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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 六章 3

「エクスカイル! 孤児院に寄贈する為の遊具を、国内から広く募っているっていうのは本当か!? おまえ、あれだけ予算を割くのを反対したクセに、意外とやるじゃないか!」

声がうるさい。それとノックもせずに扉を開けるな馬鹿者が
「本当ですよ」

先日、人の執務室の扉の蝶番を壊していった犯人が、今日もまた腹立たしい程の勢いで扉を開けてズカズカと入ってきた。
それだけで死刑にしたくなる。うん、死ね。
勿論蝶番の修理代は、この馬鹿の軍務給料から差し引くよう手配したが、それだけでは腹の虫が収まらん。

ちなみに「本当ですよ」と、馬鹿の問いに簡潔に答えたのは、僕の副官を務めている不吉眼だが、馬鹿はそれを聞かないふりでスルーした。
話を聞かん馬鹿は、ただの馬鹿より更に救いようがない。ダメだこいつ。

「人がせっかく礼を言いに来たというのにっ」
「寄贈を募るという案を出したのは、そこの不吉眼だ」
「げっ」

僕は高潔だから、人の手柄を自分のものに横取りするようなゲスではない。だからちゃんと、この案を最初に提言した相手を教えてやった。丁寧に。
なのに「げっ」の一言で済ますとは。やはり死ね、クソ馬鹿長兄。

そこは同意見だったのか、不吉眼が顔だけは笑いながら眼がまったく笑っていない状態で、馬鹿に一歩近づく。

「おや、随分な反応ですね、ジークフリード・カッツェ殿下? まるで僕の提案には呪いでも掛かっているとでも言いたげな、心の底から嫌そうな顔をされると哀しいのですが。
孤児院に遊具を配布したいという、ジークフリード殿下のお優しい心遣いに感銘を受け、ない知恵を絞って実現可能な案を考え出したというのに。そんな健気な弟に対する仕打ちがそれとは、ひどいとは思わないのですか? 哀しみのあまり、心が砕けてしまいます」

単なる思いつきだったクセして、誇張しすぎだ、不吉眼。

「胡散臭い笑顔で、思ってもいないような事をほざくなっ」

片方が腹に一物抱えた微笑みで一歩近づくと、、片方は引き攣った顔で微妙に後ずさる。

馬鹿は馬鹿だから、不吉眼の伝承をそのまま鵜呑みにしているのだ。
仮にも血の繋がった弟をそんな理由で避けるとは、人として失格だ。今すぐ畜生を名乗れば良い。
愚かすぎて、これを実の兄とは思いたくない。

ちなみに僕が不吉眼を兄と認めてやらないのは、単に「変人」だからだ。
そして僕は不吉眼に限らず、他の兄弟のすべても、僕の兄弟とは認めていない。
こんな素晴らしい能力を持ちながらも研鑽を惜しまない「この僕の」兄弟と思うには、どいつもこいつも「無能」か「変人」に偏りすぎていて、腹立たしくて仕方ない。
伝承に怯えるだけの目の前の馬鹿と僕とでは、次元がまったく違うのだ。

(第一、あのくだらなすぎる伝承がもし真実だというのなら、血の繋がった兄弟として生まれた時点で、僕も馬鹿もすでに手遅れだ。「近しい者」という条件に合致してしまっている。それを今更ジタバタと足掻いて、一体何になるというのか)



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「明日、花が咲くように」 六章 2

「でも、孤児院の運営資金が少なく、遊具にまでは手が回っていないのは事実だね」

不吉眼が馬鹿長兄を庇うような発言をする。馬鹿とは仲が悪いのに、何を余計な口出しをしてくるのか。
あの馬鹿と同じく、孤児の子供たちに情でも移ったか。くだらない。
下々の民と関わりすぎて、王族の威厳をなくしている馬鹿と同列なのが僕の副官だと思うと、心底から苛々する。
僕は書類をバサリと払って、机を強く叩いた。

「運営資金にも欠く有様だからこそ、資金は少しでも堅実に遣うべきだ。遊具などに金を掛けられるかっ」
「君よりも幼い子供たちが遊び道具のひとつもないなんて、不憫だと思わないかい」
「遊ぶものよりも、まずは衣・食・住と教育だ。そちらにまで手を回す余裕はないわ」

