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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 四章 2

「久しぶりだね、ヒース。女嫌いの君が女の子の弟子を取ったと風の噂で聞いて、興味が湧いて見にきたんだ。驚かそうと思ってこっそり覗いてみたら、とてもすばらしい戦いぶりで、こちらが逆に驚かされてしまったよ」

エディアローズが歩いてくると、ようやく、半透明な精霊たちの間から、当人の顔が見える程度になる。

(相変わらず女顔だ)

涼やかな声と爽やかな笑顔。淡い色の金色の長髪に、左右で色違いの瞳。
この男は、そこら辺の女など敵にならない程に、綺麗な顔立ちをした男だ。
男に綺麗などといった表現を使うのは気色悪いが、事実、誰がどう見ても、顔だけは良いのだ。


だが、この男は周囲の人間から怖れられ、忌み嫌われている。
精霊には、こんなにも過剰に愛されているのだが。

人に忌み嫌われる理由は、こいつのその色違いの瞳にある。
昔から、色違いの瞳を持つ者は、関わった者や近しい者を不幸にするとされてきているのだ。
特に、連れ添った伴侶をもっとも不幸にするとも言われている。

この国のみならず、大陸全土でその伝承は伝えられており、現代でも、色違いの瞳を持つ子が生まれたなら、親が子を捨てるのも当たり前と言われる程に、根深く残っている。

エディアローズは、右目が水色で左目が紫色の色違いの瞳を持って生まれた。
だが、その身分の高さゆえに捨て子とはならなかった。
それでも、実の両親にさえも忌避される「忌み子」として有名だ。
この国の第三王子は「不吉王子」という忌み名で、民に知られた存在だ。
シズヴィッドもその瞳を見て、相手がどんな存在か悟ったようだ。

「もしかして、エディアローズ・ユリウス殿下ですか?」

僕には訊かず当人に直接訊ねる辺り、伝承の瞳に怯えていなさそうだ。
少なくとも、あからさまな嫌悪や拒絶は見せなかった。
初見で、纏わりつく精霊の異常な量には動じたが、それ以降はまるで動じた様子を見せない。さすがは押し掛けで弟子になっただけあって、図太い神経の持ち主だ。

「そうだよ。こんにちは、はじめましてだね。僕を知ってくれてるみたいだけど、改めて自己紹介しようか。
僕はこの国の第三王子、エディアローズ・ユリウス・グリンローザ。お嬢さん、よければ君の名前も教えてくれる?」

エディアローズがふんわりとした微笑みを浮かべて、僕の新しい弟子を見る。
この男はこう見えてかなりの腹黒なのだが、知っていてもそうとは思いにくい、優しげで柔らかな笑顔である。

「スノウ・シズヴィッドと申します。はじめまして、エディアローズ殿下」

シズヴィッドが丁重な動作で礼をする。

スカートならば貴婦人特有の、両手で裾を持ち上げて頭を下げるお辞儀をしたのだろうが、こいつはいつもズボンを穿いている。
今日だって武術訓練をしていた事に関係なく、最初からズボンで屋敷にきていた。

貴族の息女らしい礼をするには格好が向いておらず、かといって王子相手では、僕にするように、軍隊式の敬礼もできない。
それでなのか、文官風の、胸に片手を当てて頭を下げる礼をした。

「ふふ、僕の眼を見ても動じないってすごいな。大抵の子は怯えてしまうのに。さすが、女嫌いのヒースに弟子入りを認めさせただけあって、豪胆だ」
「恐れ入ります」
「立ち話もなんだし、表の庭のテーブルに場所を移動して、お茶会でもしようか」
「客のおまえが仕切るな」
「いいじゃないか、僕とヒースの仲だもの」

どんなに綺麗な顔で笑い掛けられても、まるで嬉しくない。むしろ、その性格を知っていると寒いだけだ。

「どんな仲だそれは。僕はおまえとそこまで親しくした覚えはないぞ」
「相変わらずつれないね、ヒースは。シズヴィッド嬢、こんな堅物の男が師匠では、さぞ苦労している事でしょう」
「慣れましたから。それと私のことは、よろしければスノウとお呼び下さい」
「否定しろ、シズヴィッド」

