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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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8、穴を掘って埋まりたい反省会

新学期開始まで残りの日数が少なくなってきて、寄宿舎に次第に人数が増えてきた。
大半は、クローツと同じで小学校を卒業したばかりの年齢だが、その枠から外れる年少者や年長者の姿もちらほらと見掛ける。
それ以外にも、人外の……エルフ族や小人族や獣人族といった異種族の姿もある。
私が暮らす部屋も、これからしばらく生活を共にする同室者が揃った。
一人は当然クローツである。相変わらず彼の美貌は凄まじく、「なんで女の子が男子寮に!?」とぎょっとして叫ばれたり、動くのも忘れてぼーっと見惚れられたりしていたのだが、本人は至って無自覚で、呑気に「これからよろしくな、キーセ!」と挨拶してくださった。
思わず拝みたくなるような、眩いばかりの笑顔だった。


二人目は小人族で、見た目は幼児だが、その大きさは人間の赤ん坊よりやや小さめ。しかしポケットに入れるには少し大きい程度の姿をしている。
黒目が大きくてクリクリしていてとても可愛らしい、小動物系の子だ。
子供や動物が特に好きな訳でない私ですら、彼を見ていると、無性に抱きしめて撫でくり回したいという衝動に駆られてしまう恐ろしい魅力を持っている。
しかし人を見下した、捻くれた性格をしているのが難だ。
名前はアーノルド・レッガート。薄茶の髪に琥珀色の瞳をしている。
「同室のよしみで、余をノルドと呼ぶのを許そう」と、小さな身体で偉そうに胸を張って言うので、私達はノルドと呼んでいる。
見た目も幼いが、実年齢もまだ11だそうだ。どちらにしろ若い。態度は一番デカイが室内最年少だ。

「ってゆーか、11って、義務教育はどーしたん?」
「人間どもの義務など、偉大なるテトラ族には適用せん」
「んでも冒険するには、移動が大変そーな大きさだよな」
「そなたらが余の足となれば無問題だ!」
「足!?」
「余は、移動の足を確保する為に、態々この学び舎まで来てやったのだ!」
「どーいう理由だそれはーっ!!」
ノルドとクローツがよく口喧嘩するので、部屋が一気に賑やかになった。


もう一人はエルフ族。見た目は7つくらいだが、実年齢は私と同じ19。エルフ族は理想の泉に入らずとも元より成長が遅く、寿命も人より長いのだそうだ。
名前はシェルカール・ラーズレエア。こちらも「吾の事は、シェルとお呼び下さいますよう」との事なので、通称で呼んでいる。
……シェルもノルドも言葉遣いが妙だが、そこは個性と受け止めておく。
銀髪に紫の瞳をした彼も、クローツに然程劣らぬ美貌の持ち主だ。流石はエルフ、美しいのは種族的特徴か。

「シェルはなんで冒険者になろーと思ったんだ?」
「父母より武者修行の旅へ出るよう申し付かりまして。吾は未だ若輩者故、まずは世間を知る為にこちらで学ぼうと思った次第であります」
「武者修行って、エルフの優美なイメージとは程遠い気がするけど……」
「吾が家は、代々続く武士の家系であります故」
「武士!?」


……随分と個性的な面子が集まったものだ。
シェルは私と同い年だが、見た目は幼い。ノルドだって凄く小さい。それでも彼らはそんなハンデをものともせずに、一人前の冒険者となるべく、自分より大きな相手に混じって頑張るつもりなのだ。
――――そう考えたら、何か胸の辺りがモヤモヤした。


(しかし、私とクローツ以外は見た目子供とは。……クロス教官、完璧に弟の同室者を安全圏で固めたな)

安全圏ではあるが、同時に変り種ばかり。私だって異世界人だと考えると、この部屋で普通の人間なのはクローツ一人だけである。
その過保護ぶりに呆れていたら、新学期が始まる前日になって、意気消沈したクロス教官からこっそりと、担当官の交替を伝えられた。


「……担当、入れ替えって」

いきなりの話に驚く。
そもそも彼には、担当になるからと秘密を打ち明けたのだ。それが、新学期が始まる前から担当替えとは一体何事か?
唖然とする私に、教官は「すみません」と謝る。

「弟の同室者と班分けに関して裏から手を回したのが、不正に厳しい同僚にバレてしまいまして。身内だからと贔屓するのは、周りにも本人にも悪影響を与えるだけだと、厳重注意を受け、担当交替という処置になってしまいまして」
「う、それは。……真っ当な正論すぎて、反論のしようがありませんね……」
「ええ、正論です。不正していたのは私ですし、文句は言えません」

