正午過ぎ、軽い昼食をお父様と二人で摂る。
ルルは小食の上に朝食が遅いので、お昼は食事を摂らない。本当は三食きちんと食べてくれた方が健康にも良いし私も嬉しいのだけど、無理やり勧める事もできず、悩みの種だ。
午後からはお父様と一緒に図書館に行って、その帰りに日用品の買い物をする。
露店に可愛らしい小物があると、「これはエレインさんに、こっちはスノウさんに似合いそうですね」なんて、お父様が立ち止まってしまうから、私はお父様の腕をぐいぐい引っ張って、露店の前から急いで離れる。
お父様は露天商の人から言葉巧みに勧められるとはっきり断りきれなくて、つい余計なものまで買ってしまうような人なのだ。
「無駄遣いは駄目です、お父様」
露店を離れてから私が腰に両手を当てて睨むと、お父様は困ったような顔をされて微笑まれた。これも、毎週のように繰り返される光景だ。
買い物から帰ってきた後は、夕食を作りながらお父様からお料理のコツを教わった。
平日なら私の方がお母様より遅く帰ってくるくらいだけれど、今日は私が家にいるので、お母様が帰って来るまで待って、家族揃って食卓を囲んだ。
具合が悪くない時はルルも一緒だ。家族が揃うと嬉しくなる。
私の為のドレスの色や型の話題が出たり、ルルが読んでいる本の話が出たりして、話をしながら和やかに食事をする。
私が師匠や殿下の話題をすると、楽しげな笑い声も上がる。
私と、王都でも有名な人達との心温まる(?)エピソードは、話を聞く家族にとってはおかしくて仕方がないらしくて、皆よく笑って聞いてくれる。
私としては笑い話のつもりではない部分でさえ、笑われてしまう時もある。
私の普段の何気ない言動が、家族にとってはおかしく感じる部分があるらしいのだが、「スノウさんはそれでこそスノウさんです」とお父様が言うのだから、別に悪い事ではないのだろう。
ルルだって、尊敬するように眼を輝かせて、私の話を聞いてくれているのだし。
夕食の後は、お風呂をたてて順番に入りながら、居間でそれぞれ借りてきた本を読む。
こうして夕食の後の一時を一緒に過ごすのは、家族で共に過ごす時間を少しでも増やしたいからでもあるし、部屋の灯かりの代金を節約する為でもある。
夜、二階の自分の部屋に戻って、ベッドに横たわる。この寝る前のわずかな時間が私は苦手だ。
疲れてすぐに眠れるのならいいのだけど、暗い部屋に一人でいると、不安になってしまうから。
いつまでも芽が出ないのに、私は私自身の夢を追っている。十三歳で中等学校を卒業してから、もう三年が経った。
家の事を考えるなら、いつまでも弟子として修行しながら魔術師を目指すより、働いてお金を稼ぐか、爵位が欲しいお金持ちにでも嫁いだ方が確実だけれど、お父様もお母様も、決して、そうしなさいなんて言わない。
「自分の人生を悔いのないように精一杯生きてください」と、いつだって優しく、私の夢を応援してくれる。
だからこそ、夢を諦める時には、私は自分で決断を下さなければ。
時間は無限ではない。できる限り精一杯やって、それで駄目なら諦めるより他はない。
(だけど、まだ、諦めたくない)
諦めたくないから、全力で頑張っている。いつか結果が伴う日が来ると信じて。
早く眠れればいいのに。
不安を覆い隠す夜が過ぎて、いつもの朝が来ればいい。
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