まったくこいつは押し掛け弟子のくせに、態度がでかいにも程がある。
ちなみに僕がこいつを頑なに「シズヴィッド」と家名で呼び続けているのは、いくら弟子とはいえ、女の名を呼ぶのに抵抗があったからだ。
まあ女に限らず、エディアローズのような例外(家名のグリンローザは、この国の名前である)以外は、僕は大抵の相手を家名で呼ぶようにしているのだが。

「でも事実ですし」
「そう。事実だからね。ではぜひ、スノウ嬢と呼ばせてもらうよ。
嬉しいな、皆、僕に怯えて近づいてきてくれないから。名前で呼んでいいと言われるのは珍しいんだ」

初対面だというのに、この二人は妙に息が合っている。会話のテンポが非常に速く、僕が口を挟む隙がろくにない。
もしかしたら、図太いひねくれ者という点で、この二人はかなり性格が似ているのかもしれない。



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「明日、花が咲くように」 四章 1

四章 『不吉王子』




初回は弟子の実力を測る為にあえて素手で戦ったが、あれ以降、シズヴィッドに戦闘の訓練をつける時、僕は愛用の特殊金属製の杖を使うようになった。
そちらが僕の本来の戦闘スタイルだからだ。

最初に戦った時、僕が勝ったとはいえ、正直言えばヒヤッとする場面もあった。
すばしっこく動き、鋭い攻撃を放ってくる相手に、ひどく体力を削られた。

疾風のペレの弟子だっただけあると感心したが、取ったばかりの弟子に易々と負けるようでは、師匠の沽券に関わる。
そうして僕は、手加減も油断もやめた。

だが、僕が訓練に杖を用いるようになると、相手もまた、武器を一段と凶悪なものに替えてきた。

ブーツのつま先からは蹴った時に刃物が伸びるようになり、ナックルは棘つきの、より攻撃性の高いものになった。
肘にも膝にも、仕込み武器を装備している。(どれも前の師匠から譲られたものらしい)

こいつは魔術師ではなく、暗殺か格闘のプロにでもなりたいのだろうか。

(というか、ただの訓練でそれはないだろう。僕を殺す気か)


色々と突っ込みたい事はあったが、天才の僕が女との戦いに臆していると取られるのも業腹で、結局は、実戦さながらの訓練に付き合ってやっている。
まあ、最近は研究で部屋に篭ってばかりいたから、身体を動かすには丁度良い。……とでも思わなければやっていられない。

シズヴィッドを弟子としてから一月近くが経ち、僕は自身の研究の合間を縫って、こいつの魔術の修行も見るようになっていた。
だが武術と違って、そちらはまるで捗々しくない。
前の師匠達が揃って梃子摺っただけあって、今のところ、上達方法がまるで見当たらないのだ。


変質の魔力性質を苦手とする精霊たちがこいつに近づくのを嫌がるから、ろくに教えられる魔術がない。
魔術師が扱う魔術の殆どは、精霊を行使し、力を貸してもらう、「精霊魔術」が大半を占めるのだ。
精霊に嫌われる者は、どれだけ膨大な魔力があっても魔術師になるのは不可能とされる程に、精霊の存在と、その力に依存している。

シズヴィッドは精霊に嫌われてこそいないが、その資質ゆえに、あからさまに苦手とされて、徹底的に避けられている。
そんな相手にどう魔術を仕込めばいいのか、天才の僕でさえ、頭を悩ませている。


「今日はこれまで!」
「はい! ありがとうございました!」

相変わらずビシッとした敬礼だ。これも前の師匠仕込みか。毎回これをやられると、自分が軍隊の上官にでもなったかのような錯覚がするのだが。

と、そこで、前触れのない拍手と共に、屋敷の影から声を掛けられた。

「すごいね、見事な戦いだった」
「ひっ!?」
「……エディアローズか」

振り向いたシズヴィッドが驚きに目を見開いて硬直した。
僕はそこにある物体に目をやって、溜息をつく。

視線の先には、種類を問わず大量の精霊が、やたら、うじゃうじゃといた。それはもう、鬱陶しいような勢いで。
精霊を「視る」眼を持つ者には、その中心にいるはずの人物が、精霊たちが邪魔になって見えないくらいに溢れかえっている。
しかもそれは一時の話ではなく、始終、一人の人間の周囲に群がっているのだ。

