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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 十三章 2

引き摺られる感覚に危機感を覚えて、咄嗟にそれ以上引っ張られないようにと、木の杖を手放した。
けれど杖を手放した時にはもう、手足にまで、見えない糸のようなものが絡んでいた。

「シズヴィッド!」
師匠が駆け寄ってきて私の体を庇って抱き寄せたのと、魔法陣が一際眩しい輝きを放つのが、ほぼ同時。……いや、それら一連の流れがすべてが一瞬の出来事だった。
ひどい眩暈が襲ってきて、私は抗いきれずに意識を飛ばした。



息が苦しい。まるで、水の中で溺れているみたいに。
体が重い。水の中を足掻くような、重い抵抗が纏わりつく。

(違う、おかしい)
ひどい頭痛と吐き気がした。気持ちが悪い。
私は喉を掻き毟って、荒い呼吸を繰り返す。
空気が重い。息がしづらい。
呼吸はできる。なのに胸が苦しい。
(ここは、水の中じゃないのに)
奇妙な感覚に襲われる。
額に誰かの手が触れた。大きな掌。
何かが流れ込んでくる。呼吸が楽にできるようになる。

「意識が戻ったか?」
「……ししょ、う…?」
聞き覚えのある声に、私は重い瞼を開ける。

(う、わ!?)
かなり間近に漆黒の瞳があって、それはもう驚いた。師匠がその美貌に心配そうに歪めて、私の顔を覗き込んでいたのだ。
額に触れている掌の感覚にも、ものすごく吃驚する。
師匠にこんなふうに触れられるのも、ここまで近づくのも初めてだ。
(女嫌いなのに、こんなに近づいて大丈夫なのかしら)
前に「触るな」と怒鳴られた記憶が蘇る。こうして触れていて師匠は具合が悪くならないのかと、今の状況を忘れて、場違いな心配をしてしまった。
それからようやく、ここがお屋敷の地下実験室でない事に気づく。

……外だ。屋外だ。
天まで伸びるような、背の高い木々が見える。

「!?」
私は驚きの余り、勢い良く半身を跳ね起こした。師匠が私の急な動きに驚いて、素早くぶつからないように身を引き、額に置いた手も引っ込めた。
と同時に、私はまた、呼吸困難に陥った。
「う、あ」
「落ち着け。精神を落ち着けて、僕の力を受け入れろ」
「は、はい」

師匠が、起き上がった私の背にそっと片手を添えてくる。何かが私を包んでくれるのが感じられた。
また、呼吸が楽になる。
師匠が触れているところから魔力が流れてきており、今の異常な状態から、私の体を守ってくれているのだと、遅まきながら気づいた。
(何だか落ち着かないけど)
今現在、何らかの緊急事態が起きているのは確かで、そんな事気にしている場合ではないのだが、普段さり気なく触れないように注意している相手がこうまで近くにいると、妙な感じがする。
多分、私以上に師匠の方が落ち着かない思いをしているのだろうけれど。

「あの、ここは……?」
訊ねながら、ゆっくりと辺りを見渡す。
私たちがいるのは、森の中のようだった。
木々の隙間から覗く空は、深く青く、私が知っている空よりも、ひどく鮮やかな色彩をしていた。



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