六章 『石の財務長官』「融通の利かんケチ男が! おまえにはもう頼まん!」
「
うざい死ね。言っておくが、他から出費を捻りだせると思うなよ、この馬鹿者が」
「おまえは弟のクセに生意気すぎるぞ!」
「ふん。愚かな兄を持ったおかげで、僕は苦労してばかりだ」
「その生意気な口を閉じろ! エクスカイル!」
「仕事の邪魔だ。用事が済んだならさっさと退席しろ」
「この石頭が!」
怒鳴り散らした挙句に扉を乱暴に蹴破って、このグリンローザ王国の第一王子ジークフリードが走り去った。
部屋にようやく静寂が戻る。
僕は書類に向き合っていつもの作業を再開する。
補佐の不吉眼が、開け放たれたままの扉へと近づいていって、ノブに手をかけたところで動きを止めた。
「なんだ。何故さっさと閉めん」
「蝶番が壊れてる」
「死ね、あの腐れ男」僕は舌打ちする。これでまた、予定外の費用が出るではないか。
あの男、許すまじ。
「仮にも兄上に対して、その言い様はどうかと思うけど」
「うるさい不吉眼」
「それは申し訳ありません、長官」
言葉だけは謝っているものの、誠意が感じられない。慇懃無礼というやつだ。僕が睨みつけると、不吉眼は無言で肩を竦めて自分の机に戻った。
飄々とした態度だ。僕の険のある視線にまったく動じていない。まあそうでもなければ、この僕の補佐など務まるはずもないが。
そういえば、兄弟というならば、先程の馬鹿もだが、この目の前のエディアローズもそうだ。
どちらも不本意な愚兄であるとはいえ、一応は「兄」である。
「馬鹿」と「不吉」。どちらも非常に不名誉な存在で、僕はこいつらを兄と呼ぶのも嫌だが。
もっとも、こいつらだけでなく、僕の兄弟は僕以外、皆揃って「無能」か「変人」といった不名誉だらけだ。嘆かわしい事この上ない。
我が王家の血筋は妙なのが多くて、まったく嫌になる。
「孤児院の遊具だと? ふん、そんなものの為に、国庫に負担を求めるとは嘆かわしい。あの馬鹿が第一王子だと思うと、我が国の行く末が不安になるわ」
僕は眉間の皺を寄せて、書類を睨む。
無駄遣いする馬鹿どもが全員死ねばいいのに。国民の血税を何だと思っているのだ。
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