「磁気?」
知識としては知ってはいるものの、普段聞きなれないその単語に、私は首を傾げた。
方位を測るコンパスなどに磁石が利用されているというのは知っているが、日常生活にはあまり馴染みがない代物だ。
「そうだ。コンパスなどに利用する磁気を帯びた金属を磁石という。……磁力の性質はわかるな?」
「N極とS極に分かれていて、異極間では引き寄せあって、同極間では退け合う力、でしょうか?」
「その通りだ。これからおまえに、それを利用した力の使い方を学ばせる」
ヒース師匠に力強く宣言されたのはいいのだけど、私には、磁気で訓練というのがどういう事なのか、今一つピンとこなかった。
訓練自体に文句はない。むしろどんな訓練でも、力をつけてもらえるならば大歓迎だ。私はその為にここにいるのだから。
「磁気と魔術に関連があるんですか?」
「四大魔術の枠には入らないが、おまえにとっては有用なものになるはずだ。磁気は重力と性質が似ているから、おまえでも習得できる可能性があるしな」
それを聞いて驚く。
もしかして師匠は、私でも扱える力がないか考えて、磁気という、一般には浸透していない方法まで辿り着いたのだろうか。
ただでさえ押し掛け弟子だというのに。
お金持ちの師匠にとっては何のメリットもないのに。
それなのにこの人は、出来の悪い弟子の魔術を上達させる方法を、ずっと真剣に、考えていてくれたのだろうか。
「自身の魔力をそのまま力に変換する方法は正式な魔術と認められていないから、魔術師の間では浸透していない。魔術とは、魔力を効率良く使う為に他の力を借りて術を行使するのが本来のスタイルだからだ。……だが、たとえ効率の悪い方法でも、使いこなせると使いこなせないとでは、いざという時に差が出る」
「はい」
確かにそうだ。
私は四大魔術を一つも使いこなせないけれど、二番目の師匠の元で重力について学び、それと格闘を合わせる事で、独自のスタイルを創り出した。
それは、魔術師として認められるものではなくとも、戦う上では有効な手段となっている。
使いこなせると使いこなせないとでは絶対の差がある。それはどんなものにも同じ事が言えると思う。
知識だってそうだ。必要な事を知っていると知らないとでは、いざという時に取れる行動の選択肢が違ってくる。
ただ、魔術師協会が他の力を借りて効率を良くした技だけを魔術と認めているのには、れっきとした理由がある。
一人の人間が使える魔力の総量はたかが知れていて、どうしても限界があるからだ。
自身の魔力をそのまま力に変換するだけでは、大きな力も使えず、すぐに魔力が切れてしまう。
師匠のように膨大な魔力を持つ者などごく稀な存在だ。だからこそ、人が奇跡を起こすには、相応の技術が求められるのだ。
「協会に認められていない力の訓練をするのは遠回りな手段だが、今のところ、おまえが使いこなせそうな力は、他に思いつけなかった」
わずかに自責の念を滲ませた言葉に、私の方が謝りたい気持ちになる。
(師匠が自分を責める必要なんて、何一つないのに)
「ヒース師匠、ありがとうございます」
謝る代わりに、感謝の念を籠めてお礼を言った。
「何がだ?」
「……いいえ」
その美しい顔に怪訝な表情を浮かべられて、結局は首を振った。
(わからないかな、この人は)
どうして私がお礼を言ったのか、この様子では全然わかっていない。
素直にお礼の動機を述べたところで、きっと「何の嫌味だ」と、嫌そうな顔をされて終わりだろう。
言葉ではうまく言い表せなくて、私は師匠に深く頭を下げた。
「精一杯、頑張ります」
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