忍者ブログ
オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
[9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14]  [15]  [16]  [17]  [18]  [19

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「明日、花が咲くように」 八章 5

僕がドレスを拒絶したせいでそれまでと同じ服装に戻ってからも、シズヴィッドの勤務態度はまるで変わらなかった。
相変わらず良く働き、達者な減らず口を叩き、倹約に異常な執念を燃やして、廃棄物の再利用に燃えていた。
心配して駆け寄ってきた相手に対して「触るな」と拒絶したのは、いくらなんでもやりすぎだった。だがシズヴィッドはそれに関しては一度も文句を言わず、ただ自然とお互いの距離を探って、それを保とうとした。

初対面の時からずっと、図々しい性格の女だと思っていたが、それは少し改めなければならないようだ。
シズヴィッドは図々しさ以上に、賢さと冷静さと、我慢強さを持っている。
今回の件では逆に、僕の精神的な未熟さが浮き彫りになって、居た堪れない思いがした。

自分では気づいていなかったが、僕は未だに幼少時のトラウマを引き摺っていたようだ。
とうの昔に亡くなった母を、子供一人残して逝ったからと恨んで、許せずにいるなんて。……なんて幼い。
これからは、「女だから」という理由だけで八つ当たりしないよう、しっかり自制しなければ。

我が事ながら、難しい課題だとは思う。
だが、シズヴィッドは女である前に一人の人間であり、僕が認めた弟子でもあるのだ。師という立場にあるからと、これ以上、理不尽に傷つけていいはずがなかった。



十二月に入り、魔術師協会から、魔術師の資格昇級の試験実施を報せる手紙が届いた。

魔術師協会とは、世界各地に支部を持つ団体の名称で、世界一の魔術の権威である。
その協会で正式に認められた者だけが、おおやけに「魔術師」として名乗れるというのが、世界共通の決まり事だ。

魔術の実力があるのを前提に、専門の知識を持ち、世界の法則を知り、人としての正しい倫理観を持つ者だけが、魔術師と認められる。
規律を破って称号を剥奪された者は「堕術師」と侮蔑される。
正式なライセンスを持つ事がそのまま、魔術師としての信用に繋がるのだ。

魔術師協会のグリンローザ支部から郵送された報せを一瞥し、僕はその手紙をシズヴィッドに差し出してみせる。

「協会からの、試験への申し込みの有無の確認だ」
「もうそんな時期になったんですね」

渡された手紙を読んで小さく息をつく。
内容に目を通してから、手紙を元通りに折り畳んで僕に返してくる。
シズヴィッドはこの報せに対し、僕がどういう答えを出すのかを、もうわかっているのだろう。

試験は年に二度、一月と八月に行われる。
これを逃せば、次に魔術師となれる機会は半年も先送りになる。
だが、今の時点で試験を受けるだけの確固たる実力のない者は、試験には推薦できない。
弟子を持つ魔術師に試験参加の有無を確認してくるのは、初めから見込みのある者だけを送り出せという、協会側からの暗黙の指示である。

「弟子が試験を受けるに相応しいだけの実力を持つかどうかの判断は、師に委ねられる。僕は今の段階では、おまえに試験を受けさせる気はない」

シズヴィッドの目を見て、はっきりと宣言する。
答えを先延ばしにしても意味がない。少なくとも後一ヶ月で、この弟子を一人前に育てられるとは思えないのだ。
現実的に物事を見れば、今回の試験見送りは当然の結果だった。

「おまえは戦力だけをみれば、並の魔術師程度に戦える実力はある。だがそれは、格闘に重点を置いた場合の話であり、純粋な魔術の技量そのものは「未熟」の一言に尽きる」
「……はい」

シズヴィッドは、この国で最も浸透している精霊魔術をまったく使いこなせず、召喚術も成功していない。
こんな現状ではどうしようもない。本人もそれをわかっているから、頷くしかないだろう。

ただ、生まれながらの素質に大きく左右される白魔術が使えないのは、仕方がないと言える。
白魔術は使い手が希少で汎用性もあり、とても重宝されている。それが使えるならば他が覚束なくても魔術師として優遇されるのは間違いないのだが、こればかりは、努力だけではいかんともし難い。

黒魔術はそもそも、学ぶのを歓迎されない。
この国以外を拠点とするなら黒魔術を学ぶのも選択肢としてありだろうが、シズヴィッドは弟のいるここを離れるつもりはないというから、今のところ除外している。
魔との契約や呪いなどを主体とする暗黒面の技は、代償を求められたりと様々な弊害もある事から、一般に嫌われがちだ。
また、この国では、長く冷戦状態が続く敵国が黒魔術を得意とするのもあって、特にその方面への印象が悪いという事情もある。