クロス教官は反省している。余程きつい説教を受けたようだ。
弟が心配なのは仕方ないにしても、確かに教官として相応しくない行為だったと、自覚はあったらしい。
共犯の私も居た堪れない気持ちになる。幸い、私との取引の事まではバレていないが、やはり後ろめたい。

「キーセ君にも申し訳ない事をしました。君とクローツを同じ班に入れてしまったので、私がその班の担当から外された事で、結果的に君の担当からも外れてしまって。
……君の事情を知っている学長に頼んで班分けを再編してもらえば間に合うのですが、そうなると今度は、どうして君の担当が私でなくばならないのかと、他の教官に不審に思われてしまうでしょうし……」
「いえ、いいです。そこまでご迷惑は掛けられません」

彼は彼なりに、私の秘密を知りながらフォローできなくなった事に罪悪感を感じている。それを知って、私の方が申し訳なくなった。
彼は確かに見返りに取引を持ちかけてきたが、勉強はきちんと教えてくれたし、こまめに面倒を見てくれた。
謝る必要はないと首を振る。

「元々、こちらの都合で一方的に秘密を打ち明けて、フォローを頼んだだけですから」

口にしながら改めてその意味を考えて、今更だが、自分の厚顔さに気づく。
無意識に堂々と、「私を優遇してほしい」と頼んでいたも同然だった訳で。

(うわ。穴があったら入りたい。寧ろ、穴を掘って埋まりたい。
確かに私は異世界人だってハンデはあるけど、他の人だって苦労やハンデはあるはずなのに、自分だけ特別扱いして助けてもらおうと思っていた性根が恥ずかしい、今すぐ叩き直したいっ)

つい、机に頭をぶつけて反省する。

「キ、キーセ君?」
「私の方が反省しないと」
突如奇行に走った私の姿に慌てる教官に、頭を机に押し付けたまま答える。

幼い姿の同室者達を見て、胸がモヤモヤした理由がようやくわかった。
皆、それぞれ頑張ろうとしているのに、私一人がズルをしようとしていたのだ。

性別が変わった事を秘密にすると決めたのは自分なのだ。本来ならば学長や教官に秘密を明かしたりせず、自分だけで何とかすべきだったのだ。
……気づいてしまえば、こんなに情けない事はない。


改めて教官にこちらの心情を話して、二人して溜息をつく。

「私は元より、清く正しくなんて立派な性格はしてませんが、それでも、自分が無自覚に甘えていたと実感させられて落ち込みました。……もう少しマシな人間でいたかったというか」
「君はこの世界に頼る人もいないのですし、それくらいは甘えていいのでは?」
「いえ。結局、冒険者を目指すと決めたのは自分ですから。それに、甘えていい相手に適度に甘えるのと違って、誰彼構わず甘えて当然って態度は、見ていて腹が立つじゃないですか」
そんな甘ったれた相手とは親しくしたくない。そういう行動を知らず自分が取ってしまっていた事に、自己嫌悪が募る。

「まあ確かに、甘ったれた男なんて可愛くないですが。でもそう言われると、僕も迂闊にクローツを特別扱いできなくなるじゃないですか。あの子だって、いくら可愛らしくても、男の子な訳ですし」
「バレて叱られたからには仕方ないでしょう。それに本当に危険な場面では、自分だけが頼りです。甘やかされるのに慣れてしまっては、それが命取りになりかねません」
今まで言わずに済ませてきた事を口にする。教官は切なげに息をついて、首を横に振った。

「わかっていても割り切れないんですよ。クローツはたった一人の大切な家族です。目に入れても痛くないくらい可愛い弟なんですよ?」
「いい歳した大人が涙ぐまないで下さい。取引は別としても、クローツの事は友人として、ちゃんと面倒見ますから」
これからは普通の友人としてクローツと向き合おう。取引がふいになったからこそ、後ろめたさを感じずに彼と付き合える。その点では、これで良かったのかもしれない。

「うう、君にそんなふうに言われると、自分が本当に駄目な大人なんだと実感させられます」
「私も先程、自分の駄目さ加減を実感した所です」

私達は夜遅くの自習室で、思う存分反省会を開いた。



「でもやっぱりアルバイトしません? キーセ君。用心棒の」
「……実は反省してないんですか? いい加減にしないと、教官職を首になると思います」
「だってやっぱり心配なんですー!」
「いい大人が未練がましいです。「だって」とか言わないで下さい」
「うううううう」


心の薄汚れた大人は、例え反省したとしても、それに応じた行動が取れなかったりもするようだ。
私もあまり人の事は言えないが、ここまで駄目な大人にはなりたくないと、密かに心に誓った。


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