「おぬし、数年前から時折、この始まりの森にていびつな網を仕掛けては、精獣らが逃げ惑うのを、嘲笑うような余興をしておったろう?」
その言葉に、目の前が真っ赤に染まるような錯覚がする。
「そんな、余興なんて! ひ、ひどいです! 私は真剣に、精獣を召喚して、契約を交わしたくて頑張っていたのに!」
まさかまさかまさか、そんなふうに思われていたなんて!!
「……アレでかえ?」
やや呆れを滲ませた、姫の問い。
本気で私の召喚術をタチの悪い悪戯だと思っていたのが伝わってきて、憤りより、いっそ切なさが上回った。
精獣の側からそんなふうに見られていたと知って、もう悔しいやら情けないやらで、相当変な顔になってそうだ。
「精一杯、力の限り頑張って、これなんです!!」
「これは偏った変質の魔力性質を持つ故、精霊からも避けられる存在。しかしながら、魔術師への意欲を人一倍持つ者でもあります。召喚に関しても、ただ技が未熟であるだけで、決して悪意からの行動ではない事を、ご理解いただきたい」
もういっそ自棄になって叫ぶ私の後を、師匠が冷静に補足する。
「ではまことに、同胞をからかう気はなかったと?」
「契約したくともできぬ状況であると言う他なく。そちらに誤解を与えるような指導しかできなかった事を、師として、私からも謝罪いたします」
師匠にまで謝らせるハメになってしまい、私はどん底まで落ち込んだ。
「なんと拙い! あれがわざとではないとは、一体どんな不器用者かえ」
姫は大きく目を見開いて、心底驚いた表情で私を見つめた。人とは違う鳥の顔でも、ここまで素直に驚かれては、その表情も読み取れる。
「う、ううう」
「泣くな」
師匠が後ろから拳骨で私の頭をグリグリする。地味に痛い。
「泣いてません。ちょっと泣きたい気持ちではありますが」
「ぬ、どうやら、妾の勘違いであったようじゃ。同胞が戻って来ぬ件と、おぬしに関連があると思い、強引に呼び寄せた。すまなかったの」
姫が申し訳なさそうに謝ってくれた。根は良い人(鳥?)なんだと思う。素直に間違いを認めて謝罪してくださるんだもの。
それに少し冷静になってみれば、姫の勘違いも仕方がないと思えてきた。私が召喚術を試す度に、近場にいた精獣たちが逃げ惑っていたというなら、本当に大迷惑な行為だったろう。
「いいえ、姫。私が拙い技で迷惑を掛けていたと知らずに、闇雲に召喚を繰り返していたのが悪かったのです。姫のおかげで、自分の悪い点を知れました」
私は姫に頭を下げた。
いつまでも落ち込んでいても仕方ない。
今後、どうすればいいのかはまだわからないけれど、少なくとも今のやり方では精獣と契約するどころか、迷惑にしかなっていない現状を知れただけ、変化はあった。
悪いところを直せればまだ希望はあると、前向きに思わなければ。
「それより、精獣が連れ去られたまま戻ってこない問題の方が、極めて重大かと。いにしえの盟約を破りかねない危険なやりようは、決して見過ごせぬ事。私が早急に調査しましょう」
誤解が一通り解けたところで、師匠が改めてそう切り出した。
魔術師全体に関わる問題という意味では、そちらの方がよほど重要だ。
それは確かに放っておけない。すぐにでも真相を調べなければ。
「そうじゃな、おぬしに任せるか。妾の父上も、「人の世界のあやまちは人によって裁かせよ」と言うばかりで、我らの介入に良い顔をせなんだ。妾は黙って見ているのは性に合わんが、やはり人の事は人に任せるのが良いのやもしれぬ」
姫は己の手で解決に乗り出せないのが不満そうではあったが、結局はそう言った。もしかしたら私を間違って呼び寄せたのに責任を感じて、人に任せた方が良いと引き下がったのかもしれない。
でも、考えてみれば、姫の行動のおかげで私とともに「称号持ち」だという師匠が釣れて、いち早く重大な異変を知れた訳だから、結果的にはこれで良かったんじゃないだろうか。
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わざとでない、ね