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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 十四章 3

「アライアス。彼らが今回君をサポートしてくれる「裁きの手」の者たちだ」


月長石の賢者であるランディーノ・カル・ネルが、後ろに二人の者を伴って、僕のいる資料室にやってきた。
カル・ネルは森の妖精であるエルフ族の出身で、両耳が長く尖っており、銀髪に緑の瞳をしている。
僕が協会本部に留学していた頃、同じ賢者の立場である事もあって、彼とはわりと親しくしていた。
彼は物静かで誰にでも人当たりが良いが、芯はしっかりしており、いざという時頼りになる、信頼できる相手だ。

そのカル・ネルが連れてきたのが、これから僕に同行し共に調査をするという「裁きの手」の者たちらしい。僕はそちらの二人とは初顔合わせだ。
僕がこの本部に留学に来ていたのは数年前の話だし、留学期間も三年程度と短かったのもあって、すべての魔術師と顔見知りではない。
その中でも特に、最高幹部直属の「裁きの手」の者たちは、裁きの対象となりうるすべての魔術師に対して厳しい情報規制がされている故に、直接会う機会はほぼないと言っていい。
彼らは通常は彼らだけで動くのが普通であり、今回のように、裁きの手以外の魔術師と組んで動く事は稀なのだ。


カル・ネルの後ろにいる二人の内、一人はケット・シーと呼ばれる獣人の一種だった。背丈は僕の腰くらいまでで、白い毛並みに琥珀の縦長の瞳孔の瞳をした、猫そのままの顔をしている。
また、顔だけでなく、ケット・シーという種族は体全体が猫のようで、大きな猫が服を着て直立歩行で歩いているという感じだ。

「こちらが「執行人」のハズ君」
「ハズっす。よろしくす」
カル・ネルの紹介を受けて、肉球のある小さな手を上げて、ハズが僕に自己紹介する。声からすると、性別は男のようだ。年齢は、人として換算するなら、恐らくは20代前半程度。
全体の毛並みは白いが、ゆらゆら揺れるしっぽとピクピク動く耳の毛先が青みがかっている。
(動物好きの女どもに受けそうな外見だな)というのが、僕の受けた第一印象だった。

獣人は総括的に魔術に疎いので、協会本部に獣人の魔術師がいるのは少しだけ意外だった。
というのも、獣人は戦闘本能が強い、肉弾戦を得意とする種が多いからだ。
だが、ケット・シーは獣人の中では知的な種族である。それに獣人の魔術師も、全体的に見ればかなり少ないのは確かだが、皆無という訳でもない。

「その烏うまそうすね。喰っていいすか」
僕の肩に乗っていた烏を見てキランと眼を輝かせ、しっぽを揺らめかせるハズに、僕の使役である三羽烏の一羽であるガレットが、「いい訳あるかーっ」と声を荒立て、羽を広げて威嚇した。

「精獣を喰おうとするなど、非常識な」
「冗談す」
僕が冷えた眼差しで一瞥すると、ハズは両手を振ってみせる。執行人という職務についているにしては、やや軽い性格の持ち主らしい。

「そして、こちらが「断罪者」のリリーさん」
「……リリーです」
(女、か)
性別に真っ先に反応してしまう辺り、やはり僕は相当の女嫌いだ。
カル・ネルの紹介で僅かに頭を下げたのは、ハズとは対象的に寡黙で落ち着いた、大柄な女だった。僕と同じ黒髪黒目をしている。
まあ、協会本部には世界中から様々な人種や種族が集まるので、グリンローザでは珍しい黒髪黒目も、ここでは珍しいものではない。人でない種族の割合が半数を占めるような場所なのだ。髪や眼の色の違いなど、些細な事として片付けられる。

リリーという女は、僕と目線が合う程に大柄な体躯で、背中に身長と同じ程の長さの、大きく幅の広い剣を背負っていた。服装も動きやすいズボンに黒の革鎧を着こんでおり、魔術師というよりは戦士のような装いだ。
眦がきつく吊り上っており、その切れ長の双眸と固く引き結ばれた唇、そして青白い肌からは、鋭く冷たい印象を受けた。

「ハズ君、リリーさん。知っているだろうが、アライアスは金緑石の賢者。精霊魔術の一大国であるグリンローザ一の魔術師だ」

カル・ネルから改めて紹介されるまでもなく、彼らは僕の事を知っているだろう。
それは僕が有名だからではない。「裁きの手」の者たちは、自分たち以外の魔術師を、同僚としてではなく、「監視対象」として見るのだから。
しばらくとはいえ、行動を共にする魔術師の情報を調べていない訳がない。

「彼らはその任務の特殊さ故に、詳しい経歴や本名を明かせないが、有能な人材だというのは私が保証しよう」

初対面である僕と彼らの間で、カル・ネルが静かに微笑む。控えめながらも他者を説得する力のある、独特の微笑みだ。
エルフは人の何十倍のも寿命を持つから、若く見えてもカル・ネルは、ポロックル族のフロイトよりも更に長生きしている。その分、滲み出る威信のようなものがあるのだろう。

「私はここで情報収集をするようフロイト殿から言われているので、本部からは動けないんだ。なのでその分も、君には手掛かりがありそうな場所を、積極的に回っていってほしいと思う」
「わかっている。元よりそのつもりだ」

僕は頷き返す。
今回の精獣の行方不明事件では、参議のフロイトが総責任者となり、人材をどう動かすのか決める事となった。そしてカル・ネルはその補佐として、本部に詰めなければならないという。
現場で動く者を統率するのが彼らの、そして実際に手掛かりを探すのが、僕と裁きの手の者たちの今回の役割という訳だ。
勿論、僕らの他にも、多くの魔術師が事の解決の為に奔走している。

契約によって精獣を使役する魔術師にとって、精獣との関係……ひいては、このセルフィーダとラエルシードの関係を良好に保つ事は、とても重大な課題だ。
人と精獣の関係が悪化すれば、召喚術という四大魔術の形態が崩れるだけでなく、世界の均衡そのものが崩れかねないからだ。

魔術師とは、世界の均衡を正しく保つ役割を負った存在でもある。
自分たちの住む世界の中の均衡、別の世界とこの世界の均衡を保ち、支える柱の一つなのである。
……鳥の姫の話によれば、消えた精獣たちはことごとく魔術師によって召喚され、そのまま「戻ってこない」のだという。
だとすれば、均衡を保つ役割を持つ魔術師が、逆に均衡を乱すような真似をしている可能性が高いと言わざるをえない。
ならば尚更、魔術師の犯した過ちは、魔術師の手によって始末をつけなければならない。

今回の件が長引けば長引く程……被害が大きければ大きい程に、魔術師は精獣からの信頼を失っていき、世界の均衡は乱される。
なんとしても、早期に解決しなければ。



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