次元を歪めて界と界を繋げてある洞窟を抜けて、ようやくわたしは、かつて暮らしていた世界へ戻ってきた。
洞窟の外は深い森が広がってる。
父に引き取られて以来、人間界に来る事はなかったから、もう五年ぶり。
わたしは十八歳になった。でも見た目は十五歳。魔族の血を半分引いてるから、老化が止まってるの。
その上、半分は人間なものだから、アズのように好きに年齢に姿を変えられない。ちょっと不便ね。
「ユーエリシェンお嬢さま?」
「ウーリィね?」
「はいっ」
木の影からこっそり顔を覗かせる相手を見つける。声を掛け合って確認すると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
青い髪に青い瞳の七歳くらいの外見のこの子は、私の従者。
わたしを迎えにきた父の配下が、自分の子供を私の従者にしてくれたのだ。
ウーリィ……ウリは、見た目は少年っぽいけれど、普段は性別がない無性体で、繁殖期には雌雄どちらにもなれる種族なの。
こうして人の形にもなれるけど、本当の姿は青鱗の魔竜。
この子は幼竜だから、まだわたしを乗せて飛べるような大きさにはなれないけど、いつか大きく育ったら、騎竜も兼ねてくれるっていう。楽しみだわ。
「ユエ、もしかしてウリに先行させてたんだ?」
「そうよ。わたしが武器庫でこっそり武器を調達してる間に、ウリに街で宝石を換金してもらって、人間界で必要なお金や装備を揃えてもらったの。身一つで出てくるなんて怖い事しないわ」
最初から、この洞窟の出入り口で落ちあう計画だった。
ウリはわりと上位の魔竜だから大丈夫だと思ってたけど、小さい子を一人で先行させたのはちょっと無茶だったかもと心配もしてた。でも無事で良かった。
「アズリさま、どうしてこちらに?」
ウリが予定外の相手がいるのにびっくりする。
「うん? ユエがこっそり屋敷を抜け出そうとするから、心配になって、ついてきてあげたんだ」
「だいじょーぶです。お嬢さまは置き手紙に、「ちょっと遊びにいく」って書いたです。ぼくはお嬢さまの従者だから、いつもお傍にいて、お世話しなくちゃなんです」
ウリが能天気に言い募る。
それで済むならいいんだけど、多分、そう簡単な話じゃない。
いくら父が究極の放任主義で、引き取られた時に一度会ったきりとはいえ、父の配下が子供の好き勝手を許すとは限らないし。
帰ったらどうなるか、考えるとかなり怖い。
でも、わたしはまともな恋がしたくて、我慢しきれずに飛び出してきてしまった。
もう後戻りはできない。
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