忍者ブログ
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
[45]  [46]  [47]  [48]  [49]  [50]  [51]  [52]  [53]  [54]  [55

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「明日、花が咲くように」 九章 6

窓際に置かれた白い花は、毒にも薬にもならない品種の、可憐な花だった。それは本当に、お見舞いと嫌がらせの意図しか感じられない。

グリンローザの第二王子は、巷では「凶王子」という不名誉な呼び名で知られている。
幼い頃はそれはそれは聡明な王子だったというが、十二歳の時に難病に罹り、それからずっと人目を避けてどこかでひっそり療養していたという。
十年後、病が治り王宮に戻ってきたが、その時には既に頭の中身がおかしくなっていて、親兄弟に嫌がらせばかりして、気違いな言動をするようになっていたという。
そればかりか、この国で特に嫌われる黒魔術に傾倒し、日常で黒魔術を使っては周りを怯えさせていると。
廃嫡にはされていないが、気違いの凶王子が次の王に指名される可能性はないと噂されている。以前がなまじ聡明だっただけに、未だに一部の貴族からは彼を惜しむ声もあるというが、国民に広く噂される程に狂った言動をする第二王子が、次の王になる事はないだろう。

(そういえば、エディアローズ殿下も不吉王子と怖れられているから、次の王に指名される可能性はないのよね)
六人も王子がいるとはいえ、第二、第三王子を抜いて考えれば、残りは四人だ。その内のどなたが次の王になるのか、私には予想もつかない。所詮自分のような下級貴族には、政治の中枢とは関わりがない。
誰が王になっても、王の仕事をこなせるだけの力量を持ち、エディアローズ殿下のお立場が悪くならなければそれでいいと、そう思うくらいだ。

「……ごめん、ヒース。仕事が忙しいからって無理をして、結局は君にも周りにも、迷惑をかけてしまった」
「気にするな。今は養生する事だけを考えろ」

続き部屋の向こうで、小さく、エディアローズ殿下の掠れた声が聞こえた。師匠が根気良く白魔術で治癒し続けたおかげで、ようやく意識が戻ったようだ。
(良かった)
私はカリクさんが持たせてくれた果物の中から、白桃のシロップ漬けと、林檎を取り出す。林檎は摩り下ろして、桃はお皿に移して、さっき調剤した薬と一緒に寝室へ持っていく。

「エディアローズ殿下、意識が戻られて何よりです」
「スノウ嬢も来てくれてたんだ、ありがとう」

寝台の上に横になったまま、エディアローズ殿下がこちらに笑い掛けてくる。
柔らかく微笑んではいるけれど、調子はまだまだ悪そうだ。

「私でお役に立てるなら、喜んで馳せ参じますとも。解熱剤を飲んでいただきたいので、先に果物を少しでもお召し上がりください。……食べられそうですか?」
「ん、そうだね。少しだけなら」

師匠に手を貸され、半身を起き上がらせ、ゆっくりと白桃のシロップ漬けを口に含む。
たくさんの精霊たちが心配そうに殿下を囲んでいる。
彼らの中には、治癒や回復を得意とする種族もいる。それでも倒れたという事は、彼らが回復した端からすぐ無理を重ねていったという事に他ならない。

「精霊の加護の限界を超えるまで無理をなさるなんて、いくらなんでも無茶が過ぎます。全快されるまでは安静にしていてもらいますからね」
「え、今の時期にそれは」
「エディアローズ」「殿下」

慌てたように声を上げる殿下の様子に、私と師匠の牽制の声が重なった。二人揃って半眼で睨むと、流石にそれ以上の抗議せずに、おとなしく果物を食べるのを再開する。

「いくら軍務と財務の兼任でお忙しいとはいえ、これ以上の無理は絶対駄目です」
「軍務の方は、要職についてる訳じゃないから、訓練に出なくても問題ないんだけど、今、財務省の方で年末業務が積み重なってて……」

まだ未練がましい目をしている。
ヒース師匠はそれに呆れ果てた溜息をついて、言葉での説得は、諦めたようだ。
その代わり、私に向かって決定事項を通達する。

「シズヴィッド、後で僕の屋敷から着替えを持ってこい。おまえは夜間は帰っていいが、昼間は交替でこの馬鹿を見張るぞ」

完治するまでは強制的に寝台に縛り付けておくと、師匠の据わった目が雄弁に語っていた。
私は勿論頷いた。

「そうですね、殿下の見張りと看病を兼ねて、師匠はこちらに泊まられるのが良いでしょう。私はルルも心配ですので夜間は師匠にお任せしますが、昼間はこちらでお手伝いしますね」
「ええ!?」