まるで話にならない。金は無限に湧いてくるような代物ではないのだ。
どこかを削らねばならないのなら、優先度の低いものから削っていくのは当然の話だ。

王都だけでなく、国土全体に散らばる孤児院への補助金が、毎年どれだけの額になっていると思っているのか。
これも財務官なのだから、当然内訳は知っているだろうが。

「なら、国民に触れを出して、古くなった遊具の寄贈を募って、それを孤児院に配布するというのはどう?」
「む? 寄贈があればの話だが……、悪くはないな」

ふむ、と考え込む。
所詮はお坊ちゃん育ちである愚兄その3が、具体的かつ建設的な案など出すとは思わなかった。

「おや。まさか、本気で検討されるとは思わなかったな」

僕が意見に耳を傾けたのが意外らしく、不吉眼がまたたきをした。自分で提案しておいて、なんて無礼な。

「僕だって鬼じゃない。予算を割ける余裕があるなら、検討くらいはするぞ。王侯貴族の浪費を抑え、その分だけ貧しい者へと配当するのは、財務官として果たすべき役割だ」
部下には鬼長官と、もっぱらの評判だけど
「そんな無礼な事を言うのはどこのどいつだ不吉眼。探し出して連れてこい。今すぐ石化してやるぞ
「さあ、単なる噂だしねえ」

不吉眼が視線を逸らす。
これの周りにうじゃうじゃいる精霊どもが、僕の力を警戒する気配がして鬱陶しい。
所詮、半透明の言語も持たん種族のクセして、この僕を威嚇するとは、無礼にも程がある。

「馬鹿兄の要望は、財源確保がなっておらず現実味がなかったから却下したが、寄贈ならば、そんなに予算を喰わずに検討できるだけの余地があるな」
「それは良かった」
「問題は、国内にあるすべての孤児施設に送れるだけの寄贈品が集まるかどうかだが……」

最初に期間を明示して国内全体から広く寄贈を募れば、ある程度は数が集まるかもしれない。
確実性はないが、ある意味では堅実な案だ。もし一つも集まらずに失敗しても、こちらには痛手がない。



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「明日、花が咲くように」 六章 1

六章 『石の財務長官』




「融通の利かんケチ男が! おまえにはもう頼まん!」
うざい死ね。言っておくが、他から出費を捻りだせると思うなよ、この馬鹿者が」
「おまえは弟のクセに生意気すぎるぞ!」
「ふん。愚かな兄を持ったおかげで、僕は苦労してばかりだ」
「その生意気な口を閉じろ! エクスカイル!」
「仕事の邪魔だ。用事が済んだならさっさと退席しろ」
「この石頭が!」

怒鳴り散らした挙句に扉を乱暴に蹴破って、このグリンローザ王国の第一王子ジークフリードが走り去った。
部屋にようやく静寂が戻る。

僕は書類に向き合っていつもの作業を再開する。
補佐の不吉眼が、開け放たれたままの扉へと近づいていって、ノブに手をかけたところで動きを止めた。

「なんだ。何故さっさと閉めん」
「蝶番が壊れてる」
「死ね、あの腐れ男」

僕は舌打ちする。これでまた、予定外の費用が出るではないか。
あの男、許すまじ。

「仮にも兄上に対して、その言い様はどうかと思うけど」
「うるさい不吉眼」
「それは申し訳ありません、長官」

言葉だけは謝っているものの、誠意が感じられない。慇懃無礼というやつだ。僕が睨みつけると、不吉眼は無言で肩を竦めて自分の机に戻った。
飄々とした態度だ。僕の険のある視線にまったく動じていない。まあそうでもなければ、この僕の補佐など務まるはずもないが。


そういえば、兄弟というならば、先程の馬鹿もだが、この目の前のエディアローズもそうだ。
どちらも不本意な愚兄であるとはいえ、一応は「兄」である。
「馬鹿」と「不吉」。どちらも非常に不名誉な存在で、僕はこいつらを兄と呼ぶのも嫌だが。

もっとも、こいつらだけでなく、僕の兄弟は僕以外、皆揃って「無能」か「変人」といった不名誉だらけだ。嘆かわしい事この上ない。
我が王家の血筋は妙なのが多くて、まったく嫌になる。

「孤児院の遊具だと? ふん、そんなものの為に、国庫に負担を求めるとは嘆かわしい。あの馬鹿が第一王子だと思うと、我が国の行く末が不安になるわ」

僕は眉間の皺を寄せて、書類を睨む。
無駄遣いする馬鹿どもが全員死ねばいいのに。国民の血税を何だと思っているのだ。



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