぎている事で有名な、国一番の魔術師だ。
世間では、魔術師イコールお金持ちと思われがちだけど、実際はピンきりで、お金持ちもいれば貧乏人だっている。
うちが貴族なのに貧乏なのと同じで、まとめては括れない。
ヒースは顔、金、実力と三拍子揃っているので、積極的なお嬢様連中からやたらと交際を迫られ続け、そのせいで女嫌いになったという噂だ。

艶やかな漆黒の髪と瞳の、神秘的な雰囲気の壮絶な美男。
魔術師なのに体つきも良く、すらりとした長身で、どこもかしこも美しいのに、それでいて男らしい。
私も直に彼を目にして、その美貌が有名になるのも頷けると納得してしまった。

でも今、こちらを睨む切れ長の目の不機嫌そうな事と言ったら。
その目つきの悪さでは、どんないい男も台無しだ。
むしろ美貌だからこそ迫力が増していて、気の弱い子なら、睨まれただけで泣き出すかもしれない。

前の師匠は私に紹介状を手渡す際に、「女嫌いな人だから、簡単には弟子に取ってくれないかもしれないけど、君の熱意と根性があれば、きっと大丈夫だよ。とにかく頑張って」と言った。
だから、扱いが悪いだろうというのはそれなりに覚悟していたし、逆に、これまでよっぽど苦労してきたんだろうと同情すらしていたのだけれど、それでもこれは、初対面の相手にする態度じゃない。
何もかも揃ってるからって、性格が悪すぎだ。


「女は惚れたはれたと面倒だから嫌いだ」
(確かに、貴方の顔に惚れる女は多いでしょうけど)
すべての女がそれに当て嵌まると、最初から決めて掛かられるのは業腹だ。
私にとって一番優先すべきは、甘ったるい恋愛なんかじゃない。

「ならば、貴方に惚れなければいいのでしょう? 私は魔術師になって、病弱な弟を養ってあげるのが最優先なので、恋にうつつを抜かす暇はありません。私の事は女と思って下さらなくて結構です」
きっぱりはっきり言い切ると、ようやく拒絶だけの冷たい眼差しに、疑惑がわずかに混じり始める。
「熱意と根性」。ああ、なんて素晴らしい言葉!
このまま、押して押して押し捲ってみせる。

私には、病弱だけど可愛くて可愛くて仕方ない弟と、貧しい家計を支える為に細腕で働く美しいお母様と、お人好しすぎて商売に向かないけれど、優しい優しいお父様がいるのだ。
立派な魔術師となって家族を養ってみせると覚悟している人間を甘くみるな。

絶対に引かないという気迫で、その場から一歩も動かず睨み続ける私を見て、ヒースは面倒くさそうに溜息を吐く。

「絶対に僕に惚れないと、この場で誓えるか?」
「ええ、誓えますとも」

勿論、即答する。
惚れたはれたで、魔術師としての人生を棒に振るつもりはない。

それに私はリアリストだ。
こんな態度の悪い高値の物件を、ダメ元で追い掛け回す気なんか毛頭ない。

「ならば、惚れたなどと言い出したら即座に破門にするぞ」
「それで結構です」

そこでようやく、ヒースが紹介状を受け取ってくれた。
第一関門クリアだ。




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