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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 十三章 5

「おぬし、数年前から時折、この始まりの森にていびつな網を仕掛けては、精獣らが逃げ惑うのを、嘲笑うような余興をしておったろう?」

その言葉に、目の前が真っ赤に染まるような錯覚がする。
「そんな、余興なんて! ひ、ひどいです! 私は真剣に、精獣を召喚して、契約を交わしたくて頑張っていたのに!」
まさかまさかまさか、そんなふうに思われていたなんて!!

「……アレでかえ?」
やや呆れを滲ませた、姫の問い。
本気で私の召喚術をタチの悪い悪戯だと思っていたのが伝わってきて、憤りより、いっそ切なさが上回った。
精獣の側からそんなふうに見られていたと知って、もう悔しいやら情けないやらで、相当変な顔になってそうだ。

「精一杯、力の限り頑張って、これなんです!!」

「これは偏った変質の魔力性質を持つ故、精霊からも避けられる存在。しかしながら、魔術師への意欲を人一倍持つ者でもあります。召喚に関しても、ただ技が未熟であるだけで、決して悪意からの行動ではない事を、ご理解いただきたい」
もういっそ自棄になって叫ぶ私の後を、師匠が冷静に補足する。

「ではまことに、同胞をからかう気はなかったと?」
「契約したくともできぬ状況であると言う他なく。そちらに誤解を与えるような指導しかできなかった事を、師として、私からも謝罪いたします」
師匠にまで謝らせるハメになってしまい、私はどん底まで落ち込んだ。

「なんと拙い! あれがわざとではないとは、一体どんな不器用者かえ」
姫は大きく目を見開いて、心底驚いた表情で私を見つめた。人とは違う鳥の顔でも、ここまで素直に驚かれては、その表情も読み取れる。
「う、ううう」
「泣くな」
師匠が後ろから拳骨で私の頭をグリグリする。地味に痛い。
「泣いてません。ちょっと泣きたい気持ちではありますが」
「ぬ、どうやら、妾の勘違いであったようじゃ。同胞が戻って来ぬ件と、おぬしに関連があると思い、強引に呼び寄せた。すまなかったの」

姫が申し訳なさそうに謝ってくれた。根は良い人(鳥?)なんだと思う。素直に間違いを認めて謝罪してくださるんだもの。
それに少し冷静になってみれば、姫の勘違いも仕方がないと思えてきた。私が召喚術を試す度に、近場にいた精獣たちが逃げ惑っていたというなら、本当に大迷惑な行為だったろう。

「いいえ、姫。私が拙い技で迷惑を掛けていたと知らずに、闇雲に召喚を繰り返していたのが悪かったのです。姫のおかげで、自分の悪い点を知れました」
私は姫に頭を下げた。
いつまでも落ち込んでいても仕方ない。
今後、どうすればいいのかはまだわからないけれど、少なくとも今のやり方では精獣と契約するどころか、迷惑にしかなっていない現状を知れただけ、変化はあった。
悪いところを直せればまだ希望はあると、前向きに思わなければ。


「それより、精獣が連れ去られたまま戻ってこない問題の方が、極めて重大かと。いにしえの盟約を破りかねない危険なやりようは、決して見過ごせぬ事。私が早急に調査しましょう」

誤解が一通り解けたところで、師匠が改めてそう切り出した。
魔術師全体に関わる問題という意味では、そちらの方がよほど重要だ。
それは確かに放っておけない。すぐにでも真相を調べなければ。

「そうじゃな、おぬしに任せるか。妾の父上も、「人の世界のあやまちは人によって裁かせよ」と言うばかりで、我らの介入に良い顔をせなんだ。妾は黙って見ているのは性に合わんが、やはり人の事は人に任せるのが良いのやもしれぬ」

姫は己の手で解決に乗り出せないのが不満そうではあったが、結局はそう言った。もしかしたら私を間違って呼び寄せたのに責任を感じて、人に任せた方が良いと引き下がったのかもしれない。


でも、考えてみれば、姫の行動のおかげで私とともに「称号持ち」だという師匠が釣れて、いち早く重大な異変を知れた訳だから、結果的にはこれで良かったんじゃないだろうか。



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「明日、花が咲くように」 十三章 4

精獣は以前にも見た。前の師匠たちが召喚したのを間近で見た事がある。
けれど目の前の存在は、それらよりも遥かに高位なのではないだろうかと、不安とともに思う。
(師匠が言葉に気を遣わなければならない程の、とんでもない大物だとしたら?)


「私は、金緑石の賢者の呼び名を持つ魔術師。そしてこれは、私の弟子。何故この見習いを、こちら側に招くような真似を?」
師匠の言葉は硬質で、牽制の面があるような気がした。

「ほう、親鳥は称号持ちかや。妾は鳥の王の娘じゃ。そこな雛を呼び寄せたのは、ちと、訊きたい事があったからでの」
(鳥の王の娘!?)
案の定、高位の精獣であるらしいその相手は、喉の奥でくつくつと、面白そうに笑う。

(賢者? 称号?)
私は一人、会話の内容がわからずに戸惑う。
私は師匠が国一番の魔術師と呼ばれているのは知っていても、賢者と称されているなんて知らなかった。
そもそも、賢者とは一体どんな立場を示すのかも、私にはわからない。だが、私の知らないそれを、彼女は知っているようなのだ。

「師匠……?」
口を挟んで良いものか迷いながら、小声で訊ねる。師匠は私に視線だけを寄越し、「協会本部での呼称だ。詳しくは後で説明する」と、端的とはいえ答えをくれた。

「雛は未だ、魔術師たるものの真意を知らぬようじゃの。雛に魔力を注ぎ込んで調整しておるのは、あまりにも未熟故に呼吸すら儘ならぬからか。
……どれ、一つ手助けをしてやろうぞ。妾としても、話もできぬ内に死なれるのは本意ではないのでな」
揶揄する言葉に続き、彼女が一声、鳥類特有の甲高い声で鳴いた。その直後、周囲が不意に、柔らかい何かで覆われるような感覚がする。

師匠がゆっくりと、私の背から手を離す。けれど息が苦しくない。普通に呼吸ができる。
つまり先程の鳴き声は、私たちの周囲に結界を張る為のものだったのだろう。それでも師匠は私との距離を取らなかったので、彼が警戒を解いていないのがわかる。

「結界については感謝いたします、鳥の姫。それで、これに訊ねたい事とは?」

師匠が慎重に本題に入る。話し合いで穏便に片付くならその方がいいと考えているのがわかった。
つまりそれだけ、敵に回したくない相手なのだ。
鳥の王の娘……、鳥の姫。数いる精獣の中でも、「王」と呼ばれる存在はそう多くないはず。その娘というなら、彼女の実力もおそらくは、並の精獣の比ではないのだ。

「近頃この始まりの森にて、不穏な影があっての。この垓界に住まう同胞らがそちらの惺界へ連れていかれたきり、帰ってこぬのだ。
魔術師との契約によって呼び出される者らは、本来ならば役目を果たせば戻ってくるというのに、数多の同胞が呼ばれたきり一度も戻ってきておらぬ。――――これは異常な事態じゃ。もはや、契約の域を越えておる」

幼さを残す声に怒りを滲ませて語る鳥の姫は、こちらを面白がるような気配を消して、厳しい眼差しで私を見据えた。
その眼差しの鋭さに、体の芯が痺れるような感覚がする。
けれど私は、それに納得がいかなくて叫んだ。

「そんな! 姫はまさか、私を疑っておられるのですか!?」

私はこの姫に感じる恐れより、疑われた悔しさが先に立って、思わず一歩前に出ていた。

(精獣が戻らない。契約の越権。異常事態)
頭の中は、今聞いた話の重さにこれ以上なく動揺していたけれど、何故その件で私が疑われなければなければならないのか。その疑問が勝った。

「私はまだ召喚術を一度も成功していない、未熟な見習いです。精獣を捕らえたりなんてできません!」
「ぬ? それはまことか?」
「嘘偽りない事実ですとも!」

私の必死の主張に、姫は真紅の双眸をまたたかせて私を見つめた。



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「明日、花が咲くように」 十三章 3

「ここはラエルシードだ。召喚陣から強大な魔力の糸が伸びてきておまえを絡めとり、こちら側に引き摺られてきた。僕は糸を切り離すのが間に合わなかったから一緒に来た」
半ば予想通りの師匠の答えに、それでも私は愕然とした。

垓界ラエルシード。
私たちの住む世界に比べて非常に魔力が濃い世界。
強い魔力と高い知能を持つ獣たちの楽園。
たとえ魔術師であっても、本来なら訪れる機会など滅多にない、異なる法則によって成り立つ地。
召喚術で逆にラエルシードに引き込まれるなんて、これはとんでもないアクシデントだ。