普段精霊に避けられているシズヴィッドは、こんな大量の精霊を間近で見る機会がなかったのだろう。
呆然と固まったまま、口を開いてその光景に見入っている。

……変質の魔力を持つシズヴィッドがこんなに近くにいてさえも、エディアローズの周りの精霊は、この男から執拗に離れようとしないのか。

僕も改めて、この事象の異常さを再認識した。



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「明日、花が咲くように」 三章

三章 『かつての師匠達』



私にとって最初の師匠にあたるのは、アイリーシャ・オリゼという名の、白銀の髪に銀色の瞳をした、品のある素敵な初老の女性だった。
穏やかな微笑みを絶やさないとても優しい人で、中等学校で魔術の基礎を教えていた先生が彼女の教え子の一人だった縁から、先生に紹介して頂いて、私を弟子に取ってもらったのだ。

「この国は女性の魔術師が少ないですから、貴女のような若い方が魔術師を目指してくれて、とても嬉しいわ」と、ほがらかな笑顔で私を歓迎してくれた。
私の魔力性質を知って、「あらあら、どうしましょうか」とちょっと困ったように微笑んで、それでも私を見捨てる事なく面倒をみてくれて。

「魔術師として知らなければならない基礎なら、わたくしにでも教えられるわ。それに、わたくしは薬剤師でもあるから、もし興味があるなら、薬の扱いも教えましょう」

そう、聖母のような優しさで言ってくれた。


心根の優しい、とても素晴らしい師だった。
その人徳は、私が師事してきた師の中で一番素晴らしいと思う。

精霊魔術を得意とし、その中でも特に地の性質と育成の魔力資質を持った彼女は、溢れるような緑に囲まれた家で、たくさんの精霊にその慈愛の手を愛されて、穏やかに過ごしていた。
彼女の育てた草花は、どれも輝くように力強く咲き誇っていた。
私はそんな師の元で薬の扱いを学び、本を読み話を聞き、研究の手伝いをしながら、魔術の基礎を学べるだけ学んだ。

彼女が私に薬剤師としての資格を取るように勧めた最も大きな理由が、私では魔術師になるのは難しいだろうから、他に特技を持った方が良いと考えての事だったと後で知った時には、複雑な気持ちになったけれど。
それでも、魔術に関しても手抜きせず丁寧に教えてくださったし、実際、薬剤師としての技能は、私の役に立っている。
その心遣いは有難いものだった。

そうして二年近く彼女の元で学んできたが、「貴女の魔術師としての才能を伸ばすのは、これ以上はわたくしでは無理でしょう。わたくしより貴女を教えるにふさわしい魔術師を紹介します」と、二番目の師匠に推薦された。



        *    *        



二番目の師匠は、デヴィッド・ガイスターンという名の、灰色の髪に濃い黄色の瞳をした中年の男性で、いつも不機嫌そうな表情をしている人だった。
とても厳しくて、「そんなんじゃ、おまえに魔術師なんぞ無理だ! さっさと諦めろ!」と、よく怒鳴られ、木の杖で殴られた。
何かあるとすぐ、「歯向かうんなら破門するぞ!」と脅されて、夜遅くまで徹底的にこき使われた。

師匠はかつて、「重力」という希少な研究分野で大きな功績をあげて有名になった魔術師だったのだけど、最近は目立った功績がなく、私が弟子入りした頃はとても荒んでいて、日中でもお酒を呑んでいるような人だった。

それでも、私の持つ変質の魔力にとって、一番影響を与えやすく扱いやすい性質が重力だったから、彼の元に紹介されたのだ。

弟子入りした当初、彼は私を殴ってこき使うばかりで、魔術の事など何一つ教えてくれなかった。
顔や身体に痣をこさえて帰ってくる私を見て、家族にも心配を掛けてばかりだった。

けれど、弱音を吐けば破門され、魔術師としての未来が潰れる。その恐怖が、道を諦めたくないという執念が、私をギリギリで彼の元に留まらせた。
ずっと歯を食いしばって耐え抜いた事で、私の中には不屈の精神が育った。

