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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 九章 7

私は師匠の馬車で、自宅から王子宮までの間を送迎してもらう事になった。
王宮に単騎で入れるのは軍を除けば一部の上級貴族だけなので、アライアス家の馬車でなければ出入りに手間取るからだ。

王子宮は、それぞれに割り当てられた区画がかなり広かった。
エディアローズ殿下は他に供もいないから、割り当てられた区画の殆どを使用していない。
逆に第一王子は、側仕えの従者だけでなく、王子妃やその侍女もともに暮らしていて、かなりの大所帯だという。
宮内は専門の女官が生活全般を管理しており、エディアローズ殿下の区画にも、彼女たちは毎日、定期的にやって来る。だけど皆最低限の仕事だけをこなして、そそくさと立ち去ってしまう。

住まいが広く立派である程に、孤独がより浮き彫りになる。
お見舞いの品も、藁人形から以外は一つも届かない。他のご兄弟がお見舞いに来られる事もない。

(ここの暮らしはとても寂しい)
貧しくてもあたたかな家庭で育った私には、殿下の心にどれだけの傷があるのかさえ察してあげられない。人気のない回廊を通る度に、それを思い知る。


ふと音楽が聴こえて、私は足を止めた。
辺りを見回すと、木陰に座る人影を見つけた。影になってよく見えなかったけれど、多分、若い男性。
竪琴で奏でられる静かな調べは、「別れの曲」。……死者への手向けに贈られる、鎮魂歌の一種だった。
高熱で寝込んでいる人の近くでそんな曲を奏でるなんて、なんて縁起の悪い。

……鉢植えの花を思いだす。あれが嫌がらせなら、この曲を奏でる竪琴の主もまた、嫌がらせを趣味とする人物だろうか。
(ならもしかして、あそこに座っているのが、第二王子のアルフォンソ・シアン殿下?)

師匠は放っておけと言っていたし、エディアローズ殿下も苦笑するばかりで、兄君の嫌がらせに文句を言うでもなかったけれど。一つ一つは害がなくても、こんな立て続けに嫌がらせを続けられると、精神的に参ってしまうのではと心配になる。

私の身分では、王子殿下に対して文句など言えない。私がここで問題を起こしたら、困るのはエディアローズ殿下やヒース師匠だ。
わかっているから無言で通り過ぎようとしたのだけど、好奇心に負けてもう一度、木陰の人影にちらりと目をやってしまった。

……。
(、あ――――?)

目が、合った。

(むらさきのひとみ?)

光沢のある白く長い巻き毛に、宝石のように鮮やかな、深い紫色の瞳。
中性的な美貌には、記憶に懐かしい面影があった。

「……あっ!」

……記憶の糸を手繰り寄せるまでもなく、私はその人を知っていた。
忘れられるはずがなかった。

考えるより先に、そちらへと駆け出す。
多分、ものすごい形相で、ものすごい勢いで駆け寄ったんだと思う。その人は驚いた顔で、竪琴を奏でる手を止め、私を驚いた表情で見た。

「どうした、娘?」
「あのっ私っ!!」

間近まで駆け寄って膝をつき、ぐいっとその顔を覗き込む。
左目の目じりに泣き黒子。右手の甲に、斜めに走る刃物の傷。それらを確かめて確信する。決して人違いではないと。

(ああ、やっぱり)

この時私は、不敬だとかそういうのが完全に頭から抜け落ちていた。
というか、目の前のその人が王子殿下だという仮定すら忘れていた。
ただ、感激のあまりその人の手を取って、ぎゅっと握り締めて必死で訴えた。

「私、昔貴方に助けられた者です! 攫われて閉じ込められた時、貴方に逃がしてもらった内の一人です!」



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「魔界令嬢」 目次

「魔界令嬢」
ジャンル:異世界ファンタジー
最終更新日:09.07.25  5、依頼

1、家出  2、従者  3、武器  4、岩爺  5、依頼
魔界公爵のご令嬢であるユエは、元は人間界育ちで母は人間という、中途半端な存在だ。
多夫多妻が当たり前な魔界ではまともな恋ができないと、人間界に家出して、王子さまとの素敵な恋を夢見るものの、その道は前途多難で……。



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「魔界令嬢」 2、従者

次元を歪めて界と界を繋げてある洞窟を抜けて、ようやくわたしは、かつて暮らしていた世界へ戻ってきた。
洞窟の外は深い森が広がってる。
父に引き取られて以来、人間界に来る事はなかったから、もう五年ぶり。
わたしは十八歳になった。でも見た目は十五歳。魔族の血を半分引いてるから、老化が止まってるの。
その上、半分は人間なものだから、アズのように好きに年齢に姿を変えられない。ちょっと不便ね。

「ユーエリシェンお嬢さま?」
「ウーリィね?」
「はいっ」

木の影からこっそり顔を覗かせる相手を見つける。声を掛け合って確認すると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
青い髪に青い瞳の七歳くらいの外見のこの子は、私の従者。
わたしを迎えにきた父の配下が、自分の子供を私の従者にしてくれたのだ。
ウーリィ……ウリは、見た目は少年っぽいけれど、普段は性別がない無性体で、繁殖期には雌雄どちらにもなれる種族なの。
こうして人の形にもなれるけど、本当の姿は青鱗の魔竜。
この子は幼竜だから、まだわたしを乗せて飛べるような大きさにはなれないけど、いつか大きく育ったら、騎竜も兼ねてくれるっていう。楽しみだわ。

「ユエ、もしかしてウリに先行させてたんだ?」
「そうよ。わたしが武器庫でこっそり武器を調達してる間に、ウリに街で宝石を換金してもらって、人間界で必要なお金や装備を揃えてもらったの。身一つで出てくるなんて怖い事しないわ」

最初から、この洞窟の出入り口で落ちあう計画だった。
ウリはわりと上位の魔竜だから大丈夫だと思ってたけど、小さい子を一人で先行させたのはちょっと無茶だったかもと心配もしてた。でも無事で良かった。

「アズリさま、どうしてこちらに?」
ウリが予定外の相手がいるのにびっくりする。

「うん? ユエがこっそり屋敷を抜け出そうとするから、心配になって、ついてきてあげたんだ」
「だいじょーぶです。お嬢さまは置き手紙に、「ちょっと遊びにいく」って書いたです。ぼくはお嬢さまの従者だから、いつもお傍にいて、お世話しなくちゃなんです」

ウリが能天気に言い募る。
それで済むならいいんだけど、多分、そう簡単な話じゃない。
いくら父が究極の放任主義で、引き取られた時に一度会ったきりとはいえ、父の配下が子供の好き勝手を許すとは限らないし。
帰ったらどうなるか、考えるとかなり怖い。

でも、わたしはまともな恋がしたくて、我慢しきれずに飛び出してきてしまった。
もう後戻りはできない。



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