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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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11、科学兵器は妖精によって駆逐され

魔法と科学が融合し高度な発展を遂げているこの『クロヴァーシュ』には、現在、銃以上の科学兵器は存在しない。
勿論そこには、列記とした理由がある。

以下、私が読んだ本の中からその理由を抜粋してみる。


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かつて科学が発展を始めた頃に、人類にとって『見えない破壊者』として、魔物より怖れられた存在がある。それが『妖精』だ。
彼らは瞬時に人を、街を、あるいは国を丸ごと滅ぼしていった。
予兆もなく突然に訪れる絶対の死。人々は正体も理由もわからぬその理不尽な死に恐怖した。
だが、人類の多様な文化に愛着を持つ異種族が、人々に助言する。
その異種族はウト族と呼ばれる。
額に第三の目を持ち、長い耳をしており、エルフより長い寿命と竜より強い肉体を持つ、個体においては最上級の力を持った少数種族だ。
人々には古くから神族と崇められた種でもある。


彼らは忠告した。

「世界の秩序を壊すものは有害とみなさせれる。一匹の巨大な竜が暴れても、それは世界の秩序の内。けれど科学兵器はそれよりも桁外れの破壊力を生み出した」
「世界を壊す力は害である。それを造り出す種族もまた、害である。それは世界の毒と呼ばれる魔物よりも恐ろしい脅威だ」
「妖精によって滅ぼされた街は、その周囲の環境を無秩序に壊していた。妖精によって滅ぼされた国は、科学兵器によって、多大な被害を齎した国である」
理不尽な死ではなく、裁きには確固たる理由が存在するのだと彼らは説いた。

「秩序を守る妖精の裁きより逃れたければ、兵器を捨てて自然を守れ」
世界は人という種を絶滅させてでも、己を守ろうとする。
妖精の裁きは、それを指し示すものである、と。


―――――初め、人々はその説を否定した。
彼らを神族と崇める風習も、科学の発展とは反比例して廃れかけていた時代だ。
科学信仰こそが最も盛んだった当時、個々としては弱い種だった人類が、自らが得た強大な力を捨てろというその言葉は、多くの人々にとって受け入れられるものではなかったのだ。

けれど、決して防げぬ不可解な死や破壊が度重なる程に恐怖は増し、次第にウト族の教えに従う人々が現れ始める。
科学技術が浸透していない地域では特にそれが早かった。

「そもそも、科学技術の全てを捨てなければならない訳ではないのだ。兵器を捨て、過度の環境破壊を止めればいい。そうすれば、この恐怖から救われる!」

それを信じ、実行した人々が生き延びた。
それを信じずに、人類こそが世界の頂点に立つ種族とのぼせ上がった人々は、国々は、次々と滅んでいった。

そして、結果がはっきりと出るにつれ、ウト族の言葉を信じる者は急速に増えていき、同時に妖精による兵器の粛清も着々と進んでいき、……やがて世界から、強大な兵器は消えていった。

人類を支えるエネルギーは、二酸化炭素を出すガスからクリーンな電力へ変わった。
科学技術は医療や環境保全など様々な分野で大いに活躍したが、兵器への転用は徹底して禁じられた。
風力や地熱といった自然によるエネルギーを利用する研究が積極的に推進され、生態系が壊れかけていた世界は、その未来を大きく変えた。
自然を壊さずに済む技術を得た事によって、人々はようやく、妖精の裁きから逃れられる道を見い出した。


異世界より落ちてきた者達の中には、ここ以上に科学が発展した世界から来た者もあった。
科学技術のみが特出した世界から落ちてきた者達は皆、妖精の存在とその役割を知ると感嘆した。
世界の秩序を守る存在がなく、科学の発展に伴って荒廃していった、元の世界を知るが故に。
異世界人の「科学技術による世界の荒廃」の話は広く伝えられ、後世にも残された。


今でも人々は小さい頃から、自然の大切さと妖精の恐ろしさを何度も学ばされる。
そこまでしても、科学に溺れて制裁を受ける存在は、未だ完全には無くなっていないのが現状だが。
それでも人の心には妖精への怖れが深く根付いており、自然環境は彼らへの恐怖によって、人の手から守られている。


「この世界は人類だけのものではない」

傲慢になりがちな人々を戒める、絶対の秩序の守り手が、この世界には存在する。
それを忘れれば悲劇は再び繰り返され、今度こそ人類という種そのものが絶滅するであろう。

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私はこの本を読んだ時、(妖精の方が神様っぽい気がするな)と思った。

裁かれる人々にとって、恐ろしく無慈悲な存在であった『それ』を、『神』と認識できなかっただけで、世界の秩序を守る『妖精』こそが『神』なのではないか、と。
そして、ウト族は『神族』というより『神の使い』のような立場ではないのかと。
……最も、私は所詮、一介の異邦人に過ぎないのだし、この世界の歴史をあれこれ指摘する気はない。価値観なんて世界が変われば180℃変わってもおかしくないのだ。

ともかく、この世界には妖精がいるから、魔物退治も剣と魔法と銃という地道な方法で対処するしかない。
魔物だって強力な個体ならば国一つ滅ぼせるようなのも稀に存在するというが、そんな大物が実際に人口の多い都市部で大暴れする確率は低い。
だが妖精は、人が道を間違えれば必ず裁くのだ。しかもそれは前触れもなく、目に見えぬ圧倒的な力でもって、一瞬で為されるのだ。恐ろしい。

私も、日本にいる時のような気持ちで無意識に何かやらかして、妖精の怒りを買うハメになったらと考えると、とても恐ろしい。
日本にいた時だって、ゴミの投げ捨てなんて絶対しなかったけれど、ここは日本とはまるで違う。(即座に己の命に関わる可能性が高いとなれば、誰だって環境問題に厳しくなるし、普段から気をつける)

妖精の事を知らなかった頃は、街中の澄んだ小川に魚がいるのを見て、「こんなに科学が進んでるのに、自然も豊かなんてこの世界は凄いな」などと無邪気に感動していたが、妖精事情を知った今となっては、「もっと早くに妖精の事を教えておいて欲しかった」と、教育係のクロス教官を恨んだりした。

正直、ファンタジーな世界に来れたのは嬉しいが、妖精の存在だけは、非常に怖くて仕方ない。
この国の誰かが核兵器でも作れば、国ごと滅ぼされるのに巻き込まれるかもしれない。
そう思うと、冒険で死ぬよりずっと理不尽な気がして、常に見えない恐怖が付きまとうから。



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