残り三年しか生きられない人を、残りの寿命が五年ある人が、己が命を引き換えにして助けるとする。
そうなると、二年分の命が無駄になる。
そんなふうに簡単に物事を割り切れないのが、人の世の常である。
時に一人の為に千の命が奪われ、時に千の命の為に百の命が犠牲にされる。人の世は常に理不尽で満ち満ちている。
本能に従う動物ならば、弱肉強食の掟で、命の無駄は出さないか。
あるいは彼らであっても、そこまでの整合性は求めていないか。
強き者が弱き者を虐げ、搾取する。
それは人も他の生物も同じであろうに、人のそれだけはどこか歪だ。
それは複雑な思考回路を持ちすぎた代償か。
もしくは、果てのない欲望を抱く性質故か。
人類の進化は、自然という枠から大きく外れて突き進んでいる。
故に人という種はこの星の奇形児であり、いずれこの星を滅ぼす原因となるだろう。
破滅の未来は容易に思い浮かぶも、それを回避する確実な術を、未だ、誰も知らずにいる。
散文目次へPR