僕自身は、四大魔術すべてを使いこなす。
黒魔術も、僕は自身が知らなければ納得いかないと師匠に無理を言って、半ば独学で習得した。
白魔術の方は、元々、母の血からその才を受け継いでいた。
その二つは相反する性質なので、両方を使えるのは極めて珍しいと言われている。
その上で、精霊魔術も召喚術も使いこなすとなれば更に希少となり、そのどれもを高度に使いこなすとなれば、世界でもほんの一握りしか存在しなくなる。

僕はこの国で唯一、四大魔術すべてに精通する人材である。
だからこそ、シズヴィッドがどんなに厄介な性質を持っていたとしても、柔軟に対応して鍛えられる可能性があると思っている。
国一番の魔術師と呼ばれる僕の元に弟子入りしたのだ。
シズヴィッドにはしっかりと実力を備えさせた上で、試験に臨ませるつもりだ。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→ 「九章」


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



PR

「明日、花が咲くように」 八章 4

結局、僕は強く否定できぬまま、退出するシズヴィッドを見送った。
武術訓練の為に動きやすい服も持ってきているから、着替えの服には困らないのだろう。

漠然と、ひどい事をしたような気がする。
あれがどうして男装まがいの服装をしていたのかも、どうして今日に限って女物のドレスを着てきたのかも聞かずに、僕は本能で嫌悪し、その格好を拒絶した。

母が縫ってくれたと言ってドレスを見せた時のシズヴィッドは、嬉しそうにはにかんでいた気がする。
実際、ドレスを着ているのが嬉しかったのではないだろうか。
それを僕が、自分の身勝手さで拒否した。

押し掛けてきたあれを、確かに最初は「女だから」という理由で断った。
根性に負けて弟子にした後も、しばらくは性別にこだわって斜めに見ていた。
だが、性格を知る内にきちんと弟子として認め、一人前の魔術師に育てると、自分で決めたはずなのに。
服装一つでこんなにも動揺するなんて、思いもしなかった。

(気遣わせ、選ばせた)

自分の浅慮だったと先に謝らせてしまったのは、僕の精神的な未熟さのせいだ。


『貴方もいつか、恋をすればわかるわ』

また、母を思いだした。
寝台に横たわり、遠い目をして語った言葉を思いだした。
僕を見ずに、ただ失った夫の面影だけを求めていた。

母は色素の薄い髪色が多いこの国では珍しい、黒髪黒目をした女だった。
元は異国の魔術師で、この国の貴族だった父と結婚し、僕を身篭ったらしい。
父が事故で死んだ後、母はそれを追うように日に日に衰弱してゆき、まもなく死んだ。
生きようと思えば生きられたはずなのに、死を望み、僕をただ一人置いていった。

母は父を深く愛していて、父がいない世界に絶望し、心が死んで、身体も死んだ。
魂が抜けた虚ろな表情で、食事も水も摂らず、ゆるやかな死だけを待っていた姿が目に浮かぶ。
ああいう激情は、僕には理解できなかった。
父がいなくなっただけでも辛いのに、どうして母まで逝こうとするのか、幼い僕には納得できず、何度も何度も、生きてほしいと訴えた。
結局、その願いが叶う事はなかったが。

ただ一人を愛しすぎたが故に、残された世界に未練がなくなってしまった母を責めても仕方がないと、もう、とうの昔に割り切ったはずだった。
子供一人残されたとはいっても、父からは貴族の地位と莫大な遺産を相続し、母からは魔術の才を受け継いでいた僕は、一人でも生きてゆくのに、特に支障はなかったのだ。

両親が死んで、僕は宮廷魔術師長の元に弟子入りした。
宮廷に出入りする女たちが、珍しい黒髪にすぐ興味を持ち、残された遺産と地位、そして魔術の才能に目をつけて、度々言い寄ってくるようになった。

それに嫌気が差し、僕は学友のエディアローズの傍にいる事が多くなった。
不吉王子と忌み嫌われるあいつの傍にやって来てまで僕を口説けるような根性のある女は、宮廷にはいなかったから。
女避けに利用されるのに対して、エディアローズは辛辣な嫌味こそ言ったが、それでもあいつは、そうする事を僕に許した。

僕はこれまで、自分の女嫌いの原因が母にあるとは考えていなかった。
けれど、シズヴィッドの……近しい存在となりつつある相手のドレス姿を見て、嫌悪で気持ちが悪くなった時、真っ先に思いだしたのは母だった。
つまるところ、結局は、そういう事なのだろう。

