「休暇の間に、ちゃんと案は考えてきただろうな?」
「うん、一応はね」
「
なんだその気の抜けた返事は! おまえは僕の補佐官なんだぞ!? 財務省の改革に、しっかり協力せんか!」
「ごめん。やる気はちゃんとあるから」
僕が持参した書類を差し出して、独自に考えてきた改革案を提出すると、頭が沸騰していた長官がようやく落ち着いてくれた。
彼との掛け合いはやはり、活気があっていいなと思う。我が儘に振り回されるのさえ楽しめる。
それは、ずっと家族との縁が薄かった僕にとっては、幸せな事かもしれない。
これまで僕はずっと、存在自体を疎まれてきた。
だけど僕にはささやかながら居場所があると、今は徐々に、そう思えるようになってきた。
財務副官としての立場は、長官の石化を無効化できる特殊技能が必要なだけで、僕自身が必要とされている訳じゃなく。
いずれは僕がいなくとも問題なくなるのはわかってる。
それでも、以前は手が届かなかったものに、ほんの少し近づけたような気がして。
(だけど同時に、恐れてもいたんだ。伸ばした手を振り払われてしまったら、また居場所を失うんじゃないかって)
そうやって無意識の内に、自分が傷つかないように自分から距離を置いて。
知らず、自分からも壁を作っていた。
けれど、越えられない高く聳える壁だと思っていたものが、そんなに難関なものではないのかもしれないと、気づいた。
兄弟たちに、そんなには悪意がない事を知って。
それから気を付けて、周りを見るようにした。
初めから嫌われていると決め付けないで、ありのままに感じられるように。
…………そうしたら案外、彼らとの距離は、絶望的なまでに離れているという訳ではないのかもしれないと気がついたんだ。
多分僕は、見ようとしなかった。聞こうと思わなかった。
そうして、晒される悪意に気を取られて、まだ善意にも悪意にも育っていない小さな感情の芽を、知らずに摘みとってきてしまったのかもしれない。
あの実験で知った「声」の事は、彼らには伝えられない。
そんな「声」を聞けるのを周囲に知られるのは恐ろしく、とても真実は語れない。
正直、あの「声」で受けた衝撃は大きかったし、年末に倒れたのも過労だけが原因ではなく、精神的な疲弊もあったかもしれない。
けれどあの実験は、これまでの年月で積もった固定概念を崩す、良いきっかけになったとも思う。
まだ、自分が必要とされているなんて、そんな自信は持てない。
それでも、ほんの少しずつでも、彼らに歩み寄れるなら
――――。
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