(これは…………、僕に向けられる、こころの声?)
嫌悪、苦手意識、戸惑い、妬み、怯え、忌避、憐憫。
……種類は違えど、どれもまぎれもなく、この僕に向けられる思いの一部。
スノウ嬢が魔石を使って結界を破ると同時に、ふわりと周囲を包まれる感触がした。
いつも、僕を守ってくれる彼らの気配がする。
そして、脳裏にガンガンと響いていた、「声」が、いきなり消えた。
意識を覆っていた重苦しさがなくなって楽になる。
助かったと、心から安堵した。
あんな「声」ばかりを延々と聞かされ続けていれば、遠からず気が狂っていたかもしれない。
「大丈夫ですか!?」
「何があった?」
スノウ嬢が慌てて駆け寄ってくる。ヒースは僕の背に手を添えたまま、険しい表情で僕の顔を覗き込んでくる。
二人の心配そうな表情を見ていると、ささくれ立っていた心が、次第に落ち着いてゆく。
僕は意図的に深く呼吸して、自身の精神を落ち着けようとする。そうすると、徐々に吐き気が収まっていった。
それでも、すぐに話ができる状態になく、「ちょっと待って」と、心配してくれる二人に、力なく微笑みを返す。
今、僕の内側で感じたものを、どう話せばいいのだろう。
あれは、近しい者たちから僕へと向けられた、「負の感情」なのだと思う。
すべて、僕にとって、知っている人の声をしていた。
奔流のように一気に流し込まれたので、脳の処理速度が間に合わずに気持ちが悪くなったけれど、少し落ち着いてみれば、誰がどの声だったのか、ちゃんと識別できた。
声の主たちの心から、「負」と分類されるものだけを汲み取ったら、きっとあんな感じになる。
ただ……あの声だけが、僕に向けられる感情のすべてだとは、考えなくていいはずだ。
現に今、固唾を呑んでこちらを見守っている二人からは、嘘偽りのない純粋な心配が窺える。
いつもの僕ならば、ヒースのそんな珍しい表情をからかって、怒らせて遊ぶのだけど。今は、そんな些細な楽しみに浸るだけの余裕がないのが残念だ。
結界が消えてすぐ精霊たちが僕を包んでくれたから、あのどす黒い嵐はやんだ。
彼らが僕を守ってくれたから、あの「声」は聞こえなくなった。
(ありがとう、助かったよ)
僕を取り巻く精霊たちに、心から感謝する。
目には視えなくても、そこにいるのは感じられる。
本当に、いくらお礼を言っても足りない。
(ああ、きっと。彼らがこれまで守ってくれていたのは、僕の身体だけじゃなく、心もだったんだ)
いつだって、危険に合いそうになると、目には視えない力が僕を守ってくれた。
だけどそれだけじゃなく、これまで認識していなかった精神が侵される危険からさえも、とても注意深く、守られてきたのだと。
彼らの情の深さを改めて思い知って、泣きたくなって、掌で瞼を覆った。
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