(心底驚かれてますが、殿下。今回ばかりは、貴方の自業自得です)



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



PR

「魔界令嬢」 1、家出

「運命の人なんていないと思うな。ユエは夢見がちすぎるんだよ」
幼児姿を好んで使う腹違いの兄が、したり顔でそう言った。
「どこかに絶対いるわ。きっと見つけてみせるんだから」
わたしは唇を尖らせて反論する。

わたしたちが住む魔界は、人間界の常識が当て嵌まらない、多夫多妻が当たり前な世界。だからどんなに素敵な人を見つけても、独り占めなんてありえないの。

わたしは魔界で恋をするのは不毛だと諦めて、人間界へ行く為に、長い洞窟を抜けようとしてる。
腹違いの兄のアズリに屋敷を抜け出すところを見つかって、何故か一緒についてこられたのは計算違いだったけど、止められるよりはマシね。

兄は金色の巻き毛に翡翠色の瞳の、外見五歳くらいの美少年だ。わたしよりずっと年上だけど、いつも好んで幼児姿をしている。
地上に行ったら兄を「にいさま」なんて呼んじゃいけない。アズって愛称で呼ばなければ怪しまれてしまう。気をつけないと。


元々わたしは、父は魔界公爵だけど母は人間だ。
母が死ぬまでわたしは父を知らず、母と人間界でひっそり暮らしてた。
十三歳の時、一人になって困っていたら、父の配下がわたしを迎えにやって、そうして自分の父が魔族だと、ようやく知った訳ね。

魔界は恐ろしい世界だと聞いてたから父に引き取られるのは恐かったけど、他に引き取ってくれる人もなく、自分で生活もできる力もなかったから、仕方なく魔界へ行った。
ただ、恐々と連れていかれた魔界は、思ったよりずっと待遇が良くて、人間界より暮らしやすかった。
ただ一つ、一対一の恋ができないという点を除いては。


「ねえアズ。わたし、王子さまと恋をしてみたい」
「無理だよユエ。人間界でだって、王族は大抵一夫多妻じゃないか。それじゃ結局魔界と変わらないんだから」
「もう、アズってば夢がないわ。せっかく人間界に恋をしにいくのよ。どうせなら高望みしたいじゃない」
「王族なら魔界にも腐る程いるじゃないか。この僕でさえ王族の血を引いてるくらいだし」

わたしがふくれても、アズはしたり顔を崩さない。引き止めなかったからそのまま出てきたけれど、実はわたしを魔界に戻したいのかもしれない。
兄は本人の言う通り、母方から王族の血を引いている。
でも、魔界では王族の数は数え切れないくらいいて、希少価値はあまりない。わたしが夢見る「王子さま」と魔界の「王族」との間には、決定的な差があるの。

「アズ、わたしはわたしをたった一人の妻にしてくれる、素敵な王子さまがほしいのよ」
「そんなの、理想郷にでも行かなければ存在しないって」

肩を竦めて呆れてみせるアズ(見た目幼児)にも、これで既に三人の妻がいる。だけどわたしは魔界公爵の娘でも、半分は人間で人間界育ちなものだから、どうしても多夫多妻には馴染めないでいた。


「とにかく、わたしは人間界に、恋をしに行くの!」



「魔界令嬢」 目次へ  next→


「明日、花が咲くように」 九章 5

王宮は広い。中央に王の居城とそれを守る近衛騎士団があり、それを囲うように様々な建物がある。
北には妃たちの住まう後宮があり、東には白薔薇騎士団が、西には黒薔薇騎士団があり、南には宮廷魔術師の師団と研究施設がある。他にも施設はたくさんで、とにかく広い。
そしてその一つ一つの建物の間に庭や森が広がっているので、城壁を抜けた内部が、一つの大きな街と言ってもいいような景色だった。
噂には聞いていても、城壁の内部……まとめて王宮と言われるここに入ったのは初めてだ。
私は移動中の馬車の窓からその光景を見て圧倒された。

「この国では王の子供たちは、正妃の子や妾妃の子に関わらず、五歳までは後宮で育てられ、その後は王子宮に移され、そこで平等な扱いを受ける。……建前上はな」
これから向かうのは、その王子宮だという。

王の子がすべて同じ扱いを受けるのは、この国の王位が長子や長男が優先されるのでなく、王の指名によって決められるからだ。
これは、王の直系の中からもっとも王に相応しいとされる者を王が指名し、議会で承認される事によって、はじめて王太子となれる制度だ。

