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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 六章 4

僕が財務長官として国庫を預かる事になったきっかけは、前の財務長官が国費を横領をしていたのを、聡明な僕が気づいて告発したからである。

丁度、上下水道の公共工事で大規模な金が動いたのが、元長官の横領を見過ごす原因となったらしい。
そんな中、偶然目にした書類から不正を見抜いて、独自の働きで証拠を揃えて罪を明らかにした僕は偉大だ。
(長官という重要な立場にありながら、税金を横領した前の長官は死ね。まだ服役中だが、僕に言わせれば刑が生ぬるい。刑を執行したヤツも死ね

そうやって、せっかく僕が腐った頭をもぎ取ってやったというのに、今度は誰が後任になるかで、内部で派閥争いが起きた。
しまいには賄賂まで飛び交うようになるに至り、僕の怒りの一撃で、財務官の半数が石と化した。(他から泣きつかれて、仕方なく後で元に戻してやったが)

財務省の惨状を見かねた僕が、「こんな馬鹿どもに国庫を任せてはおけん! 僕が財務長官になってやるわ!」と宣言し、若すぎるだの何だのとうるさい連中を石化して黙らせて、無事に長官となり、今に至る。

しかし、僕が長官に就任したら、今度は僕を補佐する人材に困るハメになった。財務官が、揃いも揃って無能の極みだったからだ。
まったく、次から次へと問題が絶えない。

就任当初は無能な部下に苛立って、僕が周囲を石化して騒ぎとなるのも日常茶飯事だった。
それに困った連中が不吉眼を補佐に推薦してきたのだ。あれは僕の石化を無効化できる数少ない存在だったから。
精霊に過剰に溺愛されている不吉眼は、本人が頼まなくても精霊が勝手にその身を守るという、反則的な特技を持っているのだ。本人はろくな魔力も持たんクセして生意気な事に。

不吉眼はそれ以前から軍属だったから、現在は軍務と財務省を兼任している。
兼任しているという事は、僕の補佐として傍に控えていられない時間も多いという事である。

いかに僕が有能であっても、流石に一人ではできる事に限りがある。なので仕方なく、不吉眼がいない時は他の財務官が補佐役をしているのだが、これがまた使えない。
すぐミスる。しかもその度に僕に怯える。怯えるからまたミスる。その悪循環だ。

いくら僕に石化された過去があるとはいえ、いい加減、そのムカツク態度を改めろ。殺すぞ。




今日も今日とて忙しい。
だが僕は、大事な国庫を守る為、誠心誠意、身を粉にして働くのだ。

僕はなんて偉大な男なんだろう。



ミスばかりの財務官を石にして、ようやく静けさを取り戻した執務室で、僕は満足して仕事の続きに取りかかった。



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ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
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「明日、花が咲くように」 六章 3

「エクスカイル! 孤児院に寄贈する為の遊具を、国内から広く募っているっていうのは本当か!? おまえ、あれだけ予算を割くのを反対したクセに、意外とやるじゃないか!」

声がうるさい。それとノックもせずに扉を開けるな馬鹿者が
「本当ですよ」

先日、人の執務室の扉の蝶番を壊していった犯人が、今日もまた腹立たしい程の勢いで扉を開けてズカズカと入ってきた。
それだけで死刑にしたくなる。うん、死ね。
勿論蝶番の修理代は、この馬鹿の軍務給料から差し引くよう手配したが、それだけでは腹の虫が収まらん。

ちなみに「本当ですよ」と、馬鹿の問いに簡潔に答えたのは、僕の副官を務めている不吉眼だが、馬鹿はそれを聞かないふりでスルーした。
話を聞かん馬鹿は、ただの馬鹿より更に救いようがない。ダメだこいつ。

「人がせっかく礼を言いに来たというのにっ」
「寄贈を募るという案を出したのは、そこの不吉眼だ」
「げっ」

僕は高潔だから、人の手柄を自分のものに横取りするようなゲスではない。だからちゃんと、この案を最初に提言した相手を教えてやった。丁寧に。
なのに「げっ」の一言で済ますとは。やはり死ね、クソ馬鹿長兄。

そこは同意見だったのか、不吉眼が顔だけは笑いながら眼がまったく笑っていない状態で、馬鹿に一歩近づく。

「おや、随分な反応ですね、ジークフリード・カッツェ殿下? まるで僕の提案には呪いでも掛かっているとでも言いたげな、心の底から嫌そうな顔をされると哀しいのですが。
孤児院に遊具を配布したいという、ジークフリード殿下のお優しい心遣いに感銘を受け、ない知恵を絞って実現可能な案を考え出したというのに。そんな健気な弟に対する仕打ちがそれとは、ひどいとは思わないのですか? 哀しみのあまり、心が砕けてしまいます」

