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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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8.5、皿洗いや皮むきの技術が向上した

食堂の下働きは今日で終わりだ。
ここの食堂は通常より価格設定が安めとはいえ有料なので、新学期が始まるまでの短い期間とはいえ、食費を浮かせられて良かった。
毎日、皿洗いや野菜の皮むきをしていたお陰で、下働きとしてのスキルも向上した。包丁の扱いも慣れて、特に芋の皮が短時間でスルスルむけるようになった。

それに、ここで働いていた間に食堂を切り盛りするおばさん達とも仲良くなれた。余ったデザートを分けてもらったりもした。役得だ。

授業が始まれば、下働きをするような余裕はなくなる。
昼は食堂か購買でお弁当を買って別の場所で食べるようになるし、野宿の訓練などで寄宿舎に戻れない日も多いらしい。
そういった話は応用コースの先輩方に聞いた。休暇中に寄宿舎に残っていた先輩達から、基礎コースの授業の内容を聞けたのだ。心構えが出来て良かった。


「あれキーセ君と同室の子達でしょ、皆可愛いねぇ」
「ほんと可愛いわ~」
「ああ、抱きしめたい~~っ」

食堂のおばさん達には、同室のメンバーが非常に好評だった。何せ、クローツは絶世の美貌だし、シェルもそれに然程劣らぬ美貌の上に、見た目が子供だから綺麗であると同時に可愛らしくもある。
……が、おばさん達にとっての一番人気は、外見の可愛らしさだけならば、どんな小動物にも勝るようなノルドだ。

彼は喋らせると高飛車だが、人間の赤ん坊よりやや小さめ、ふっくら艶々の肌に大きな目の幼児姿をした、お人形より可愛らしい小人族なものだから、おばさん達に大好評になってしまうのも頷ける。


歩く姿もちまちましていて可愛いし、椅子も普通の椅子では大きすぎると補助椅子を使ってる姿も赤ん坊みたいで微笑ましいし、小さなスプーンを使って食事する姿もまた愛らしい。
うちの同室の三人が揃って食堂に来ると、おばさん達も生徒も皆、ほわーっと観賞してしまう。
寄宿舎は男子と女子で建物が別で、食堂も別の構造だから余計、潤いや癒しを求める視線が彼らに集中するのだ。

私はまだ忙しく働いている最中で、食事も後で賄いを食べているから、彼らと一緒に食事はしていないのだが、下働き期間が終わったら朝晩の食事は同室の彼らと共にする事になるだろう。
が…………、正直、あの面子に混ざるのは非常に気後れする。

『理想の泉』で多少美形化されたとはいえ、結局はこの世界の標準かつ普通の範囲内の私が、あれに混ざると物凄く浮くに決まっている。
悪目立ちするのは嫌いなのに、あの面子に混ざってるだけで嫌でも注目されるに違いない。

私は、異世界人というプロフィール以外、特に目立つ所もない。
この国では赤、茶、金といった系統の髪の人が多いので、黒髪黒目は確かに少し珍しいが、エルフで銀髪のシェルとどちらが珍しいかと比べると、多分シェルの方が珍しいと思う。
私が注目を集めるとしたら、異世界人という経歴であって、見た目ではないのだ。
けれど、クロス教官からクローツの事をしつこいまでに頼まれているし、これから何ヶ月も同じ部屋で過ごす面子をあからさまに避けて、彼らと気まずくなるのも嫌だ。

目立つのも嫌だが、そこは妥協するしかない。
どうせ目立っているのはルームメイトであって私ではないのだと、心の中で割り切って過ごそう。


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9、まずは武器を選ぶ所から

授業一日目。
学校といってもそこは冒険者養成学校。普通に机に向かって授業を受ける時間など皆無に等しく、班分けによって小人数(5~6人程度)に振り分けられて、そこで担当の教官から個別指導を受けつつ、パーティ形式で実践、いずれは魔物との実戦でもって、冒険者たるべく鍛えられていく訳だ。

