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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 二章 4

国から依頼されていた仕事がようやく一段落つき、深く嘆息しつつ、椅子に背凭れに背を預け目を閉じる。
僕が休憩を欲しているのを察して、シズヴィッドが手際よく茶を淹れ替え、ワゴンにメイドが用意しておいた茶菓子をテーブルに置くのを気配で感じる。
黙ったまま目を閉じていると、沈黙を壊さずに、先程までやっていた自分の仕事に戻っていった。

僕は視界を閉じたまま、周囲にある魔力へと感覚を研ぎ澄ませる。
空気中の漂う魔力、僕自身から溢れる魔力のその向こうに、魔導具の手入れをしている弟子の持つ魔力の波動を感じ取れる。
普段は眼で視てみるのも有効だが、こうして落ち着いた環境で精神を集中させ魔力の波動にのみ神経を集中させる事によって、普段は他に紛れて読み取れないような細かい部分まで、その性質を感じ取れるようになる。

(やはり大半の性質は変質に傾いているな……。本人が何の意図もしていない状態でここまで一つの魔力性質に偏った状態で器が維持されている事自体が、かなり珍しいと言えるな)

魔力を多く持つ者は自然と、その力を感じ取る第六感も研ぎ澄まされる。魔力を感じ取る感覚は他の五感と感覚を合わせる事で、より感じやすくなる場合が多く、対象の魔力を調べたい場合、多くの魔術師は「眼」に魔力を篭める事で「視る」方法を選ぶ。
これは他の五感……聴覚や嗅覚などでは通常の刺激と魔力の刺激の区別が付きにくい為であり、同時に煩わしく感じてしまう事が圧倒的に多いからだ。
例えば、その場にある様々な魔力の波長がすべて音として聞こえたら、不協和音の大合唱に聴こえて頭が痛くなってしまう。

(種族的に、生まれた時から特定の魔力性質に偏った存在は確かに多いが。エルフが森に親和する本能を持つが故に樹や草花といった大地の魔力性質に偏るように。或いは翼人が空を飛ぶ為に風や大気の性質に偏り、ノームが地下で暮らす故に土や石の性質に偏っているように)


それにしても、他種族との混血ではない生粋の人間だろうに、ここまで一つの性質に偏っている者は初めてみた。

この世界に生ける人類は多かれ少なかれ、すべての属性の魔力性質をその身に備えている。生まれる場所や種族や個人差によって偏りはあれど、生きていくには呼吸をして水を飲んで大地の上に立って火を熾して料理をしたり暖を取ったりする必要がある。
そういった日々の暮らしの中で、元素を取り込み排出する内に僅かながら同時に魔素をも取り込み自らの魔力へと変換しているのだ。
だから普通は人にとって、四大元素は馴染み深く親しみやすい性質を持っているのだが…………。
(こいつは四大元素がどれも薄い。薄いというか、変質の魔力に中てられてそれらの魔力まで変質してしまっていて、そのままでは使い物にならん)
知れば知る程、厄介な体質である。

シズヴィッドが僕の元に弟子入りして十日が過ぎた。
ペレの紹介状を携えて突然やってきたのが九月の終わり。現在は十月の半ばだ。十日程しか経っていないが、、あの日に比べれば少し涼しさが増してきたような気がする。
今はまだこの女の扱いは仮弟子であり、試験期間だが、この先本当に僕の弟子に相応しいと認めたならば、シズヴィッドが魔術師になれるよう、相応の訓練方法を考えなければならなくなる。


僕は基本的に、自分以外の他人に優先順位をつけている。友愛や親愛といった好意を僕が抱けるかどうか。利用価値があるかないか。有能か無能か。邪魔になるかならないか。
その基準は相手によって様々だが、自分にとって価値のある相手ならば、その価値に相応しいだけのものを割くし、そうでなければ程々に切り捨てる。

倣岸に聞こえるだろうが、僕は多くの優れたものをこの身に持っている。
それは金であったり身分であったり、魔力であったり美貌であったりする。それらは持たざる者にとって嫉妬と羨望の対象であるとそれなり理解している(させられてきた)し、同じように優越する立場にある者にとっても、利用価値の高い代物であるとも理解している。

