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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 九章 3

「磁気?」

知識としては知ってはいるものの、普段聞きなれないその単語に、私は首を傾げた。
方位を測るコンパスなどに磁石が利用されているというのは知っているが、日常生活にはあまり馴染みがない代物だ。

「そうだ。コンパスなどに利用する磁気を帯びた金属を磁石という。……磁力の性質はわかるな?」
「N極とS極に分かれていて、異極間では引き寄せあって、同極間では退け合う力、でしょうか?」
「その通りだ。これからおまえに、それを利用した力の使い方を学ばせる」

ヒース師匠に力強く宣言されたのはいいのだけど、私には、磁気で訓練というのがどういう事なのか、今一つピンとこなかった。
訓練自体に文句はない。むしろどんな訓練でも、力をつけてもらえるならば大歓迎だ。私はその為にここにいるのだから。

「磁気と魔術に関連があるんですか?」
「四大魔術の枠には入らないが、おまえにとっては有用なものになるはずだ。磁気は重力と性質が似ているから、おまえでも習得できる可能性があるしな」

それを聞いて驚く。
もしかして師匠は、私でも扱える力がないか考えて、磁気という、一般には浸透していない方法まで辿り着いたのだろうか。
ただでさえ押し掛け弟子だというのに。
お金持ちの師匠にとっては何のメリットもないのに。
それなのにこの人は、出来の悪い弟子の魔術を上達させる方法を、ずっと真剣に、考えていてくれたのだろうか。

「自身の魔力をそのまま力に変換する方法は正式な魔術と認められていないから、魔術師の間では浸透していない。魔術とは、魔力を効率良く使う為に他の力を借りて術を行使するのが本来のスタイルだからだ。……だが、たとえ効率の悪い方法でも、使いこなせると使いこなせないとでは、いざという時に差が出る」
「はい」

確かにそうだ。
私は四大魔術を一つも使いこなせないけれど、二番目の師匠の元で重力について学び、それと格闘を合わせる事で、独自のスタイルを創り出した。
それは、魔術師として認められるものではなくとも、戦う上では有効な手段となっている。
使いこなせると使いこなせないとでは絶対の差がある。それはどんなものにも同じ事が言えると思う。
知識だってそうだ。必要な事を知っていると知らないとでは、いざという時に取れる行動の選択肢が違ってくる。

ただ、魔術師協会が他の力を借りて効率を良くした技だけを魔術と認めているのには、れっきとした理由がある。
一人の人間が使える魔力の総量はたかが知れていて、どうしても限界があるからだ。
自身の魔力をそのまま力に変換するだけでは、大きな力も使えず、すぐに魔力が切れてしまう。
師匠のように膨大な魔力を持つ者などごく稀な存在だ。だからこそ、人が奇跡を起こすには、相応の技術が求められるのだ。

「協会に認められていない力の訓練をするのは遠回りな手段だが、今のところ、おまえが使いこなせそうな力は、他に思いつけなかった」

わずかに自責の念を滲ませた言葉に、私の方が謝りたい気持ちになる。
(師匠が自分を責める必要なんて、何一つないのに)

「ヒース師匠、ありがとうございます」
謝る代わりに、感謝の念を籠めてお礼を言った。

「何がだ?」
「……いいえ」

その美しい顔に怪訝な表情を浮かべられて、結局は首を振った。

(わからないかな、この人は)
どうして私がお礼を言ったのか、この様子では全然わかっていない。
素直にお礼の動機を述べたところで、きっと「何の嫌味だ」と、嫌そうな顔をされて終わりだろう。
言葉ではうまく言い表せなくて、私は師匠に深く頭を下げた。


「精一杯、頑張ります」



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無題
疑問点が2つ。

タイトルの「凶王子」、タイトルから推測してエディアローズの兄弟?3話になって陰も形も出てないんですが。次話のタイトルの方が良いような?


磁力、普及してないのになんでそんな詳細な研究が?
NとSもリアルの話で、何故異世界であるはずのそっちでも同じ名称?翻訳?

更新頻度の高さで楽しみにしています。それだけに疑問点にツッコミ入れますね~w
磁力とタイトルについて
ネクロスさん、再度のコメントありがとうございます。
タイトルについては、私も、すぐに凶王子本題に入れないのでどうしようか迷ったのですが、終わってみれば八章はこの人中心の話になってるはず……という予定(未定)でつけてみました。途中で区切るにも、しばらくスノウ視点が続くので、どこで区切っていいのかわからなくなりまして(汗)

磁石はこの世界ではまだ、コンパスに使われているくらいで、他の用途にはろくに使われておらず、一般には浸透していません。
本を良く読むスノウは知識で知っていたものの実物を見た事がなかったので、やや疑問系で答えた、というふうに設定しました。普通の人なら、いきなり「磁気とは何か」と聞かれても、答えられないかと。
師匠は元からある知識を基盤に、現在進行形で独自に研究してます。

名称については、N極とS極に改めて別の名前をつける必要を感じなかったので、リアルからそのまま流用しました。
この物語では、本来異世界にはありえないはずのカタカナ外来語が普通に使われていたり、リアルと虚構が混ざったりしています。
ハイファンタジーとは程遠いライトファンタジーとして、お気軽に読んでいただければ嬉しいです。
【 管理人Alika 2009/06/28 06:38】
無題
今まで長くて8話なうえ、タイトルと本題が直結してたので(^^;)

磁石の歴史調べてみた。
磁石の製造が可能ならばリアルの西暦1600年くらい?
方角を知るためには磁石が普及しないとか分からなかったり。みんな、星座だけで方角を知ろうとしてるのかな。

資料もとのサイト↓
http://www.neomag.jp/magnet_history/history_top.html
色々とツッコミはあるでしょうが
確かに、コンパスがあるのに磁気の詳しい仕組みが一般に普及してないのはおかしいかもしれません。一般の人はコンパスを知らないか、知っていても「これは方角を示す道具」とだけわかっても、その原理については詳しくないと考えて書いたのですが、やはり矛盾しているでしょうか。

とりあえず、「異世界ライトファンタジーなので」の一言で全部逃げたい気持ちです。書き手の私自身、物語の世界がどんな文明と歴史をもっているのか手探り状態で、書きながら設定を考えている始末ですので。

スノウみたいにきちんと本を読んで理解して理詰めで語れれば良いのですが、私は勉強が苦手なのに趣味で文章を書いているので、博学な方からすれば首を傾げる部分がたくさんあると思います。磁石に関してのみでなく、深く調べず適当に書く事柄はいくらもあります。

ただ、今後、世界観などで矛盾があっても、さらっとスルーしてくださるとありがたいです。コメントをくださるのは大変嬉しいですが、至らない点へのご指摘だと、どうしても落ち込んでしまいますので。
手前勝手な意見ですが、どうそよろしくお願いします。
【 管理人Alika 2009/06/29 10:49】
無題
>確かに、コンパスがあるのに磁気の詳しい仕組みが一般に普及してないのはおかしいかもしれません。一般の人はコンパスを知らないか、知っていても「これは方角を示す道具」とだけわかっても、その原理については詳しくないと考えて書いたのですが、やはり矛盾しているでしょうか。

矛盾、してないですよ?これが矛盾してたとするならリアルの文明はもっと進歩してるもの。

以降は適当に流しますね~
ありがとうございます。
せっかくのコメントにあれこれ注文をつけて申し訳ありません。ご理解いただき、ありがとうございます。
おかしな事が書かれていても、苦笑しつつ流してくださいませ。
今後とも本作を読んでいただければ幸いです。
【 管理人Alika 2009/06/29 17:32】
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