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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 九章 2

グリンローザは緑溢れる王国だ。
精霊魔術の一大国として、古くから自然との調和を掲げてきた事もあり、国内には至るところに草木が茂っている。
王都近辺にも雄大な自然が広がっており、私はずっとこの森の恩恵に与ってきた。
山菜や薬草やきのこを採ったり、川で釣りをしたり、木の実や落ち葉を拾ったり、木を伐ったり。
小さい頃から森を歩き回っては、何かを集めるのが好きな子供だったものだから、この辺りの地理には精通している。長年の経験で、危険な場所と安全な場所の区別もつく。

木々の隙間を駆け抜けてゆく風が冷たさを増して、落ち葉が色を茶色に変えて、森に冬の訪れを告げる。

「それじゃアイス、おとなしく待っていてね」

私は愛馬アイスブルーを木に繋ぎ、少し離れた場所に行く。
今日は薪にする木を伐りに森に来ていた。馬車は売ったけれど、質素な木の台車はあるから、それをアイスに引いてもらってきた。家まで木を運ぶのに必要だから。

この地方はあまり雪が降らない過ごしやすい気候だけど、それでもやはり、冬は暖房なしではいられない。暖房費はできるだけ抑えたいから、私は毎年森まで木を伐りに来るのだ。
鉈と斧を使って、倒す木の下敷きにならないよう気をつけながら、慎重に幹を伐ってゆく。
木を伐って、それを台車に乗せられるよう細かくする作業は、結構な力仕事で、体を鍛えるのにちょうど良い。
寒空の下でもかなりの汗を掻く。たまに水筒のお茶を飲んだり干し杏子を食べたりして、休憩を挟む。

こんな森の中に女が一人でいるなんて常識ではありえないらしく、偶に木こりや狩人などと出くわすと、とてつもなく奇妙な顔をされてしまう。
まあ私が森に来るようになって何年も経つので、そういう人たちとは顔見知りになったが。

それよりも問題は、盗賊や人攫いに出くわした場合だ。
私には戦う力があるが、どんな状況も乗り切れるという絶対の自信はない。
そういう相手に捕まったらどんな扱いを受けるのかを、私は少しだけ知っている。

(お父様からも、「危ない事は避けてくださいね」と念を押されているし)
家計を支えるのも大事だけど、まず自衛がしっかりとできなければ、家族に心配を掛けるだけだと、もう、きちんとわかってる。

実は私は、幼い頃に一人で出歩いて誘拐された過去があるのだ。
あの時は、攫われてきた数人の子供の中に、魔術を使える少年がいたのが、何よりの幸運だった。
彼は、捕まった子供たちにこっそり言ったのだ。

「私が怖い大人たちを引き付けてる間に、振り返らないで全力で逃げるように」

私は彼の言うままに他の子たちの手を引いて、命からがらに逃げ出した。
そうして私は無事に逃げ出せたのだけれど、あの綺麗な顔立ちの少年が、無事に逃げ出せたのかどうか、その顛末はわからなかった。
逃げ出したその足で私は警備所に駆け込んで、人攫いの連中のアジトの場所を教え、私たちを逃がす為に少年が一人残った事も報告した。
だけど後日、人攫いのアジトに行ったという警備の人たちに聞いても、名も知らぬ少年の行方については、誰も教えてくれなかった。

……幼かった私たちを逃がす為に、少しだけ年長だったあの少年は、人攫いに抵抗して、殺されてしまったのかもしれない。
それとも、他の皆を逃がす為に人攫いにまた捕らえられてしまって、既にどこかに売られた後だったのかもしれない。
どうか、無事でいてほしいと願っている。
けれど誰も行方を教えてくれないのは、きっとそういう事なのだろうと、私は哀しみに胸が詰まった。


(私が魔術師になると決心したのは、あの人がとても強く印象に残っているからだわ)

元々物心ついた頃から、物語の中の魔術師に憧れていた。魔術師になりたいと、無邪気に夢を馳せていた。
だけど、あの少年に助けられた事で、私の夢は確固たる目標へと変わったのだ。


私もあんなふうに、困っている人を助けられるような魔術師になりたいと。



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