扉をノックする音がして、僕は我に返る。

「入れ」
「はい。……師匠、大丈夫ですか?」

いつものローブにズボンという格好に戻ったシズヴィッドが、気遣わしげに僕を見る。
それに頷いて、僕は「すまない」と、小さく詫びた。
詫びる事しかできなかった。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング



「明日、花が咲くように」 八章 3

「何だ!? その格好は!?」

出勤してきたシズヴィッドの格好を見て、僕は目を見開いて驚愕し、その直後に容赦なく怒鳴っていた。
反射的に鳥肌が立ったのに、後で気づく。

「そこまで驚愕しなくてもいいのでは。……母が縫ってくれたドレスです」

僕の怒声に眉を顰めて、シズヴィッドは自分の格好を見下ろした。

シズヴィッドはいつもの男装まがいの格好ではなく、淡いワインレッドのドレス姿をしていた。
大きめの白い襟に刺繍やレースがあしらわれたデザイン。腰に巻いたリボンは一段濃い色で、ウエストを引き締めるアクセントになっている。胸元には淡いピンクの薔薇を模ったコサージュ。

冷静になってみれば、こういった服装こそが女性本来の姿であり、これまでの方がおかしかったのだとわかる。
だが、僕は拒絶反応が先に来た。
渋々とはいえ自分の意志で女の弟子を取ると認めたはずだったのに、こいつが女らしくない格好をしているのを良い事に、いつのまにか宣言された通り、「女と思わずにいた」のだ。それに今更気づかされた。

(そんな情けない逃避をしていたのか、僕は)


『ヒース』

母の声が脳内に蘇る。
――――吐き気がした。

「師匠!?」
「触るな!」

額に脂汗を滲ませて口元を手で覆った僕の様子で、シズヴィッドも異常を知った。
咄嗟に伸ばされた手を、鋭い声で制止する。伸ばされかけた手が途中で止まり、慌てて引っ込められる。

僕は、自分の女嫌いの原因を、ずっと、女に言い寄られる鬱陶しさに嫌気が差したからだと思っていた。
けれど、女の格好をしたシズヴィッドを見て、真っ先に頭に浮かんだのは、母の姿だった。

思い出したくなくて、意図的に忘れていたのか。
自分の精神の弱さに反吐が出る。

「気に喰わないのならば、すぐに着替えてきます」

拒絶されてからしばらく、こちらの様子をただ黙って見つめていたシズヴィッドが、静かな声音で切り出してくる。
青い瞳はどこまでも冷静で、その目に映る僕の、困惑に揺れる表情が滑稽だった。

「女嫌いの貴方の弟子にしてもらう為に、女と思わずに結構ですと言ったのは私です。こういった格好が嫌なのでしたら、遠慮なくそう言ってください」

淡々と、感情を交えずに語る。
おそらくシズヴィッドは、ここで僕の弟子を辞めさせられぬ為にはどうすれば良いのか、必死に考えている。
こいつは根性だけでなく、打算的なしたたかさも持ち合わせている。
人の腹を勘繰って、許容以上に怒らせるような真似をしないよう、常に距離を保っている。
その結果、今の僕を観察して、弟子を破門されないように先手を打ってきた。
魔術師になりたいという希望を潰されないように。
その為には女らしさなど不要と、言外に僕に訴えてきていた。

「……別、に」
いくら何でも、服装にまで気を遣われる必要はない。
そう否定しようとして、喉が擦れ、声が途絶えた。
実際僕は今、その女らしい格好に、激しい抵抗を感じてしまっているのだ。まだ、胸がムカムカと気持ち悪い。
そしてそんな心理状態を、こいつは的確に読んでくる。

「無理をされなくて良いです。このお屋敷のメイドさんが可愛らしいメイド服だったので、師匠が女性の服装に抵抗がある可能性を考えていませんでしたが、それは使用人だからこそなのですね。……私の浅慮でした」

瞼が伏せられると、睫毛が意外と長いのに気づかされる。
そういう「女らしさ」を、僕は否応なしに嫌悪する。してしまう。
エディアローズのように端整な女顔であっても、中身が男なら抵抗はないのに。

ここにいるのは正真正銘の女なのだと、今更、遅すぎる認識をして、僕はどうしようもない吐き気と自己嫌悪に襲われた。



←back  「明日、花が咲くように」 目次へ  next→


ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(週1回)
「NEWVEL」小説投票ランキング
「Wandering Network」アクセスランキング
「HONなび」投票ランキング





忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne