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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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5、世界の毒と祝福と

私達は三人で街中を歩いている。クローツとの顔合わせを終えた後、商店街に買い物に出たのだ。
手続きが済んで無事に生活支給金が出たので、生活必需品を最低限揃えなければならない。今着ている服以外には、着替えさえないのだ。
元々自分が着てきた服は女物だった為、神殿の備品の男物の服一式と交換してもらった。
なので私が持っているのは、イードとファーシアがくれたナイフと水筒とリュック。そしてトロンカードだけだ。

「キーセって、元の世界でも冒険者だったとか?」
「違う。元の世界では学生だった。冒険者になるって決めたのは……まあ、憧れてたから」
「あー、わかるっ。俺も小さい頃から憧れてたしっ!」

クローツは、その神々しい美貌を除けば、話しやすくて親しみやすい普通の男の子だ。かえって私の方が、喋り方に気を付けているせいで固い言葉遣いになっている。
彼の活発な動きに合わせて、腰より長い三つ編みが、しっぽのようにひょこひょこ揺れる。
街を行く人々は、彼に見惚れて動きが止まったり、笑顔で手を振ったり、果物などをお裾分けしたりする。
偶に、物陰から荒い息遣いで彼を凝視する、見るからに怪しい雰囲気の大人もいるが、地域の人々で親衛隊でも結成しているらしく、危害を加えそうな人物は、当人に気づかれない内に素早く排除されていく。
彼はまさしく地元アイドルなのだ。

(でも、冒険者志望で、自分が狙われてる気配にこんなにも鈍いってどうなんだろう)

変質者に狙われるのもそれらから守られるのも、彼にとっては当たり前の日常すぎて、鈍化しているのかもしれない。
だが、今はまだともかく、冒険者になってこの街を出るようになったらどうするんだろう。どうなるんだろう。
彼は養成学校に通うのは許されても、実際に冒険者になるのは許してもらえないんじゃないだろうか。
まあ、どうせ私は自分の事だけで手いっぱいで、人の将来まで気にするような余裕はないのだが、一緒の学校に通っている間は出来る範囲で、自身の容姿の持つ影響力を自覚するように誘導してやろう。
自覚さえしっかり持てば、自己防衛も考えるようになるだろうから。


「いいよなー冒険者。へへ、俺さ、風魔法の素質あるから、攻撃も防御もこなせるんだ。いつか絶対、空も飛べるようになってみせる! ……キーセの魔法素質は?」
「神殿で調べてもらったら、雷魔法の素質があるって言われた」
「おおー雷か!! カッコいいじゃん!」
「雷は、クローツの風のように、防御には向いてない気がするけど」
まあ私としては、魔法の素質があり魔力も結構高いって言われただけで充分嬉しかったから、種類は何でもいい。役立たずでさえなければ許容範囲内だ。魔法を使えるのはやはり憧れだ。

「んー、確かに、雷魔法で防御って……想像つかねー。どーやんの? にーちゃん」
雷と防御が連想できず、二人で首を捻る。クローツは早々に自分で考えるのを諦め、現役教官である兄へと質問した。

「体を電気の膜で覆って、触れたら痺れさせる魔法とかならあるけど、風で壁を作るような、わかりやすい防御魔法はなかったと思うよ」
流石に弟相手には敬語じゃなく、普通の言葉遣いで返すクロス教官。弟に向ける微笑みは、業務用笑顔と違って、あたたかみがあって柔らかい。

「攻専魔法って感じか。でもいーじゃん。攻撃力はめちゃ高そうだし、冒険者向きの魔法じゃんか」
「ああ、私もそう思う」
クローツの笑顔につられて笑う。魔法を覚えるのが楽しみだ。早く習いたい。

着替えやタオルや歯ブラシなどの生活必需品を買って歩きながら、気になった質問をする。

「そういえば魔法って、『理想の泉』に入るまでは、誰も使えないものなのか?」
確か、力の暴走を防ぐ為、ある程度育ってから泉に入るのだと聞いた。という事は、私のような異世界人と同じく、泉に入るまではこの世界の人達も魔法が使えないのだろうか。

「そうですよ。魔力の強さや備わる属性は本人の資質によって違ってきますが、泉に浸かる事で、その才能が開花するのです。
力水は世界の祝福、魔物と瘴気は世界の毒、と言われています」
「世界の祝福と世界の毒?」