初日だから、まずは班別に分かれて自己紹介をする所から始まった。
担当官はパム女史。厳格そうな雰囲気の大人の女性だ。
この人が、クロス教官の不正を糾弾して我が班の担当官を交替した人だ。本来なら教官と呼ぶべきなのだが、クロス教官が女史と言っていたから、私の中の呼称も女史で定着してしまった。

班の内訳は、男3名と女2名。
男より数は少ないが、女でも冒険者を目指す人は結構いる。私も、もし『理想の泉』で性別が変わらなかったとしても、やはり冒険者を志望していただろう。
この世界は、魔物退治が必要な職業として成り立っており、地盤が整っている。優遇制度もあるので、やる気さえあれば案外何とかなるのだ。
私を最初に拾ってくれたファーシアだって、恋人と組んでとはいえ、立派に冒険をしていた。


班の男の内2名は、私とクローツだ。
そして、班内で最年長という理由で、私が班長を務める事になってしまった。
……私は、この世界の常識などまだまだ知らない事の方が多い異世界人なのだが。
色々と不安だが、担当官であるパム女史から指名されては仕方がない。頑張るしかないだろう。


副班長として選ばれたのは、16歳のフィッティヒ・ジェダロンナ。
清楚で可憐な雰囲気の女の子だ。いくら服装指定がないとはいえ、動きやすいシンプルな格好をした周りに反して、ロングスカートの凝ったドレス姿でいるので、一人だけとても浮いている。
彼女のフィッティヒという名はかなり発音しづらいので、フィーと呼ぶ事になった。
桜色の髪で檸檬色の瞳をしたふんわり系の美少女だが、ペットとして連れ歩いている羽のついた小蜥蜴に「非常食25号」という名前を付けているのが発覚して、メンバー全員の度肝を抜いた。
「つまり25号以前のペットを非常食として喰ってきたのか!?」
「うふふ、おいしく頂きましたわ」
「ひえぇ」
常識では測れない性格の女の子だというのだけは、よくわかった。


もう一人の女の子、ミルカ・コーディフは、勝気そうな性格の子だ。赤茶のショートカットの髪に、薄茶色の瞳をしている。
自己紹介は笑顔で普通にこなしたが、後で「なんでこんなイロモノばっかの班に振り分けられたのかしら」と小声で愚痴をこぼしていた。どうやらこの班編成が不服らしい。
しかも、その愚痴を私が偶然聞いてしまった事に気づかれて、お互い一瞬動きが止まった。焦って作り笑いで誤魔化したが、双方が気まずい思いをした。
……まあ、班長の私は異世界人だし、副班長のフィーはペットを非常食にするような非常識少女だし、不安になる気持ちもわからないでもないが。


最後の一人は気取り屋の男の子。名はコリン・ビネガー。
きっちり整えた赤い髪に深緑色の瞳をしていて、丸眼鏡を使用。鼻にうっすらソバカスが浮いている、幼い印象を受ける容姿の持ち主だ。
彼は、「はははレディー達、僕と同じ班になったからには大船に乗ったような気でいてくれたまえ」と気障ったらしいポーズで宣言した直後にそっくり返りすぎてコケるという、ギャグそのものの行動を取った。しかもコケた際に「うぎょうおぉ!?」と奇妙な悲鳴を上げた。
(お笑い芸人?)
……無理に二枚目を演じる三枚目の道化といった感じで、私はつい、「エセ貴公子?」と率直な感想を口に出してしまい、クローツから「確かに、なんちゃって貴公子って感じだーー!」と大爆笑で同意され、当人の気分を害してしまった。
但し、全員が似たような感想を持っていたらしく、無駄口に厳しいパム女史まで、私達の会話にこっそり苦笑していた。
初対面の者同士で結構緊張していたが、彼の言動が齎す笑いに、多少はぎこちなさが拭われた。そういった意味では、コリンはムードメーカー(あるいはマスコットキャラ?)かもしれない。


