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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 九章 6

窓際に置かれた白い花は、毒にも薬にもならない品種の、可憐な花だった。それは本当に、お見舞いと嫌がらせの意図しか感じられない。

グリンローザの第二王子は、巷では「凶王子」という不名誉な呼び名で知られている。
幼い頃はそれはそれは聡明な王子だったというが、十二歳の時に難病に罹り、それからずっと人目を避けてどこかでひっそり療養していたという。
十年後、病が治り王宮に戻ってきたが、その時には既に頭の中身がおかしくなっていて、親兄弟に嫌がらせばかりして、気違いな言動をするようになっていたという。
そればかりか、この国で特に嫌われる黒魔術に傾倒し、日常で黒魔術を使っては周りを怯えさせていると。
廃嫡にはされていないが、気違いの凶王子が次の王に指名される可能性はないと噂されている。以前がなまじ聡明だっただけに、未だに一部の貴族からは彼を惜しむ声もあるというが、国民に広く噂される程に狂った言動をする第二王子が、次の王になる事はないだろう。

(そういえば、エディアローズ殿下も不吉王子と怖れられているから、次の王に指名される可能性はないのよね)
六人も王子がいるとはいえ、第二、第三王子を抜いて考えれば、残りは四人だ。その内のどなたが次の王になるのか、私には予想もつかない。所詮自分のような下級貴族には、政治の中枢とは関わりがない。
誰が王になっても、王の仕事をこなせるだけの力量を持ち、エディアローズ殿下のお立場が悪くならなければそれでいいと、そう思うくらいだ。

「……ごめん、ヒース。仕事が忙しいからって無理をして、結局は君にも周りにも、迷惑をかけてしまった」
「気にするな。今は養生する事だけを考えろ」

続き部屋の向こうで、小さく、エディアローズ殿下の掠れた声が聞こえた。師匠が根気良く白魔術で治癒し続けたおかげで、ようやく意識が戻ったようだ。
(良かった)
私はカリクさんが持たせてくれた果物の中から、白桃のシロップ漬けと、林檎を取り出す。林檎は摩り下ろして、桃はお皿に移して、さっき調剤した薬と一緒に寝室へ持っていく。

「エディアローズ殿下、意識が戻られて何よりです」
「スノウ嬢も来てくれてたんだ、ありがとう」

寝台の上に横になったまま、エディアローズ殿下がこちらに笑い掛けてくる。
柔らかく微笑んではいるけれど、調子はまだまだ悪そうだ。

「私でお役に立てるなら、喜んで馳せ参じますとも。解熱剤を飲んでいただきたいので、先に果物を少しでもお召し上がりください。……食べられそうですか?」
「ん、そうだね。少しだけなら」

師匠に手を貸され、半身を起き上がらせ、ゆっくりと白桃のシロップ漬けを口に含む。
たくさんの精霊たちが心配そうに殿下を囲んでいる。
彼らの中には、治癒や回復を得意とする種族もいる。それでも倒れたという事は、彼らが回復した端からすぐ無理を重ねていったという事に他ならない。

「精霊の加護の限界を超えるまで無理をなさるなんて、いくらなんでも無茶が過ぎます。全快されるまでは安静にしていてもらいますからね」
「え、今の時期にそれは」
「エディアローズ」「殿下」

慌てたように声を上げる殿下の様子に、私と師匠の牽制の声が重なった。二人揃って半眼で睨むと、流石にそれ以上の抗議せずに、おとなしく果物を食べるのを再開する。

「いくら軍務と財務の兼任でお忙しいとはいえ、これ以上の無理は絶対駄目です」
「軍務の方は、要職についてる訳じゃないから、訓練に出なくても問題ないんだけど、今、財務省の方で年末業務が積み重なってて……」

まだ未練がましい目をしている。
ヒース師匠はそれに呆れ果てた溜息をついて、言葉での説得は、諦めたようだ。
その代わり、私に向かって決定事項を通達する。

「シズヴィッド、後で僕の屋敷から着替えを持ってこい。おまえは夜間は帰っていいが、昼間は交替でこの馬鹿を見張るぞ」

完治するまでは強制的に寝台に縛り付けておくと、師匠の据わった目が雄弁に語っていた。
私は勿論頷いた。

「そうですね、殿下の見張りと看病を兼ねて、師匠はこちらに泊まられるのが良いでしょう。私はルルも心配ですので夜間は師匠にお任せしますが、昼間はこちらでお手伝いしますね」
「ええ!?」


(心底驚かれてますが、殿下。今回ばかりは、貴方の自業自得です)



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ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
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「明日、花が咲くように」 九章 5

王宮は広い。中央に王の居城とそれを守る近衛騎士団があり、それを囲うように様々な建物がある。
北には妃たちの住まう後宮があり、東には白薔薇騎士団が、西には黒薔薇騎士団があり、南には宮廷魔術師の師団と研究施設がある。他にも施設はたくさんで、とにかく広い。
そしてその一つ一つの建物の間に庭や森が広がっているので、城壁を抜けた内部が、一つの大きな街と言ってもいいような景色だった。
噂には聞いていても、城壁の内部……まとめて王宮と言われるここに入ったのは初めてだ。
私は移動中の馬車の窓からその光景を見て圧倒された。

「この国では王の子供たちは、正妃の子や妾妃の子に関わらず、五歳までは後宮で育てられ、その後は王子宮に移され、そこで平等な扱いを受ける。……建前上はな」
これから向かうのは、その王子宮だという。

王の子がすべて同じ扱いを受けるのは、この国の王位が長子や長男が優先されるのでなく、王の指名によって決められるからだ。
これは、王の直系の中からもっとも王に相応しいとされる者を王が指名し、議会で承認される事によって、はじめて王太子となれる制度だ。

現在、王国には九人の子がいる。
その内、既に他国に嫁いだ第一王女グレイシア殿下は指名枠内から外れている。また、男性優位の国柄なので、王子が六人もいるのに、第二、第三王女に王太子の地位が回ってくるとは考えにくい。
なので六人の王子の内から選ばれるだろうと言われているが、現在まだ、王は次期後継者を選んでおらず、王太子の座は空のままだ。

「子供の側使えは母方の実家に任せられており、実家の勢力によって数が違ってくる。大体は一人~四人までと定められているが、だがエディアローズには側使えの者が一人もいない。あいつの母親は身分ある正妃だが、忌み子と嫌う我が子には、人を割く事をしなかったからだ」
王宮内にはエディアローズを世話する者などは殆どいないのだと、師匠が苦々しく言い放った。
だからこそ、彼が倒れた時に自分のところに急使が来るのだとも。

ここには優秀な人材はいくらでもいるだろうに。お医者さまだって、治療師だって、薬剤師だって。なのに不吉だと忌み嫌われ診てくれる人さえいないなんて。
私は殿下が避けられていると知っても、そんな扱いを受けているとまでは考えが及んでいなかった。至らない自分が恥ずかしい。

馬車が王子宮の入り口までつくと、ヒース師匠は荷物の殆どを持ってさっさと降りた。私も残りの荷物を持って彼の背を追い、人気のない回廊を進む。

エディアローズ殿下に割り当てられた部屋に入ると、そこは妙に空々しくて切なかった。
殿下が意識も朧な状態で寝込んでいるというのに、誰一人、傍につく者がいないのが、そのお立場を知らしめるよう。
師匠がすぐに枕元に近づいて、白魔術を使った治癒を始める。
エディアローズ殿下は意識を失ったまま、私たちが近づいても目覚める気配がない。
息も荒いし、見るからに辛そうだ。過労と聞いたけれど、いくら師走で忙しい時期だからって、こんなになるまで無理をするなんて。

「薬の準備に入りますが、その前に私にも一度診察させてください。私が殿下の御身に触れても構いませんか?」
「薬の処方に必要な診察に、エディアローズは文句は言わん。すぐ始めろ」
「はい」
私も寝込む殿下にそっと近づいて、体温や脈拍を測ったりする。
私が傍に寄ると、殿下を守る精霊の数が減ってしまう。体力の落ちている今、診察以外で近づくのは極力避けた方がいい。

私はさっと診察を終えて、エディアローズ殿下の寝室の続き部屋となっている居間で、カリクさんに持たせてもらった薬を計ってすり鉢で合わせて、必要な薬を調剤する事した。解熱剤と栄養剤が必要だ。
私が看病に近づけない以上は、付き添いは師匠に任せるしかない。

ふと、寝室に続く部屋とは反対の、私達が入ってきた方の扉から、ガザガザと乾いた音がして、私は顔を上げた。
扉が開かれる。
そこにいた相手(?)に、私は目を見開いた。

(藁人形……)
なんと、私の身長の半分より小さいくらいの小型の藁人形が、可憐な白い花の鉢植えを運んできたのだ。
動く藁人形なんて初めてみた。
ただ、殿下から話には聞いていた。次兄…第二王子が、一般には嫌われる黒魔術に傾倒していて、小間使い代わりに藁人形を使用するのだと。
これがそうなのだろう。

