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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「魔界令嬢」 5、依頼

近隣諸国の情勢とか、人気のある王子さまとか。一通り、聞きたい情報を教えてもらった。
岩爺はこの森の魔物の主だから、森に来る渡り鳥の魔物などから情報を仕入れたりして、とても物知りなんだって。
わたしの目的を聞いて、面白そうにカラカラと笑って、色んな噂話を教えてくれた。

その後で、岩爺が別の話を切り出した。
「ところで嬢ちゃん、余裕があるなら、ワシの頼みごとを一つ聞いてくれんか」
「頼みごと?」
顔見知りのアズにではなく、わたしに頼むのは、わたしが主体になって人間界にやってきたからね、きっと。
この面子の中ではっきりとした旅の目的があるのは、わたしだけなんだもの。

「そうじゃ、この森には流れの猟師がいたんじゃが、そいつがしばらく前に死んでしまって、その幼い娘が、一人で小屋に残されておるんじゃわい。その娘を連れていってくれんか?」
「まあっ、たった一人で?」
意外な頼まれごとにびっくりする。
魔物って、大抵は人間と敵対してたりして、仲が悪いイメージだったのだけど、この岩爺は違うのかしら。
(それに、親が死んで一人で残されたなんて、まるでわたしみたい。他人事とは思えないわ)
話を聞いただけで、俄然、その娘さんが気になってくる。

「急ぎの旅じゃないですから大丈夫です。その子をどこに連れていけば良いですか?」
わたしが意気込んで頷くと、岩爺が嬉しそうにほっほと笑う。
「そりゃ~ありがたいわい。まあず、一番近い村は駄目じゃな。余所者じゃって、猟師が死んだ後もだ~れも娘を引き取らんかったでな。じゃから、どっかの街の孤児院にでも連れてってくれると嬉しいんじゃがの」
「わかりました」
一番近い村はダメと、わたしは脳内で反芻する。
森に一人きりで残された子供を放っておくなんて、なんて薄情な村なのかしら。
そりゃ、貧しい村では、余計な食い扶持を増やす余裕なんてないのかもしれないけど。
でも、放っておけば確実に死んでしまうとわかっていて放っておくなんて、やっぱりひどいわ。

「岩爺が人間なんか気にするなんて珍しいね」
アズがまたたきして小首を傾げた。
そういうって事は、普段は岩爺も、人にやさしい魔物じゃないのかもしれない。

「猟師は余所者じゃったが、村のモンよりよっぽど森に対する礼儀がなっとってな。それに、その娘はまだ幼いんじゃが、殆ど目が見えんのじゃわい。このまま森に一人でおれば、遠からず獣にでも襲われて死んでしまうからのう。
ワシは元来、人間などどうでも良いのじゃが、ちいっとばかし不憫に思えての~」
気まぐれでも、ちょっとばかしでも、気にかけてくれる相手がいて良かった。

「その子のいる場所を教えてください。きっと、面倒を見てくれる孤児院まで連れていきます」
人間界について早々、目的とはまったく別の用事ができたけれど、これも何かの縁だもの。わたしが責任もって、その子をちゃんとした孤児院まで送り届けよう。



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「魔界令嬢」 4、岩爺

結局、「鞭は扱いが難しいから、ユエには無理だよ」と黒い鞭をアズに取り上げられて、わたしは懐剣だけを持った。
他の物はまとめてウリの体内異空間にしまってもらう。これでようやく身軽になる。
それからアズが、まずはここの森の主である魔物から情報をもらおうと言ったから、わたしたちはその大きな岩の前までやってきた。

わたしとウリだけでは、魔界でも人間界でもわからない事だらけで、意気込んで飛び出してきたけど、この後どうすればいいのか、具体的な計画はなかった。
だから、見た目が幼児でも年長者のアズが一緒にきてくれたのは良かったかもしれない。これからどう行動すればいいのか、不安にならなくて済むもの。

森の主はとても巨大な石の塊のような魔物だった。動きも喋りもしなければ、ただの巨大な岩石にしか見えない。苔も生えてるし。アズがいなければすぐ側を通っても、きっと魔物なんて気づかなかった。
だから割れ目だと思ってた部分がぱっちり明いて、ぎょろりとした大きな目で見られた時はとってもびっくりした。

「ほっほ~、アズ坊か。こりゃ~懐かしいわい」
やっぱり割れ目だと思ってた部分が口だったらしく、低くしゃがれた声で喋る。アズは気さくに挨拶する。
「やあ、百年ぶりかな、岩爺」
「八十九年ぶりじゃ、まだ百年経っておらんわい」
(は、はちじゅうきゅうねん……)
わたしは兄がどれだけ生きているのか知らないが、今の会話では、少なくとも百歳は越えてる模様。わたしと接している時のアズは、子供がちょっと背伸びしているみたいなイメージで、わりと普通な気がしてたけど、やっぱり中身は普通じゃないのね。