ちなみに私とフィー以外は全員、小学校を卒業したばかりの14歳だ。
ただ、ミルカもコリンも別の街からこの学校に入ったので、クローツと同じ学校の出身ではない。
また、班メンバーの内、フィーだけは寄宿舎に入っておらず、下宿先の食堂から学校に通学しているそうだ。

各々の自己紹介を終えた後、それぞれの戦闘スタイルに話が至り、この班ではクローツとフィーの二人のみ、武術の心得があるとわかった。
クローツは現役教官である兄に幼い頃から護身術を習ってきており、フィーの方は父親から、小学校に入る前と卒業した後に、武器の使い方を習ったそうだ。
彼らはそれぞれ自分専用の武器を持っており、既に独自の戦闘スタイルを確立している。

私達はまず二人の模擬戦を見学した。
得物はクローツが双剣で、フィーが組み立て式の長戦斧。
……ドレス姿に長戦斧って、すごい違和感のある組み合わせだ。
クローツが双剣を扱う姿は、美貌も相俟って、素晴らしく格好いい。

フィーは戦闘時でもお嬢さまのようなドレス姿のままなので、激しい動きをする度にスカートの裾が翻り、近くにいた他の班の男連中からも、熱い視線を浴びていた。
私は白い素足のチラリズムの魅力よりも、太ももに装備しているらしい隠し武器の存在の方が気になって仕方なかったんだけど。女性の身体があまり気にならないのは、私が心から男になりきっていないからなんだろう。


(ってか、二人とも強いな)

クローツの用心棒のアルバイトとか引き受けなくて、本当に良かった。
そりゃあ正直お金は欲しいが、これでは私がクローツの足を引っ張るだけだ。あの弟溺愛の兄は、自分で教え込んだ弟の戦闘力をわかっていないのか、わかっていて尚心配なのか。
どちらにしろ、殴り合いの喧嘩の経験すらない私の方が、クローツよりよっぽど余裕がないって事に気づいてほしい。

私だけでなくミルカもコリンも戦闘経験はないと言っていたので、そこだけはホッとした。
普通に街中で暮らす小学校卒業したばかりの子供達が、揃って戦い慣れしていたら、私はここでやっていける自信がなくなっていたかもしれない。

模擬戦の結果は、一日の長か、副班長のフィーの勝利で終わった。
そんなハイレベルな二人を余所に、戦闘経験皆無の私達三人は、パム女史のアドバイスと自分の希望を考慮しながら、まずは、学校の貸し出し用の備品の中から自分に合った武器を探すという、地道なスタートを切った。


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8、穴を掘って埋まりたい反省会

新学期開始まで残りの日数が少なくなってきて、寄宿舎に次第に人数が増えてきた。
大半は、クローツと同じで小学校を卒業したばかりの年齢だが、その枠から外れる年少者や年長者の姿もちらほらと見掛ける。
それ以外にも、人外の……エルフ族や小人族や獣人族といった異種族の姿もある。
私が暮らす部屋も、これからしばらく生活を共にする同室者が揃った。
一人は当然クローツである。相変わらず彼の美貌は凄まじく、「なんで女の子が男子寮に!?」とぎょっとして叫ばれたり、動くのも忘れてぼーっと見惚れられたりしていたのだが、本人は至って無自覚で、呑気に「これからよろしくな、キーセ!」と挨拶してくださった。
思わず拝みたくなるような、眩いばかりの笑顔だった。


二人目は小人族で、見た目は幼児だが、その大きさは人間の赤ん坊よりやや小さめ。しかしポケットに入れるには少し大きい程度の姿をしている。
黒目が大きくてクリクリしていてとても可愛らしい、小動物系の子だ。
子供や動物が特に好きな訳でない私ですら、彼を見ていると、無性に抱きしめて撫でくり回したいという衝動に駆られてしまう恐ろしい魅力を持っている。
しかし人を見下した、捻くれた性格をしているのが難だ。
名前はアーノルド・レッガート。薄茶の髪に琥珀色の瞳をしている。
「同室のよしみで、余をノルドと呼ぶのを許そう」と、小さな身体で偉そうに胸を張って言うので、私達はノルドと呼んでいる。
見た目も幼いが、実年齢もまだ11だそうだ。どちらにしろ若い。態度は一番デカイが室内最年少だ。

