十三章 『逆召喚』二月に入り建国記念日が過ぎると、新年から一ヶ月もお祭り騒ぎだった王都が平常に戻った。
私は昔お祭りで誘拐された記憶と、ルルが病弱で遊びにいけない事もあって、あまりそういう催しには参加しない。
師匠からもらった半月の連休は、家の細々とした仕事や、磁気の魔術の修行で終えた。
休日もずっと家で修行した甲斐あって、ようやく、自分の体に僅かながらも磁気を纏えるようになってきた。
ただ、その力を目標地点に予め流す事はまだできない。
自分の体に磁力を纏えても、吸着させたい壁の側に同時に磁力を持たせられなければ、壁に張り付く事はできない訳で、まだまだ、習得までの道のりは長そうだ。
かつての恩人アルフォンソ殿下に再会し、いずれあの方の元で働くという将来の目標ができて、私の中の強くなりたいという願望はより鮮明になったけれど、その為の実力が伴わないのが焦りを募らせる。
精霊魔術も召喚術も白魔術も習得できない。
ならば残りの一つ……黒魔術に賭けてみたいという誘惑は、少なからず私の中にあった。
けれど、黒魔術は生贄を使う危険な技。人々に恐れられる禁忌の技だ。
(何の為に強くなりたいのかを忘れちゃいけない)
私の一番の望みは、弟のルルーシェを養えるような立派な魔術師になる事だ。
この国で魔術師として生計を立てたいなら、容易に黒魔術に手を出すべきじゃない。
(アルフォンソ殿下は王子だし、師匠は白魔術も使えるし、黒魔術を使えるとあまり知られていないし。彼らと私では基盤が違うのだから)
焦りが心を覆う度に、何度もその危険性を考えて思い留まった。
だから師匠が「召喚術を試すぞ」と言い出してくれた時は、とても嬉しくなった。
召喚術は見習いの私では単独で修行できないから、師匠が見てくれないとどうにもできない。
「手順はいつも通りだ。路を繋げる先も、もっとも地場が安定する、始まりの森から変更しない」
「はい」
召喚の為に整えられた地下の実験室に向かう。ヒース師匠の元に師事してから、召喚術を試すのは、かれこれ六度目だろうか。
私はいつも、精獣が住む隣の世界……ラエルシードとの路を繋ぐところまではうまくいくのに、その先で精獣を捕らえるのに失敗している。
ラエルシードは精獣たちの楽園だ。
その世界でもっともこちらの世界と繋がりやすく安定した場所を、魔術師たちは「始まりの森」と呼んでいる。
そこを基点に、遠く離れる程、魔力で探れる精度は低くなり、難易度は高くなる。
始まりの森に住むのは力の弱い精獣で、奥に行く程、力の強い存在がひしめいているという。
「開け、界境の門よ」木の杖を振りかざし、呪文を唱える。魔法陣が徐々に光を帯びてゆく。
いつもと同じ手順で、世界と世界を一時的に繋げる路を開き、私はそちら側の世界へと、魔力の網で探りを入れる。
どんな小さな存在でもいい。精獣を捕らえて、こちら側へと引き込まなければ。
けれど、私が伸ばした魔力の探索網には、どんな小さな精獣も引っ掛からない。
私が網に掛かった精獣の存在に気づけずに見過ごしているのか、あるいは、私の持つ魔力性質を嫌がって、網が近づく前に、精獣たちがこぞって探索範囲内から逃げ出しているのか。
……ヒースはおそらく後者だと推測した。
だとしたら、私の魔力性質をどうにかしない限り、精霊魔術のみならず、召喚術も望み薄という事に……。
(
――――いけない、集中しなければ!)
はっとして、逸れかけた意識を集中しなおした時、ふと、何か強烈な力に引っ張られる感覚とともに、魔法陣が大きく揺らいだ。
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