クロス教官が考え深く顎に手を当てて唸る。
「んー、そうですねえ……。そもそもの魔物の定義から説明しましょうか。
魔物とは、瘴気を吸い続けた結果、身体が汚染されて身も心も化け物に変わってしまった、元は動物や人だった存在です」
「え、人間も魔物になるんですか!?」

人が魔物になると聞いて、私は怯んだ。
魔物退治をする冒険者には憧れるけど、人を殺す職業につくのは、また別だ。
日本人として染み付いている、殺人イコール犯罪という根底意識は、簡単には覆らないだろうし、あえて覆したいとも思わない。
そりゃあ、盗賊とかの犯罪者に攻撃されたなら、それは返り討ちにしなければ自分が殺されるから、正当防衛として戦うつもりだが……。
しかし、いくら魔物になったとはいえ、元は罪のない人だったかもしれないものを殺すのは躊躇われる。

「泉に浸かると瘴気への耐性ができますから、今は人が魔物に変わる事はありませんが、昔、泉に浸かるのが当然の習慣でなかった頃には、そういう事もあったそうです」
ですからその頃の名残で、今も人の形に近い魔物も多くいるんですよ、と教官が付け加える。

性格が横着で教官向きではないんではと疑ったりもしたが、やはりそれを職業としているだけあって、人に教えるのには向いているらしい。彼の説明は簡潔でわかりやすかった。

「……魔物って、元から魔物じゃないんですね」
「瘴気は遺伝しますから、魔物から産まれたものも魔物ですけどね。元々の起源は、瘴気によって蝕まれた普通の生物だったんです。
ですが、元が害のない存在だったとしても、彼らを退治しない訳にはいきません。魔物に変化した後は凶悪で害にしかなりませんし、魔物の数が増えすぎると、瘴気の密度が濃くなって、他の生物にも影響が出ますから。
瘴気が濃すぎる場所では、泉に浸かった人間でさえ気分が悪くなってしまう程です。世界の毒をこまめに浄化するには、瘴気を身体に溜め込んでいる魔物を退治するのが一番です」
「…………」
「…………」
私はどう返事していいかわからず沈黙した。隣ではクローツも同じように黙り込んでいる。
彼は私と違い魔物の成り立ちは知っていただろうに、兄の話に身を竦めた。口元は微笑んでいながらも、その眼が鋭さを持ったのに気づいたからだろう。

「魔法の属性の基本は、地・水・火・風・氷・雷・光・闇・妖・幻の十種類ですが、ごく稀に、聖の属性を持つ方が現れます。そういう方は聖人と崇められ敬われます。その理由は、魔物を退治する以外で、土地に溜まる瘴気を浄化できる唯一の力を持つからです。
ですがそんな方々は世界に数人しかおられませんし、一度瘴気に染まり魔物となったものを救う術は、彼らにすらない。
……魔物を魔物でなくすには、殺すしか方法がない。だからこそ冒険者は、死をもって彼らの魂を救う役割を持つと言われています。―――――キーセ君、元が自分達と同じと知って、魔物を退治するのに躊躇いを覚えましたか?」
「……そうですね。正直に言えば」
問われて力なく頷く。

異世界だから、魔物だからで済ませて、私は魔物と呼ばれる存在がどういうものなのか、詳しく知ろうとしていなかった。その事自体に、後悔と罪悪感を覚えた。

「実際に魔物と相対する際に躊躇は命取りですので、割り切りは必要ですが、君達には、英雄気取りで魔物退治して快感を覚えるような人にはなってほしくないです。
死を悼む気持ちを忘れず、彼らを倒す事で瘴気から解放し、来世の幸福を祈る。それが神殿の教えですし。……これも本来なら私などよりも、神官や巫女が言うべき言葉ですがね」
教官が苦笑する。クローツがその様子を上目遣いで窺った。

「にーちゃん、俺らが魔法に浮かれてたから、怒ってる?」
「怒ってはいないよ。ただ、魔法は便利な道具ではなく、世界からの祝福だという気持ちを忘れないでほしいって思ってね」
先程までの眼光の鋭さを消し去って、クロス教官が兄としての顔で笑う。

「うん、わかった。気をつける」
「肝に銘じます」

魔法の話題で浮かれていた私達は顔を見合わせ、神妙に頷いた。


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