空の翼
空の翼
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。
放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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王宮は広い。中央に王の居城とそれを守る近衛騎士団があり、それを囲うように様々な建物がある。
北には妃たちの住まう後宮があり、東には白薔薇騎士団が、西には黒薔薇騎士団があり、南には宮廷魔術師の師団と研究施設がある。他にも施設はたくさんで、とにかく広い。
そしてその一つ一つの建物の間に庭や森が広がっているので、城壁を抜けた内部が、一つの大きな街と言ってもいいような景色だった。
噂には聞いていても、城壁の内部……まとめて王宮と言われるここに入ったのは初めてだ。
私は移動中の馬車の窓からその光景を見て圧倒された。
「この国では王の子供たちは、正妃の子や妾妃の子に関わらず、五歳までは後宮で育てられ、その後は王子宮に移され、そこで平等な扱いを受ける。……建前上はな」
これから向かうのは、その王子宮だという。
王の子がすべて同じ扱いを受けるのは、この国の王位が長子や長男が優先されるのでなく、王の指名によって決められるからだ。
これは、王の直系の中からもっとも王に相応しいとされる者を王が指名し、議会で承認される事によって、はじめて王太子となれる制度だ。
現在、王国には九人の子がいる。
その内、既に他国に嫁いだ第一王女グレイシア殿下は指名枠内から外れている。また、男性優位の国柄なので、王子が六人もいるのに、第二、第三王女に王太子の地位が回ってくるとは考えにくい。
なので六人の王子の内から選ばれるだろうと言われているが、現在まだ、王は次期後継者を選んでおらず、王太子の座は空のままだ。
「子供の側使えは母方の実家に任せられており、実家の勢力によって数が違ってくる。大体は一人~四人までと定められているが、だがエディアローズには側使えの者が一人もいない。あいつの母親は身分ある正妃だが、忌み子と嫌う我が子には、人を割く事をしなかったからだ」
王宮内にはエディアローズを世話する者などは殆どいないのだと、師匠が苦々しく言い放った。
だからこそ、彼が倒れた時に自分のところに急使が来るのだとも。
ここには優秀な人材はいくらでもいるだろうに。お医者さまだって、治療師だって、薬剤師だって。なのに不吉だと忌み嫌われ診てくれる人さえいないなんて。
私は殿下が避けられていると知っても、そんな扱いを受けているとまでは考えが及んでいなかった。至らない自分が恥ずかしい。
馬車が王子宮の入り口までつくと、ヒース師匠は荷物の殆どを持ってさっさと降りた。私も残りの荷物を持って彼の背を追い、人気のない回廊を進む。
エディアローズ殿下に割り当てられた部屋に入ると、そこは妙に空々しくて切なかった。
殿下が意識も朧な状態で寝込んでいるというのに、誰一人、傍につく者がいないのが、そのお立場を知らしめるよう。
師匠がすぐに枕元に近づいて、白魔術を使った治癒を始める。
エディアローズ殿下は意識を失ったまま、私たちが近づいても目覚める気配がない。
息も荒いし、見るからに辛そうだ。過労と聞いたけれど、いくら師走で忙しい時期だからって、こんなになるまで無理をするなんて。
「薬の準備に入りますが、その前に私にも一度診察させてください。私が殿下の御身に触れても構いませんか?」
「薬の処方に必要な診察に、エディアローズは文句は言わん。すぐ始めろ」
「はい」
私も寝込む殿下にそっと近づいて、体温や脈拍を測ったりする。
私が傍に寄ると、殿下を守る精霊の数が減ってしまう。体力の落ちている今、診察以外で近づくのは極力避けた方がいい。
私はさっと診察を終えて、エディアローズ殿下の寝室の続き部屋となっている居間で、カリクさんに持たせてもらった薬を計ってすり鉢で合わせて、必要な薬を調剤する事した。解熱剤と栄養剤が必要だ。
私が看病に近づけない以上は、付き添いは師匠に任せるしかない。
ふと、寝室に続く部屋とは反対の、私達が入ってきた方の扉から、ガザガザと乾いた音がして、私は顔を上げた。
扉が開かれる。
そこにいた相手(?)に、私は目を見開いた。
(藁人形……)
なんと、私の身長の半分より小さいくらいの小型の藁人形が、可憐な白い花の鉢植えを運んできたのだ。
動く藁人形なんて初めてみた。
ただ、殿下から話には聞いていた。次兄…第二王子が、一般には嫌われる黒魔術に傾倒していて、小間使い代わりに藁人形を使用するのだと。
これがそうなのだろう。
その藁人形が奥の寝室に向かってテクテクと歩いてゆくのを見て、私はハッとして立ち上がり、その物体を急ぎ追い越した。
「師匠、藁人形が」
「ああ……アルフォンソだな。また嫌がらせか」
私たちが小声で話している間に、その小型の藁人形は両手に抱えた鉢植えを、日当たりの良い窓際にちょこんと置いた。
首を傾げて、位置を調整し、納得いったのか無言で頷く仕草をする。……ちょっと可愛いかも。
「第二王子アルフォンソ・シアン殿下ですか。でも思ったよりずっと、嫌がらせっぽくないですね。……病人に鉢植えの花を贈るのは縁起が良くないと言われていますが、それでも贈り物は贈り物です。綺麗です」
「あれの嫌がらせはほぼ、実害がないレベルだからな」
師匠はどうでもよさそうに肩を竦める。端から放っておけといわんばかりの態度だ。
