十章 『副官の不在と小動物』「書類を散らかすな! この小動物が!」いつもは不吉眼が連れ歩いているその茶色いリスに怒鳴りつけるも、小動物には言葉が通じない。ただ慌てて、机の上から棚の上へ避難されて終わった。
僕が戻った時には、執務室は既に壊滅状態だった。
「くっ、おのれ! 畜生の分際で、
この僕が支配する財務省の中枢機能を麻痺させるとは……っ。
侮り難し小動物!」
睨んで硬直させ、いつもの癖でそのまま石化させようとしたのだが、寸前で思い留まった。
この小動物の主人が過労で倒れたのは、上司である僕にも責任がある。一度だけは恩赦してやろう。
――――年末、財務省は多忙を極めていた。
もうすぐ来る年始から建国記念日まで約一ヶ月に渡って行われる式典に関連して、直前になって「あれが足りなかった」だの「これを追加したい」だのと、予定外の予算申請が一気に押し寄せてきたからだ。
計画性のないクズはこれだから嫌だ。元凶の連中は石化して、その後石から戻してみっちりと説教してやったが、それでもどうしても、予算配分しなおさなければ収まらない部分が数多残った。
年に一度の国を挙げての祭典だ。盛大にやらなければ国の威信に関わるとあって、敵も何度石化されても、懲りずに向かってくるときた。
仕方なしに、どうしても必要と認めた分だけは追加で予算を組むのだが……何しろ申請が多すぎて、とても捌ききれない。
山積みになった書類を、「許可」「一部許可」「却下」
「問題外」「死ね」とサインしてゆくも、次から次へと新たな書類が積み上がり、ちっとも仕事が減らない。それどころか増えてゆく一方だ。
そんな過酷な状況に、しまいには不吉眼が過労で倒れた。
「なんで俺がエディアローズを……」
「
うるさい馬鹿者が。頭が空っぽな分、力仕事くらいは役に立たんか」
「それが兄に対する言葉か!?」「おまえを兄と認めた事など一度もないわ」嫌がる馬鹿長兄をせっついて、不吉眼を王子宮まで運ばせ、不吉眼と親しくしている魔術師ヒースに使いを出して、ようやく執務室に戻ってきた。
そうしたら積み上げた書類が床一面に散らばっていた訳だ。
……不吉眼所有の小動物の犯行でさえなかったら、即刻死刑にしたところだ。
飼い主と一緒に王子宮に戻せば良かったのだろうが、不吉眼が倒れた時は慌てていたせいで、この小動物の存在をすっかり忘れ去っていたのだ。
ようやく棚から降りてきた小動物が、またも書類に突進しようとしたから、すかさず睨み付けて硬直させる。
その後、餌を与えたら大人しくなった。
とりあえず、今戻しても飼い主は盛大に寝込んでいるだろうから、不吉眼が復帰するまでは、僕がこの小動物の面倒を見てやるしかないだろう。
←back 「九章」10 「明日、花が咲くように」 目次へ next→ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング「Wandering Network」アクセスランキング「HONなび」投票ランキングPR