「ってゆーか、11って、義務教育はどーしたん?」
「人間どもの義務など、偉大なるテトラ族には適用せん」
「んでも冒険するには、移動が大変そーな大きさだよな」
「そなたらが余の足となれば無問題だ!」
「足!?」
「余は、移動の足を確保する為に、態々この学び舎まで来てやったのだ!」
「どーいう理由だそれはーっ!!」
ノルドとクローツがよく口喧嘩するので、部屋が一気に賑やかになった。


もう一人はエルフ族。見た目は7つくらいだが、実年齢は私と同じ19。エルフ族は理想の泉に入らずとも元より成長が遅く、寿命も人より長いのだそうだ。
名前はシェルカール・ラーズレエア。こちらも「吾の事は、シェルとお呼び下さいますよう」との事なので、通称で呼んでいる。
……シェルもノルドも言葉遣いが妙だが、そこは個性と受け止めておく。
銀髪に紫の瞳をした彼も、クローツに然程劣らぬ美貌の持ち主だ。流石はエルフ、美しいのは種族的特徴か。

「シェルはなんで冒険者になろーと思ったんだ?」
「父母より武者修行の旅へ出るよう申し付かりまして。吾は未だ若輩者故、まずは世間を知る為にこちらで学ぼうと思った次第であります」
「武者修行って、エルフの優美なイメージとは程遠い気がするけど……」
「吾が家は、代々続く武士の家系であります故」
「武士!?」


……随分と個性的な面子が集まったものだ。
シェルは私と同い年だが、見た目は幼い。ノルドだって凄く小さい。それでも彼らはそんなハンデをものともせずに、一人前の冒険者となるべく、自分より大きな相手に混じって頑張るつもりなのだ。
――――そう考えたら、何か胸の辺りがモヤモヤした。


(しかし、私とクローツ以外は見た目子供とは。……クロス教官、完璧に弟の同室者を安全圏で固めたな)

安全圏ではあるが、同時に変り種ばかり。私だって異世界人だと考えると、この部屋で普通の人間なのはクローツ一人だけである。
その過保護ぶりに呆れていたら、新学期が始まる前日になって、意気消沈したクロス教官からこっそりと、担当官の交替を伝えられた。


「……担当、入れ替えって」

いきなりの話に驚く。
そもそも彼には、担当になるからと秘密を打ち明けたのだ。それが、新学期が始まる前から担当替えとは一体何事か?
唖然とする私に、教官は「すみません」と謝る。

「弟の同室者と班分けに関して裏から手を回したのが、不正に厳しい同僚にバレてしまいまして。身内だからと贔屓するのは、周りにも本人にも悪影響を与えるだけだと、厳重注意を受け、担当交替という処置になってしまいまして」
「う、それは。……真っ当な正論すぎて、反論のしようがありませんね……」
「ええ、正論です。不正していたのは私ですし、文句は言えません」

クロス教官は反省している。余程きつい説教を受けたようだ。
弟が心配なのは仕方ないにしても、確かに教官として相応しくない行為だったと、自覚はあったらしい。
共犯の私も居た堪れない気持ちになる。幸い、私との取引の事まではバレていないが、やはり後ろめたい。

「キーセ君にも申し訳ない事をしました。君とクローツを同じ班に入れてしまったので、私がその班の担当から外された事で、結果的に君の担当からも外れてしまって。
……君の事情を知っている学長に頼んで班分けを再編してもらえば間に合うのですが、そうなると今度は、どうして君の担当が私でなくばならないのかと、他の教官に不審に思われてしまうでしょうし……」
「いえ、いいです。そこまでご迷惑は掛けられません」