現在、王国には九人の子がいる。
その内、既に他国に嫁いだ第一王女グレイシア殿下は指名枠内から外れている。また、男性優位の国柄なので、王子が六人もいるのに、第二、第三王女に王太子の地位が回ってくるとは考えにくい。
なので六人の王子の内から選ばれるだろうと言われているが、現在まだ、王は次期後継者を選んでおらず、王太子の座は空のままだ。

「子供の側使えは母方の実家に任せられており、実家の勢力によって数が違ってくる。大体は一人~四人までと定められているが、だがエディアローズには側使えの者が一人もいない。あいつの母親は身分ある正妃だが、忌み子と嫌う我が子には、人を割く事をしなかったからだ」
王宮内にはエディアローズを世話する者などは殆どいないのだと、師匠が苦々しく言い放った。
だからこそ、彼が倒れた時に自分のところに急使が来るのだとも。

ここには優秀な人材はいくらでもいるだろうに。お医者さまだって、治療師だって、薬剤師だって。なのに不吉だと忌み嫌われ診てくれる人さえいないなんて。
私は殿下が避けられていると知っても、そんな扱いを受けているとまでは考えが及んでいなかった。至らない自分が恥ずかしい。

馬車が王子宮の入り口までつくと、ヒース師匠は荷物の殆どを持ってさっさと降りた。私も残りの荷物を持って彼の背を追い、人気のない回廊を進む。

エディアローズ殿下に割り当てられた部屋に入ると、そこは妙に空々しくて切なかった。
殿下が意識も朧な状態で寝込んでいるというのに、誰一人、傍につく者がいないのが、そのお立場を知らしめるよう。
師匠がすぐに枕元に近づいて、白魔術を使った治癒を始める。
エディアローズ殿下は意識を失ったまま、私たちが近づいても目覚める気配がない。
息も荒いし、見るからに辛そうだ。過労と聞いたけれど、いくら師走で忙しい時期だからって、こんなになるまで無理をするなんて。

「薬の準備に入りますが、その前に私にも一度診察させてください。私が殿下の御身に触れても構いませんか?」
「薬の処方に必要な診察に、エディアローズは文句は言わん。すぐ始めろ」
「はい」
私も寝込む殿下にそっと近づいて、体温や脈拍を測ったりする。
私が傍に寄ると、殿下を守る精霊の数が減ってしまう。体力の落ちている今、診察以外で近づくのは極力避けた方がいい。

私はさっと診察を終えて、エディアローズ殿下の寝室の続き部屋となっている居間で、カリクさんに持たせてもらった薬を計ってすり鉢で合わせて、必要な薬を調剤する事した。解熱剤と栄養剤が必要だ。
私が看病に近づけない以上は、付き添いは師匠に任せるしかない。

ふと、寝室に続く部屋とは反対の、私達が入ってきた方の扉から、ガザガザと乾いた音がして、私は顔を上げた。
扉が開かれる。
そこにいた相手(?)に、私は目を見開いた。

(藁人形……)
なんと、私の身長の半分より小さいくらいの小型の藁人形が、可憐な白い花の鉢植えを運んできたのだ。
動く藁人形なんて初めてみた。
ただ、殿下から話には聞いていた。次兄…第二王子が、一般には嫌われる黒魔術に傾倒していて、小間使い代わりに藁人形を使用するのだと。
これがそうなのだろう。

その藁人形が奥の寝室に向かってテクテクと歩いてゆくのを見て、私はハッとして立ち上がり、その物体を急ぎ追い越した。

「師匠、藁人形が」
「ああ……アルフォンソだな。また嫌がらせか」

私たちが小声で話している間に、その小型の藁人形は両手に抱えた鉢植えを、日当たりの良い窓際にちょこんと置いた。
首を傾げて、位置を調整し、納得いったのか無言で頷く仕草をする。……ちょっと可愛いかも。

「第二王子アルフォンソ・シアン殿下ですか。でも思ったよりずっと、嫌がらせっぽくないですね。……病人に鉢植えの花を贈るのは縁起が良くないと言われていますが、それでも贈り物は贈り物です。綺麗です」
「あれの嫌がらせはほぼ、実害がないレベルだからな」

師匠はどうでもよさそうに肩を竦める。端から放っておけといわんばかりの態度だ。
私が気になって注視していると、藁人形はくるりと振り返り、片手をぶんぶんと振ってみせて、またテクテクと部屋の外に去っていってしまった。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング





忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne