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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 一章 1

一章 『女嫌いの魔術師』




「新しく師事してくれそうな魔術師に、紹介状を書いたよ」
「はい、有難うございます」

本日をもって元・師匠となるペレ師匠が、申し訳なさそうな表情で、私に分厚い紹介状を手渡す。
私は神妙な表情でそれを受け取った。
これで、弟子の推薦をしてもらうのは都合4度目となる。
普通に考えるなら、4回も師を替える見習いなんてそうはいない。師を替えねばならない自身の特殊な事情を考えると、どうしても気は重くなる。


……私の名はスノウ・シズヴィッド。
貧乏な下級貴族出身で、性別は女。年齢は16歳。もうすぐ17歳になるが。
まっすぐな銀髪と青い瞳をしている。容姿はごく平凡だと思う。間違っても絶世の美女などと呼ばれる事はない、平均的な容姿だ。
特筆すべき特徴は、私が現在、魔術師になる為の修行中の身だという事か。

お金を払って弟子にしてもらうような金銭的余裕がないので、私はこれまで師の元で家政婦として下働きをする事で、空いた時間に魔術の手ほどきをしてもらっていた。
家事は忙しいし、時間が空かないと勉強も見てもらえないしと不便も多いけれど、お金がない身としては、魔術を教えてもらえるだけで御の字だ。
目立った魔術の才もない貧乏人としては、地道に頑張るしか道はない。

けれど、私の持つ魔術資質と目指している方向性は、魔術師の間でさえあまり普及していないものらしく、このままでは才能を伸ばすにも限度があると、これまで師匠となったくれた魔術師達は、揃って私に新たな師を探すよう勧めてきた。

「君の魔力は、ちょっと変わってるからね」
「はい」
「目指す方向性も、私が研究してるものとは専門が違うし」
「はい」
困ったように言われる元師匠の言葉に、ただ頷く。
確かにその通りだから、大人しく頷くしかないのだ。


私の魔術の資質は「変質」。
そして、魔術師としては平凡な量の魔力しか持たない私が大成する為に、選んだ研究の方向性は、「魔力の節約」。
片手間程度にその手の研究をする魔術師はいても、変質や節約を専門にしている魔術師は、国内には殆どいないらしい。
そりゃあ、最初からもっと使いやすくて実用的な魔術が得意であれば、それを伸ばす方がいいに決まっている。
私の持つ「変質」の魔力は地味で、とても使い勝手が悪いのだから。

けれどそれでも。
溢れるような魔力や魔術の才を持ち合わせておらずとも、魔力がゼロではないなら、まだ可能性はわずかながらも残っていて。
苦労しても構わないから努力したいと思うくらいに、私は幼い頃から魔術師に憧れていて。

だから、諦めない。
諦めたくない。



         *     *          



「女の弟子などいらん。帰れ」
「性差差別は良くないと思います」
「……」
「……」

差し出した紹介状を受け取りさえせずに突っぱねた美貌の魔術師を、私は精一杯のジト目で睨み上げる。

(「魔術師ヒース」。噂では聞いてたけど、こんなにも女嫌いだなんて)

お互い無言で、険悪な視線を交わす。
私の態度は弟子に志願している者としては決して誉められたものではないけれど、ここで弟子に取ってもらえなければ死活問題なのだ。このままでは引き下がれない。

ヒース・アライアスという魔術師は、天才と名高く、美貌でも名高く、更には爵位持ちでお金持ちでもあるという、天賦の才が揃いすぎている事で有名な、国一番の魔術師だ。
世間では、魔術師イコールお金持ちと思われがちだけど、実際はピンきりで、お金持ちもいれば貧乏人だっている。
うちが貴族なのに貧乏なのと同じで、まとめては括れない。
ヒースは顔、金、実力と三拍子揃っているので、積極的なお嬢様連中からやたらと交際を迫られ続け、そのせいで女嫌いになったという噂だ。

艶やかな漆黒の髪と瞳の、神秘的な雰囲気の壮絶な美男。
魔術師なのに体つきも良く、すらりとした長身で、どこもかしこも美しいのに、それでいて男らしい。
私も直に彼を目にして、その美貌が有名になるのも頷けると納得してしまった。

でも今、こちらを睨む切れ長の目の不機嫌そうな事と言ったら。
その目つきの悪さでは、どんないい男も台無しだ。
むしろ美貌だからこそ迫力が増していて、気の弱い子なら、睨まれただけで泣き出すかもしれない。

前の師匠は私に紹介状を手渡す際に、「女嫌いな人だから、簡単には弟子に取ってくれないかもしれないけど、君の熱意と根性があれば、きっと大丈夫だよ。とにかく頑張って」と言った。
だから、扱いが悪いだろうというのはそれなりに覚悟していたし、逆に、これまでよっぽど苦労してきたんだろうと同情すらしていたのだけれど、それでもこれは、初対面の相手にする態度じゃない。
何もかも揃ってるからって、性格が悪すぎだ。


「女は惚れたはれたと面倒だから嫌いだ」
(確かに、貴方の顔に惚れる女は多いでしょうけど)
すべての女がそれに当て嵌まると、最初から決めて掛かられるのは業腹だ。
私にとって一番優先すべきは、甘ったるい恋愛なんかじゃない。

「ならば、貴方に惚れなければいいのでしょう? 私は魔術師になって、病弱な弟を養ってあげるのが最優先なので、恋にうつつを抜かす暇はありません。私の事は女と思って下さらなくて結構です」
きっぱりはっきり言い切ると、ようやく拒絶だけの冷たい眼差しに、疑惑がわずかに混じり始める。
「熱意と根性」。ああ、なんて素晴らしい言葉!
このまま、押して押して押し捲ってみせる。

私には、病弱だけど可愛くて可愛くて仕方ない弟と、貧しい家計を支える為に細腕で働く美しいお母様と、お人好しすぎて商売に向かないけれど、優しい優しいお父様がいるのだ。
立派な魔術師となって家族を養ってみせると覚悟している人間を甘くみるな。

絶対に引かないという気迫で、その場から一歩も動かず睨み続ける私を見て、ヒースは面倒くさそうに溜息を吐く。

「絶対に僕に惚れないと、この場で誓えるか?」
「ええ、誓えますとも」

勿論、即答する。
惚れたはれたで、魔術師としての人生を棒に振るつもりはない。

それに私はリアリストだ。
こんな態度の悪い高値の物件を、ダメ元で追い掛け回す気なんか毛頭ない。

「ならば、惚れたなどと言い出したら即座に破門にするぞ」
「それで結構です」

そこでようやく、ヒースが紹介状を受け取ってくれた。
第一関門クリアだ。




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