「そっちのチビたちは、おまえさんの身内か?」
「妹のユーエリシェンと、妹の従者のウーリィだよ。可愛いでしょ」
「は、はじめまして。ユエです」
「こんにちわ、ウリなのです~」
わたしとウリはぺこりと頭を下げる。
森の主っていうくらいだから、きっと偉い魔物だわ。ちょっと緊張する。

「お~、アズ坊が珍しく気に入っとるようじゃの」
「面白いものは嫌いじゃないからね。毛色が違ってて楽しいよ」
「ええっ、にいさま、その言い方はひどいわ!」
「ぼく、青いうろこなんです~!」
わたしはアズに抗議して、ウリは喜んで答えた。
ウリは精神的に幼すぎて、アズの皮肉が通じない。でも、そこは喜ぶところじゃないの!
「もうっ」
「ユエ、にいさまじゃなくて、アズって呼ぶって言ってたじゃないか」
「う、そうだったわ。でもアズ、毛色が違うなんて、動物みたいな言い方はやめて」
「はいはい、ユエはわがままなんだから」
わたしが頬を膨らませても、アズはちっとも堪えない。むしろわたしが怒るのを楽しんでいるような気がする。

「ほっほ~、素直な嬢ちゃんじゃわい」
岩爺はわたしたちのやり取りを眺めて、面白そうに笑った。



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「魔界令嬢」 3、武器

「ウリ、宝石と人間界のお金と、ちゃんと交換できた?」
「できましたあ」
確認すると、ウリは嬉しそうに頷いた。
「すごいわウリ」
「えへへですう」
感心して褒めると、照れながらぴょんぴょん跳ねる。
ウリは最初に会った時からこんなふうに素直で、従者というよりは弟か妹みたいに思ってる子だ。実際の年齢も、わたしより下だし。
この子は前からおつかいで街に出かける事が多かったから、荷物の手配を任せたんだけど、問題なかったようでほっとする。
ウリは身軽な服装で、荷物なんて腰に提げたポシェットだけだけど、それは大丈夫。
ウリは自分の体内に無限の容量を入れておけるから。必要な荷物は全部、体内の異空間の中ってわけ。

「わたしも、武器はちゃんと持ってこれたわ」
公爵の城の武器庫にはとても忍び込めないけど、アズが暮らす屋敷の武器庫ならなんとか忍び込めた。
ちなみにわたしは、その屋敷の離れに、部屋をもらって暮らしてた。
腹違いの兄弟は数が多すぎて、名前や顔どころか人数すら把握してないけれど、アズだけはわたしの世話を焼いてくれた。
恵まれてると思う。父と会う機会がなくても、特に不自由はなかった。
従者になってくれたウリはいい子だったし、アズがいてくれたから寂しさも殆どなかったもの。
(屋敷を抜け出す時、アズに見つかったのは予定外だったけど)
でも、ついてきてくれるんなら心強いって思ってる。何だかんだ言っても、アズはやっぱり、頼りになる「にいさま」だもの。

「これはウリ用の武器ね。小さくて軽いから、扱いやすいと思うの」
わたしは抱えていた布の包みを広げて、そこから小さなナイフと短剣を取り出して、ウリに渡す。
「はいー」
ウリが小さなナイフを懐にしまって、短剣を腰に提げる。鎧はないけど、ウリは本体が魔竜だから、鱗がそのまま強固な鎧だ。人の姿をしていても、滅多な事じゃ怪我なんてしないの。
これで、小さな騎士のできあがり。

アズが不思議そうに、地面に広げた布の上の品々を見た。そこにはまだ、武器や道具が色々転がってる。
実は何が良いかわからなくて、自分で持ってこれそうな物を適当に詰め込んだのよね。
ウリは従者の嗜みとして剣術を習ってるって知ってたから、実用的な飾り気のないナイフと、細かい細工の綺麗な短剣ってすぐ決められたけど、肝心の自分の武器はどれにすればいいのかわからなくて、本当に適当に見繕ってきた。

「ユエは何の武器にするの?」
「そ、そうね。わたしはこれにしようかしら」
アズに問われて、どうしようと悩む。布の上には、持ち運びしやすいような軽くて小さな武器が転がっている。わたしはその中から黒い鞭を手に取った。

「鞭?」
「ええ。だって、お嬢さまといえば、鞭でしょう?」
「違うよユエ。女王さまといえば鞭、だよ。お嬢さまと鞭は何の関係もないよ」
「ええっ!? そうなの!?」


わたしはショックで、鞭をぽとりと地面に落とした。



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