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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 九章 8

約十三年前、私が四歳の時の事だった。夏祭りにはしゃいでお父様とはぐれてしまったのは。
迷子になって一人で歩いてる時に人攫いに連れ攫われ、薄暗い倉庫に閉じ込められた。

そこには三人、同じ境遇の子がいた。私と同じくらいの背丈の栗色の髪の姉弟と、白い巻き毛の十二歳前後のお兄さん。
幼い姉弟には怪我はなかったけれど、お兄さんは右手の甲に怪我をして、その怪我を手で押さえて、苦しそうに息を吐いていた。暗闇の中でも彼の顔色はとても悪くて、病気な人なのかもしれないと心配になった。
私は、彼におずおずと近づいて、まだ血を流し続けるその手の傷に、ハンカチを巻いた。

「ぐあい、わるそうです。だいじょうぶですか?」
「問題ない。日頃から毒は耐性をつけている。この程度では死にはしない」
「どく……?」
「何でもない」
病気で具合が悪いのだと思っていたら、彼はそう答えて、弱々しく首を振った。

「ねえちゃん、ぼくたち、どうなっちゃうの」
「わかんないよう。ひっく」
抱き合って震えていた顔立ちの良く似た姉弟が、泣き出してしまう。
私も、これからどうなるのか全然わからなくて、どう言っていいのかわからなかった。

攫ってきた男たちはとても乱暴で、連れ去られる時大声を出そうとしたら、お腹を強く殴られた。今もそこがジクジク痛む。
声を出せないように布で口元を覆われ、麻袋の中に閉じ込められ、馬車か何かでここまで連れてこられた。扱いがひどく乱暴で、残虐な笑みを浮かべて、私の事を、まるで壊れてもいいおもちゃみたいに見た。

「に、にげないと、いけませんっ」
私は勇気を振り絞って、小さな声で彼らに言った。とにかく、このままここにいたら、もっとひどい事が待っている気がした。

「で、でも、どおやって?」
「えっと、それは」
涙で濡れた瞳で、一番小さな男の子に弱々しく問われて、どうすれば逃げ出せるのか、考える。
(たぶん、みはりのひとがいるんだよね。どうしよう)

「私が怖い大人たちを引き付ける。その間に逃げるといい」
「え?」
私は、それを言った白い髪の少年をびっくりして見つめた。
やっぱり息が荒いし、ハンカチを巻く時に触れた手が熱くて、きっと熱もあるのに。

「だって、ぐあいがわるいんでしょう? それに、こわいおとなばかりです。あなたがあぶないです」
「だが、逃げるには囮が必要だ」
「それなら、わたしがやります!」
いくらこの中で一番の年長のお兄さんとはいえ、こんなに具合が悪そうな人にそんな事させられないと思って、私は怖いのを我慢して、震えないように足を踏ん張った。
だが彼はあっさりと首を振って「駄目だ」と言った。

「敵の追っ手を引き付けられなければ意味がない。……私には戦う力がある。魔術が使えるからな。囮役に最適だ」
「おにいさん、まじゅつしなんですか!?」
「そうだ」
物語の中で、ずっと憧れていた存在。
それが今、目の前にいるこの人がそうなのだという。
本物の魔術師。初めて見た。
私はびっくりして、間近から彼の目を覗きこんだ。閉じられた倉庫の暗闇で今までわからなかったが、彼の目は、とても綺麗な紫色をしていた。左の目じりに小さな黒子がある。

「何があっても振り向かず、そなたたちは全力で逃げるように」

ここがどこなのか、どこに逃げ込めば安全か、彼は私たちにわかりやすく教えてくれた。
私は頷いて、姉弟の手をそれぞれ握った。こうすればきっとはぐれない。
具合が悪そうな彼を一人残してゆくのはとても不安だったけれど、彼は魔術師だから大丈夫だと、繰り返し言うだけだった。
その頃の私にとって魔術師とは、とても強い人というイメージがあった。だからきっと大丈夫だと、自分に言い聞かせて、頷いた。

後はもう無我夢中で、姉弟の手を引っ張って、心臓が壊れそうになるくらい必死に走って走って、教えてもらった一番近い国の守備隊の駐屯所まで駆け込んだ。
何があったと問う声に、自分たちが攫われて閉じ込められた事と、それを逃がす為に一人の少年が残った事を伝えた。そして「はやくたすけにいってあげてくださいっ」と泣きついた。

自分があの場に残って、彼を手伝えるだけの力を持たないのが悔しかった。
もし戦う力を持っていたら、私にももっと、できる事があったはずなのに。

駆け出してゆく守備隊の人たち。
私はそのまま駐屯所で、彼らの帰りを待ち続けた。
途中で、報せを受けた姉弟のご両親と、私のお父様とお母様も、泣きながら迎えに来てくださったけど、私は彼の無事な姿を見るまでは動かないとわがままを言って、ずっとそこに居座り続けた。

……だが、夜が更ける頃、ようやく戻ってきた守備隊の人たちは、誰もあのお兄さんについて教えてくれなかった。
助かったとも、一言も、言ってくれなかった。


私は泣いた。


そして多分、泣き疲れてそのまま眠ってしまったんだと思う。
その日の記憶は、そこで途切れている。



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