そうしてしばらくは不遇の日々が続いたけれど、師の態度は、いつしかゆっくりと変わっていった。
私の根性に根負けして、私の存在を認めてくれるようになっていったのだ。
殴られる回数も徐々に減っていって、魔術の修行もつけてもらえるようになった。

自身が伸び悩み、鬱屈としていた彼にとって、出来の悪い弟子は、もう一人の自分のように見えていたのか。
次第に、酒を呑むよりも自分の研究よりも、ただ私の力を伸ばそうと全力で鍛えてくれるようになっていた。
彼は確かに、重力魔術の扱いに長けた魔術師であり、そして、私のような特殊な才を伸ばすのにも長けていたのだ。

何度も何度も叱咤されながら同じ事を繰り返し、私は身体にその感覚を叩き込まれた。
そうして、私は彼から、重力の「反動」と「緩和」の初歩を覚えこまされたのだ。


その二番目の師匠が、「俺じゃあ、ここまでが限界だ」と肩を落とした時には、私よりも彼の方が打ちひしがれているように見えた。

私に新たな師匠への紹介状を投げ渡し、背を向けて酒を呑む後ろ姿は、惨めで悔しそうだった。

共に過ごす内、彼の胸には、私を何としても魔術師として育て上げようという執念が育っていたのだ。
結局はそれを果たせなかった事が、彼をいたく傷つけていた。

最初の師の元を去る時にも思ったけれど、ここから一人前の魔術師として巣立てなかった事を、申し訳なく、とても残念に思った。



        *    *        



三番目の師匠は、少しだけお父様に似た雰囲気を持つ青年だった。
名をクラフト・ペレといい、薄茶の髪に薄緑の瞳をした、柔和で優しげな見た目の人だった。
でも彼はその見た目の雰囲気に反して、実は、魔術師としては異例の接近戦のスペシャリストで、武術と魔術を組み合わせて戦う実戦派の人だった。

この国では後方支援の魔術師の方が圧倒的に多く重宝される傾向にあるのに、その中で異色の技術を磨いてきたその人は、私のような変り種を教えるには確かに良いかもしれないと思ったものだ。

彼は、「私には変質の魔術は教えられないけれど、その魔術と組み合わせるのに向いた戦い方なら教えられるよ」と言った。

格闘技なら、幼い頃からお母様に護身術を習ってきたけれど、それに魔術を加えて動くとなればまったく勝手が違う。
どちらかに意識を取られると、どちらかが疎かになってしまうからだ。
これを同時にこなせなければ、実戦ではまるで役に立たない。

私は彼の元で、接近戦にどう魔術を組み込んでいくかを教わった。

彼は優しかったけれど、同時に戦いというものにはとても厳しい師だった。
戦闘を教わるという事で、一番身体を酷使したのも、ここでの修行の日々だった。



そんな師匠が、「これ以上私の元にいても、君は魔術師としての資格は取れないだろうね」と苦く笑った時には、私はとうとう夢を諦めねばならないところまできたのかと、絶望しかけた。
それでも諦めたくなくて、師匠に何度も、まだ諦めたくないのだと心から訴えた。

彼は随分悩んだ。
私を師事してくれそうな親しい魔術師がいなかったからだ。
だが、私が諦めないのを知ると、悩みながらも一つの道を示してくれた。

「私は彼とは顔見知り程度で、親しくはないから、推薦しても、君を弟子にしてくれるか確実ではないのだけど……。
この国一番の天才と名高いヒース・アライアス。彼なら、君の才能を伸ばせるかもしれない」

そう言って、紹介状を書いてくれた。

「ただ……女嫌いの人だから、簡単には弟子にとってくれないかもしれない。けど、君の熱意と根性があれば、きっと大丈夫だよ。とにかく頑張って」と、最後まで私を励ましてくれた。



皆、それぞれ良い師匠だった。私のような厄介な弟子の面倒を、真剣に見てくれた。
忙しかったのも辛かったのも、私が魔術師を目指すには必要なものだった。返せるもののない私には、過ぎる程のものを与えられた。

感謝してもしきれない。彼らから学んだすべてが、今の私を支える基盤となっている。
彼らが伸ばしてくれた力を、四番目の師の元で、今度こそ開花してみせる。
絶対に、一人前の魔術師になってみせる。
それが私の決意。


私はまだ、諦めない。


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