彼は彼なりに、私の秘密を知りながらフォローできなくなった事に罪悪感を感じている。それを知って、私の方が申し訳なくなった。
彼は確かに見返りに取引を持ちかけてきたが、勉強はきちんと教えてくれたし、こまめに面倒を見てくれた。
謝る必要はないと首を振る。

「元々、こちらの都合で一方的に秘密を打ち明けて、フォローを頼んだだけですから」

口にしながら改めてその意味を考えて、今更だが、自分の厚顔さに気づく。
無意識に堂々と、「私を優遇してほしい」と頼んでいたも同然だった訳で。

(うわ。穴があったら入りたい。寧ろ、穴を掘って埋まりたい。
確かに私は異世界人だってハンデはあるけど、他の人だって苦労やハンデはあるはずなのに、自分だけ特別扱いして助けてもらおうと思っていた性根が恥ずかしい、今すぐ叩き直したいっ)

つい、机に頭をぶつけて反省する。

「キ、キーセ君?」
「私の方が反省しないと」
突如奇行に走った私の姿に慌てる教官に、頭を机に押し付けたまま答える。

幼い姿の同室者達を見て、胸がモヤモヤした理由がようやくわかった。
皆、それぞれ頑張ろうとしているのに、私一人がズルをしようとしていたのだ。

性別が変わった事を秘密にすると決めたのは自分なのだ。本来ならば学長や教官に秘密を明かしたりせず、自分だけで何とかすべきだったのだ。
……気づいてしまえば、こんなに情けない事はない。


改めて教官にこちらの心情を話して、二人して溜息をつく。

「私は元より、清く正しくなんて立派な性格はしてませんが、それでも、自分が無自覚に甘えていたと実感させられて落ち込みました。……もう少しマシな人間でいたかったというか」
「君はこの世界に頼る人もいないのですし、それくらいは甘えていいのでは?」
「いえ。結局、冒険者を目指すと決めたのは自分ですから。それに、甘えていい相手に適度に甘えるのと違って、誰彼構わず甘えて当然って態度は、見ていて腹が立つじゃないですか」
そんな甘ったれた相手とは親しくしたくない。そういう行動を知らず自分が取ってしまっていた事に、自己嫌悪が募る。

「まあ確かに、甘ったれた男なんて可愛くないですが。でもそう言われると、僕も迂闊にクローツを特別扱いできなくなるじゃないですか。あの子だって、いくら可愛らしくても、男の子な訳ですし」
「バレて叱られたからには仕方ないでしょう。それに本当に危険な場面では、自分だけが頼りです。甘やかされるのに慣れてしまっては、それが命取りになりかねません」
今まで言わずに済ませてきた事を口にする。教官は切なげに息をついて、首を横に振った。

「わかっていても割り切れないんですよ。クローツはたった一人の大切な家族です。目に入れても痛くないくらい可愛い弟なんですよ?」
「いい歳した大人が涙ぐまないで下さい。取引は別としても、クローツの事は友人として、ちゃんと面倒見ますから」
これからは普通の友人としてクローツと向き合おう。取引がふいになったからこそ、後ろめたさを感じずに彼と付き合える。その点では、これで良かったのかもしれない。

「うう、君にそんなふうに言われると、自分が本当に駄目な大人なんだと実感させられます」
「私も先程、自分の駄目さ加減を実感した所です」

私達は夜遅くの自習室で、思う存分反省会を開いた。



「でもやっぱりアルバイトしません? キーセ君。用心棒の」
「……実は反省してないんですか? いい加減にしないと、教官職を首になると思います」
「だってやっぱり心配なんですー!」
「いい大人が未練がましいです。「だって」とか言わないで下さい」
「うううううう」


心の薄汚れた大人は、例え反省したとしても、それに応じた行動が取れなかったりもするようだ。
私もあまり人の事は言えないが、ここまで駄目な大人にはなりたくないと、密かに心に誓った。


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