私が気になって注視していると、藁人形はくるりと振り返り、片手をぶんぶんと振ってみせて、またテクテクと部屋の外に去っていってしまった。
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北には妃たちの住まう後宮があり、東には白薔薇騎士団が、西には黒薔薇騎士団があり、南には宮廷魔術師の師団と研究施設がある。他にも施設はたくさんで、とにかく広い。
そしてその一つ一つの建物の間に庭や森が広がっているので、城壁を抜けた内部が、一つの大きな街と言ってもいいような景色だった。
噂には聞いていても、城壁の内部……まとめて王宮と言われるここに入ったのは初めてだ。
私は移動中の馬車の窓からその光景を見て圧倒された。
「この国では王の子供たちは、正妃の子や妾妃の子に関わらず、五歳までは後宮で育てられ、その後は王子宮に移され、そこで平等な扱いを受ける。……建前上はな」
これから向かうのは、その王子宮だという。
王の子がすべて同じ扱いを受けるのは、この国の王位が長子や長男が優先されるのでなく、王の指名によって決められるからだ。
これは、王の直系の中からもっとも王に相応しいとされる者を王が指名し、議会で承認される事によって、はじめて王太子となれる制度だ。
現在、王国には九人の子がいる。
その内、既に他国に嫁いだ第一王女グレイシア殿下は指名枠内から外れている。また、男性優位の国柄なので、王子が六人もいるのに、第二、第三王女に王太子の地位が回ってくるとは考えにくい。
なので六人の王子の内から選ばれるだろうと言われているが、現在まだ、王は次期後継者を選んでおらず、王太子の座は空のままだ。
「子供の側使えは母方の実家に任せられており、実家の勢力によって数が違ってくる。大体は一人~四人までと定められているが、だがエディアローズには側使えの者が一人もいない。あいつの母親は身分ある正妃だが、忌み子と嫌う我が子には、人を割く事をしなかったからだ」
王宮内にはエディアローズを世話する者などは殆どいないのだと、師匠が苦々しく言い放った。
だからこそ、彼が倒れた時に自分のところに急使が来るのだとも。
ここには優秀な人材はいくらでもいるだろうに。お医者さまだって、治療師だって、薬剤師だって。なのに不吉だと忌み嫌われ診てくれる人さえいないなんて。
私は殿下が避けられていると知っても、そんな扱いを受けているとまでは考えが及んでいなかった。至らない自分が恥ずかしい。
馬車が王子宮の入り口までつくと、ヒース師匠は荷物の殆どを持ってさっさと降りた。私も残りの荷物を持って彼の背を追い、人気のない回廊を進む。
エディアローズ殿下に割り当てられた部屋に入ると、そこは妙に空々しくて切なかった。
殿下が意識も朧な状態で寝込んでいるというのに、誰一人、傍につく者がいないのが、そのお立場を知らしめるよう。
師匠がすぐに枕元に近づいて、白魔術を使った治癒を始める。
エディアローズ殿下は意識を失ったまま、私たちが近づいても目覚める気配がない。
息も荒いし、見るからに辛そうだ。過労と聞いたけれど、いくら師走で忙しい時期だからって、こんなになるまで無理をするなんて。
「薬の準備に入りますが、その前に私にも一度診察させてください。私が殿下の御身に触れても構いませんか?」
「薬の処方に必要な診察に、エディアローズは文句は言わん。すぐ始めろ」
「はい」
私も寝込む殿下にそっと近づいて、体温や脈拍を測ったりする。
私が傍に寄ると、殿下を守る精霊の数が減ってしまう。体力の落ちている今、診察以外で近づくのは極力避けた方がいい。
私はさっと診察を終えて、エディアローズ殿下の寝室の続き部屋となっている居間で、カリクさんに持たせてもらった薬を計ってすり鉢で合わせて、必要な薬を調剤する事した。解熱剤と栄養剤が必要だ。
私が看病に近づけない以上は、付き添いは師匠に任せるしかない。
ふと、寝室に続く部屋とは反対の、私達が入ってきた方の扉から、ガザガザと乾いた音がして、私は顔を上げた。
扉が開かれる。
そこにいた相手(?)に、私は目を見開いた。
(藁人形……)
なんと、私の身長の半分より小さいくらいの小型の藁人形が、可憐な白い花の鉢植えを運んできたのだ。
動く藁人形なんて初めてみた。
ただ、殿下から話には聞いていた。次兄…第二王子が、一般には嫌われる黒魔術に傾倒していて、小間使い代わりに藁人形を使用するのだと。
これがそうなのだろう。
その藁人形が奥の寝室に向かってテクテクと歩いてゆくのを見て、私はハッとして立ち上がり、その物体を急ぎ追い越した。
「師匠、藁人形が」
「ああ……アルフォンソだな。また嫌がらせか」
私たちが小声で話している間に、その小型の藁人形は両手に抱えた鉢植えを、日当たりの良い窓際にちょこんと置いた。
首を傾げて、位置を調整し、納得いったのか無言で頷く仕草をする。……ちょっと可愛いかも。
「第二王子アルフォンソ・シアン殿下ですか。でも思ったよりずっと、嫌がらせっぽくないですね。……病人に鉢植えの花を贈るのは縁起が良くないと言われていますが、それでも贈り物は贈り物です。綺麗です」
「あれの嫌がらせはほぼ、実害がないレベルだからな」
師匠はどうでもよさそうに肩を竦める。端から放っておけといわんばかりの態度だ。
私が気になって注視していると、藁人形はくるりと振り返り、片手をぶんぶんと振ってみせて、またテクテクと部屋の外に去っていってしまった。
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