シズヴィッドだって、所詮は僕の持つものを利用したくて強引に近づいてきた輩の一人に過ぎない。

だが、別にそれ自体は非難するつもりはない。
女嫌いと知っていて親しくもないのに突貫するには、突っ撥ねられるだけの覚悟はあったのだろうし、事実、売り言葉に買い言葉の勢いだったとはいえ、実際に僕に弟子入りを認めさせているのだ。その度胸と強かさは大したものだ。

要は、僕が持つものを差し出しても構わないと思わせるだけの「何か」を、僕自身に指し示し認めさせればいいのだ。
それが出来れば僕はこの女を弟子として認め、力を貸してやる。
ただそれだけの話だ。


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「明日、花が咲くように」 十四章 5

「高みの見物を決め込むつもりが、うっかりと総責任者などという立場を押し付けられてしまった。まあ、情報がいち早く入ってくるという意味では、一番の特等席と言えなくもないがね」

本部を発つ前に、総責任者となった参議のフロイトの執務室を訪れると、彼は小人族専用の特製の椅子にふんぞり返って、悪辣な表情でにやりと笑ってみせた。
緊急事態だというのに、フロイトはそれをどこか面白がっている雰囲気だ。元々、不穏時に裏で暗躍するのを楽しむような、物騒な性格の持ち主なのだ。今も、犯人をどう炙り出して処分するか、脳内であれこれと画策しているに違いない。
その狡猾さは、敵に回すと厄介だが、味方にするならある意味では頼もしいとも言える。

そのフロイトの補佐役に任命されたカル・ネルが、心配そうな表情で僕を見た。

「今回の件では既に、多くの魔術師や裁きの手の者達が調査に乗り出しているから、彼らから何か情報が入れば、すぐにそちらに知らせよう。そちらも何かわかったら連絡を入れてほしい。……それと、ハズ君やリリーさんは、今回はあくまでもアライアスの助手なのだから、彼のやり方が君らの本来のやり方と違っていても、彼の手助けを優先してほしい」

カル・ネルが、僕と共にこの部屋を訪れた裁きの手の二人を見やる。その言葉は落ち着いたものながらも、牽制の意味合いをも含んでいた。彼は、僕に監視がつけられたのを心底では納得していないのか、珍しく棘のある言葉を相手に向けている。

「心得ております」
「わかってますっす。カル・ネルさんは心配性すね」
断罪者のリリーがまるで表情を動かさず淡々と答え、執行人のハズは、目を細めてにしゃあと笑う。この二人は随分と対称的なコンビだ。
彼らは初対面の時から僕への対応もまるで違っており、ハズは馴れ馴れしい口調で関係ないような事まで気軽に口にするのに対し、リリーは事務的に、最低限の言葉しか話さない。

まあ元々、「断罪者」は長老直属の機関であり、「執行人」は参議直属の機関だ。
所属の違う彼らが行動を共にしているのは、魔術師を裁く権限を持つお互いが越権行為をしないよう、監視しあうのが目的だ。
上司が違う者同士がお互いを監視しあっている間柄なのだから、単純に「仲間」とは括れないのだろう。


「で、アライアス。君はどこから当たるつもりだね?」

フロイトが僕を見やる。

「……私の弟子が、現在ラエルシードで集めている情報を元に、行方の知れない精獣を使役していた魔術師を個別に当たっていこうかと」

未だ有効な手掛かりがない以上、行方不明になっている精獣が「どこの誰に使役されていたか」を調べるのは非常に重要で、不可欠な作業だ。
シズヴィッドは本人の強い希望で、精獣から話を聞いて回っている。
鳥の姫が同じ精獣として観点から話を聞きだすよりも、人独自の感覚で情報を聞きだせるなら、それで新たな手掛かりが見つかる可能性は、確かにある。
行方不明の精獣の身内や友人から話を聞ければ、特に重要な手掛かりに繋がる可能性もある。
僕はシズヴィッド経由で得られるそれらを順次、辿ってみるつもりだ。

精獣は、一度に一人の魔術師としか契約できない。既に他者と契約している精獣とは、二重契約を交わせない。
ならば行方不明の精獣と契約した魔術師を探せば、何かしらの手掛かりは得られるはずだ。