単なる思いつきだったクセして、誇張しすぎだ、不吉眼。

「胡散臭い笑顔で、思ってもいないような事をほざくなっ」

片方が腹に一物抱えた微笑みで一歩近づくと、、片方は引き攣った顔で微妙に後ずさる。

馬鹿は馬鹿だから、不吉眼の伝承をそのまま鵜呑みにしているのだ。
仮にも血の繋がった弟をそんな理由で避けるとは、人として失格だ。今すぐ畜生を名乗れば良い。
愚かすぎて、これを実の兄とは思いたくない。

ちなみに僕が不吉眼を兄と認めてやらないのは、単に「変人」だからだ。
そして僕は不吉眼に限らず、他の兄弟のすべても、僕の兄弟とは認めていない。
こんな素晴らしい能力を持ちながらも研鑽を惜しまない「この僕の」兄弟と思うには、どいつもこいつも「無能」か「変人」に偏りすぎていて、腹立たしくて仕方ない。
伝承に怯えるだけの目の前の馬鹿と僕とでは、次元がまったく違うのだ。

(第一、あのくだらなすぎる伝承がもし真実だというのなら、血の繋がった兄弟として生まれた時点で、僕も馬鹿もすでに手遅れだ。「近しい者」という条件に合致してしまっている。それを今更ジタバタと足掻いて、一体何になるというのか)



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ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
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「明日、花が咲くように」 六章 2

「でも、孤児院の運営資金が少なく、遊具にまでは手が回っていないのは事実だね」

不吉眼が馬鹿長兄を庇うような発言をする。馬鹿とは仲が悪いのに、何を余計な口出しをしてくるのか。
あの馬鹿と同じく、孤児の子供たちに情でも移ったか。くだらない。
下々の民と関わりすぎて、王族の威厳をなくしている馬鹿と同列なのが僕の副官だと思うと、心底から苛々する。
僕は書類をバサリと払って、机を強く叩いた。

「運営資金にも欠く有様だからこそ、資金は少しでも堅実に遣うべきだ。遊具などに金を掛けられるかっ」
「君よりも幼い子供たちが遊び道具のひとつもないなんて、不憫だと思わないかい」
「遊ぶものよりも、まずは衣・食・住と教育だ。そちらにまで手を回す余裕はないわ」

まるで話にならない。金は無限に湧いてくるような代物ではないのだ。
どこかを削らねばならないのなら、優先度の低いものから削っていくのは当然の話だ。

王都だけでなく、国土全体に散らばる孤児院への補助金が、毎年どれだけの額になっていると思っているのか。
これも財務官なのだから、当然内訳は知っているだろうが。

「なら、国民に触れを出して、古くなった遊具の寄贈を募って、それを孤児院に配布するというのはどう?」
「む? 寄贈があればの話だが……、悪くはないな」

ふむ、と考え込む。
所詮はお坊ちゃん育ちである愚兄その3が、具体的かつ建設的な案など出すとは思わなかった。

「おや。まさか、本気で検討されるとは思わなかったな」

僕が意見に耳を傾けたのが意外らしく、不吉眼がまたたきをした。自分で提案しておいて、なんて無礼な。

「僕だって鬼じゃない。予算を割ける余裕があるなら、検討くらいはするぞ。王侯貴族の浪費を抑え、その分だけ貧しい者へと配当するのは、財務官として果たすべき役割だ」
部下には鬼長官と、もっぱらの評判だけど
「そんな無礼な事を言うのはどこのどいつだ不吉眼。探し出して連れてこい。今すぐ石化してやるぞ
「さあ、単なる噂だしねえ」

不吉眼が視線を逸らす。
これの周りにうじゃうじゃいる精霊どもが、僕の力を警戒する気配がして鬱陶しい。
所詮、半透明の言語も持たん種族のクセして、この僕を威嚇するとは、無礼にも程がある。

「馬鹿兄の要望は、財源確保がなっておらず現実味がなかったから却下したが、寄贈ならば、そんなに予算を喰わずに検討できるだけの余地があるな」
「それは良かった」
「問題は、国内にあるすべての孤児施設に送れるだけの寄贈品が集まるかどうかだが……」

最初に期間を明示して国内全体から広く寄贈を募れば、ある程度は数が集まるかもしれない。
確実性はないが、ある意味では堅実な案だ。もし一つも集まらずに失敗しても、こちらには痛手がない。



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