「息苦しいのは、この世界に満ちる魔力が僕らの住む世界とは質も量も違うからだ。魔力が少ない身では、結界を保たなければ危うい」
背に触れている師匠の手が、私の命を支えている。
それは、手が離れてすぐに息苦しくなった時点でわかっていたけれど、改めて考えるととても恐ろしい事態だった。
この世界では、私一人では、呼吸する事さえ儘ならないのだ。

(私だって、普通の人に比べれば、魔力は強いはずなのに)
自分の力のなさを痛感させられる。足手纏いにはなりたくないのに、ただここにいるだけで、既に、手助けを受けている状態なのだ。

「申し訳ありません」
「いや、あまりにも不測の事態だ、おまえの責任ではない。それにおまえ一人連れていかれるよりは、僕が一緒に来れた分だけ、状況はまだマシだ」
こんな緊急事態に陥っても、師匠はあくまでも落ち着いていた。普段は短気で怒りっぽいのに、今は冷静な面持ちで周囲を隙なく窺っている。

「落ち込んでいる暇はない。来るぞ」
「!」
内心で自分に落ち度があったのではと考え込んでしまったのを窘められ、私はハッとして周囲に意識を配った。
師匠の表情は厳しかったが、それはこれから起こるだろう事態に備えてのものだった。私は気持ちを切り替えて、服の内側から武器を取り出し装備する。
師匠が毅然と空を睨む。その視線を追って、私も近づいてくる気配を知った。
遠く彼方の空から、段々と白っぽい『何か』が近づいてくる。空を飛ぶ……鳥? それともまさか、竜?

「あれが恐らく、おまえをラエルシードに引き込んだ張本人だ」
油断するな、と小声で囁かれ、私は動きやすいように姿勢を整えた。
「絡んだ糸はもっと奥へ連れ込みたかったようだったが、始まりの森を出ない内に僕が糸を断ち切って、ひとまず森に降りたんだ。あの糸の引き手が、切れた先を辿って来たようだ」

私が界を渡る衝撃で意識を失っていた間も、師匠はあれこれ手を打ってくれていたようだ。もし私一人だったら意識を取り戻す間もなく、目的地まで連れ去られていただろう。その素早い機転は流石というより他ない。
「ではここは、始まりの森なんですね」
「そうだ」
緊張しながら小声で会話を交わす内、初めは点のようだったそれが、次第に形を帯びてきた。それは、私の身長の三倍はありそうな、巨大な鳥の姿をしていた。



私たちの近くに降り立ったその鳥は、全身が純白の羽毛に覆われた巨大な鳥だった。詳しい種類はわからないが、尾が長く優美な曲線を描く体で、美しく、気品や威厳があるように見える。真紅の双眸は猛禽類と違って、柔らかく丸い形をしている。

無論、これが普通の鳥であるはずがない。
このラエルシードに住む精獣で、私を引き込んだ張本人だというのなら、それだけの力を持つ、高位の存在という事。
私は正直、そのあまりにも巨大な姿に畏怖の念を覚え、体が震えてしまった。師匠が背中を支えてくれていなかったら、地面に膝をついていたかもしれない。
声も出せずに立ち竦んでいると、巨大な鳥がふわりと羽ばたきした。その羽が起こす風の強さに、生物としての根本の強弱の差を見せつけられたようで、畏怖は更に強くなる。

「何やら、妾が呼び寄せた者に、予定外の荷物がついてきておるようじゃな」
白い嘴が、幼さを残す少女のような高く澄んだ声で、高圧的に喋った。古風で品のある喋り方だ。
「まさか未熟な弟子を、一人きりでこちらにやる訳にはいきませぬ故」
「ほほ、過保護な親鳥かや」
「過保護とはまた、奇異な事を。このように稀な招きに付き添うのは、師として果たすべき役割でありましょう」
師匠が丁重な言葉遣いで返す。

「油断するな」と警告されたし、すぐにでも臨戦状態になるのかと身構えていたから、私は一見穏やかに会話を交わす彼らの姿が意外だった。
見習いの私には、目の前の精獣がどんな存在なのか、こちらに敵意があるのか、何の目的があってこんな事をしたのか、何もわからない。
ただ、何が起こっても即座に動けるよう気をつけながら、彼らの会話を注視するしかない。



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