「ほう?」
フロイトが感嘆の声を上げる。

「ええ? そんなん危険じゃないすか? ってかお弟子さん、もうラエルシードにいるんすかっ!? 元から危険な場所だってのに、精獣はただでさえ、今回の事件でピリピリしてるんじゃないすか。そのお弟子さんって、そんなん任せられるくらい優秀なんすか」
ハズが驚きに目を見開いて、長いヒゲをピクピク動かす。

常識で考えれば有り得ない話に、驚く気持ちはわかる。
ラエルシードは僕と同程度の実力があってさえ、単独で動き回るには危険が伴う……そんな世界だ。そこに弟子を置いてきたとなれば、そういう心配が出るのももっともだ。
僕がラエルシードに召喚され、この件に関わった経緯は既に協会に報告してあったので彼らは知っている。
それに加えて、弟子を一人でそちらに残してきた理由や、その弟子が調査に乗り出した事などを説明してゆく。
説明が進むにつれて、面々の表情に、驚きと呆れの色が浮かんだ。

「それはまた大胆な。鳥の王の娘の守護は確かに心強いだろうが」
「え、そりゃすごいすけど、そのお弟子さん、ホントに大丈夫なんすか?」
「あちらでは契約を交わした精獣でさえ、絶対の支配下には置けないと言われています。ましてや鳥の姫とは、正式な契約すら交わしていないと? ……そんな状況下で、よく見習いを一人で置いてこれたものですね」

カル・ネル、ハズ、リリーが順次、それぞれの意見を口にしていく。
カル・ネルはやや心配そうながらも落ち着いていたが、ハズは非常に不安げに。そしてリリーは明らかに、僕が弟子を置いてきた事を批難する口振りだった。
これまでは最低限の言葉しか話してこなかったリリーが、僕に対して私的な意見を述べるのは、これが初めてだ。

「鳥の姫は信頼できそうかね」
探るような視線でフロイトが問うてくる。僕はそれに薄く微笑んだ。

「彼らは人よりずっと誠実です。約束は重きもの。「たかが口約束」であっても、理由もなく破りはしないでしょう。……それに私は、弟子を信じておりますので」

確かに僕も、シズヴィッドの心配はしている。だが同時に僕の中には、あれが無事に鳥の姫からの信頼を勝ち取るだろうという、確信にも似た思いがあった。

姫と相対するシズヴィッドの人柄を信じて、任せた。
そうでなければ僕はとうにラエルシードに戻り、強引にでも調査を中止させていたところだ。


(そこまで無茶をする以上は、持ち前の熱意と根性で姫の信頼を絶対に勝ち取れ、シズヴィッド。……それができなければ、僕が師としての権限でおまえを連れ戻しに行くぞ)




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「明日、花が咲くように」 十四章 4

かつて、精獣たちの王……鳥の王、獣の王、魚の王、蛇の王といった、精獣を統べるそれぞれの王が、魔術師協会と「いにしえの盟約」を交わした。
世界と世界の均衡を保つ役割を共に果たしていくと定めたその盟約が、現在の召喚術の基盤となっている。
その盟約があるからこそ、精獣はこちらの世界へ、魔術師と主従契約を交わし、使役という名目の「出稼ぎ」に来る事を了承しているのだ。

契約の際こそ、相手に己の力量を示す為に、多少強引に力技で契約を交わすのが主流となっているが、魔術師は己の使役する精獣を、決して使い捨ての駒として扱ってはならない。戦友として敬意を払うのが原則だ。

精獣を召喚して使役している最中に精獣に注ぐ魔力を報酬に、魔術師は彼らを雇っていると例えてもいい。
精獣にだって命があり意志がある。それを無理に捻じ曲げて己の都合を押し付けてはならないというのが、魔術師となる者が学ばねばならない基本の精神なのである。

「召喚されたまま戻ってこない精獣が、どうなっているのか気掛かりだな」
「生きていてくれるのを祈るばかりだ」
「そうだな」

就寝前に、ガレットと会話を交わす。
行方不明になっている精獣の中には、彼の身内や知り合いも含まれているかもしれない。彼にとっては決して他人事ではない。
精獣にとっても魔術師にとっても、行方の知れない精獣たちが今どうなっているのかは、最大の気掛かりだ。
もし同胞が惨い仕打ちを受けていれば、精獣たちは今後、魔術師と契約するのを嫌がって、契約の際に従来よりも激しい抵抗をするようになるだろう。
あるいは既に契約している精獣も、契約の解除を求めて暴れる事態になるかもしれない。

道を踏み外した者がいるなら、それを止めるのもまた、同じ魔術師の役割だ。
裁きの手の者はその役割のみに特化しているが、彼らに限らず、協会に所属するすべての魔術師には、堕ちた者を止める義務がある。
魔術の均衡を保つ為にも、戦友との信頼を保つ為にも。
そして、純粋な気持ちで魔術師を目指す、シズヴィッドのような見習いの未来の為にも。


「……そういえば、シズヴィッドの修行の方はどうだ? 危険な兆候はないか?」
「う」
「う、とは何だ? 何かあるのなら報告しろ」

挙動不審に羽を無意味に動かすガレットを、きつく睨みつける。
シズヴィッドには、ガレットの姉である三羽烏の長女シュレットをつけてある。シュレットには、何かあればすぐにガレットを通して僕に報告するよう、何度も言い含めておいた。
鳥の姫の約束を信用しない訳ではないが、あちらは元より、見習いには危険すぎる世界なのだ。どんな些細な事でも報告するように言ってあったのに、こちらに隠している事があると言わんばかりの態度は許し難い。

今更だが、精獣だけしか連絡手段を用意できなかった自分の失態が悔やまれる。
遠見鏡のような、魔術師同士が連絡を取り合う手段は、界と界を隔てては使えないとはいえ……そもそも、シズヴィッドでは遠見鏡が使いこなせないとはいえ。もう少しあちらの様子を探る、確実な手段を確保しておくべきだった。

「スノウちゃんは元気だから! むしろ元気すぎて、修行だけじゃなく、始まりの森の精獣たちから、行方不明の精獣の手掛かりを聞いて回ってるくらい、元気すぎて手に追えないくらい元気だし!」
「、はあっ!?」

(精獣から、直接話を聞いて回っている!?)
あまりにも予想外の事を言わた。
ガレットは僕に黙っていた事が後ろめたいらしく、目をあちこち彷徨わせ、人に例えるなら、冷や汗を流して焦っているというような雰囲気だ。
それでもこれだけはとばかりに、シズヴィッドが元気でやっている事を強調する。そこだけは間違いないと。

「一体どういう事だ?」
「や、修行はしてるんだけど、修行しながら平行して調査もできないかって、スノウちゃん本人が言い出したんだってば。シュレットがいくら危ないからって止めても、ここにいるからこそできる事があるはずだって言って聞かないんだってさ。鳥の姫も、スノウちゃんに説得されて、身は守るから話を聞いてみればよいって言い出すし!」

「…………、あいつは」
咄嗟に何と言っていいのかわからず、僕は片手で顔を覆った。


(どうしてこうも、予想の斜め上をかっとぶような行動ばかりするんだ? あれは)

折角、幸運にも、常ではできない修行の機会が与えられたのだから、それだけに集中すればいいだろうに。どうしてあいつは、自分の事だけで満足しないのか。
未だ見習いの身でありながら、もっとも危険な役を進んでやろうとするのか。

(本当は誰よりも、自分の修行に打ち込みたいのだろうに)

修行があまり捗らず、シズヴィッドの内心に、押し殺そうとしても消せない焦りがあったのに、僕は気づいていた。
そもそもペレの紹介状によれば、シズヴィッドが独学で魔術を学び始めたのは、僅か4歳の頃とあった。
13歳で弟子として魔術師に師事してからの期間を考えても、既に三年以上が経っている。そこまで長期間、魔術に全力で打ち込んできながらろくに芽が出なければ、焦燥が募るのも当然だ。これまで諦めずに努力してきたその根性には敬服させられる。

(それがようやく、チャンスが巡って来たというのに)
この事件を放っておけないと、自分だけ修行にばかり打ち込んではいられないと、できる事を探して、危険を承知で動き出しているというのか。


「…………あの、馬鹿が」

不安と心配が増したような、それでも師として誇らしいような、非常に複雑な気持ちで、僕は固く目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶ弟子は、まっすぐな眼差しで臆せずに僕に向かって笑ってみせて、「師匠、頑張りましょうね!」と、握りこぶしで力説していた。
あまりにも容易くそんな想像ができてしまう己に、小さく笑った。



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