その藁人形が奥の寝室に向かってテクテクと歩いてゆくのを見て、私はハッとして立ち上がり、その物体を急ぎ追い越した。

「師匠、藁人形が」
「ああ……アルフォンソだな。また嫌がらせか」

私たちが小声で話している間に、その小型の藁人形は両手に抱えた鉢植えを、日当たりの良い窓際にちょこんと置いた。
首を傾げて、位置を調整し、納得いったのか無言で頷く仕草をする。……ちょっと可愛いかも。

「第二王子アルフォンソ・シアン殿下ですか。でも思ったよりずっと、嫌がらせっぽくないですね。……病人に鉢植えの花を贈るのは縁起が良くないと言われていますが、それでも贈り物は贈り物です。綺麗です」
「あれの嫌がらせはほぼ、実害がないレベルだからな」

師匠はどうでもよさそうに肩を竦める。端から放っておけといわんばかりの態度だ。
私が気になって注視していると、藁人形はくるりと振り返り、片手をぶんぶんと振ってみせて、またテクテクと部屋の外に去っていってしまった。



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「明日、花が咲くように」 九章 4

フカフカの毛足の長いカーペットが敷かれた家具が少ない部屋で、師匠は壁を歩くという離れ業を実践してみせてくれた。
どんなに高い塀も、こうして壁そのものを歩ければ、何の障害にもならないだろう。
壁を垂直に歩く人間という光景を前に、私は珍妙な気分に陥る。

「なんと言うか……、密偵向きな能力ですね」
「極めればな」

私に訓練を開始させる前に、師匠は、まずは自分で訓練したのではないだろうか。元からこういう技を使えたのなら、多分もっと早くに教えてくれただろうし。
私に扱える技を考えて磁気に行き着いて。それから訓練したにしては、師匠はすんなりそれを使いこなしているのだけど……そこは流石に、自他ともに認める天才魔術師だけはあるという事か。

「壁や天井……自分の定めた地点に、必要な分だけ魔力で磁気を流す。吸着させたい時には必要な分を含ませて、離れたい時には流れを解除する」

壁から天井まで二本足で悠々と歩いてみせて、師匠が天井から逆さに立ってみせる。

足に磁気を帯びさせ、自分の立つ足場にも一時的に磁気を帯びさせる。そうして異極間で引き寄せあう性質を利用して、吸着させているのだという。
言葉で説明するのもややこしいけれど、それを実際にこなすとなればもっと難易度が高いはず。師匠はいともたやすく実践してみせているけれど、絶対に、習得するのは難しそうだ。

「同極間では退け合う力を利用すれば、高く跳ね上がったりもできる」

師匠の足がぱっと天井から離れたと思ったら、すぐに空中で体勢を立て直した。そのまま床に降り立つのかと思えば、まるで強いスプリングのベッドにでも乗ったみたいに、けれど床に足がつかぬ間に空中で弾かれて、また高い天井まで一気に戻ってみせた。
その一連の動作は優美で、まるで体勢を崩さずに行われた。
この人はどうして魔術師のくせにこんなに体を鍛えているんだろうと、人の事は言えないけれど思ってしまう。私は未だ、戦闘訓練で一度も彼に勝てていない。

「まずは磁気を体に纏わせる訓練をしろ。それを掴んだら、次は、まずは四肢を使って壁に張り付く訓練だな。いきなり足だけで壁に立つのは無理だろう」
「……もしかして、師匠もそれをやったんですか?」

四肢を使って壁に張り付くなんて、カエルみたいで見た目情けない。
私は実用的でさえあれば見た目にはこだわらないけれど、この師匠がそれをやったかと思うと、どうしても笑えてしまう。
ここで笑ったら怒られるのはわかっているのだけど、堪え切れなかった。

「僕は最初から足だけで壁に立てた」
ムカッとした顔で断言された。才能の差を見せつけられた感じだ。


感覚を掴む為にと渡された、二つの磁石を眺める。
本の中で知識としては知っていたけれど、こうして実物の磁石に触るのは初めてだ。
飾り気のない黒い磁石はまるで同じに見えるのに、異極間では手を放すとパッと引っ付いて、同極間では強引にくっつけようとしても、つく前に強く弾かれる。
吸着と反発。
師匠に実際に目の前で実践してもらったから、とても便利で使い道が広い力だというのがわかった。
反発は特に興味深い。弾く力は戦闘強化に使える。筋力だけでは無理な動きも可能になる。
重力の魔術も私は似たような使い方をしてきた。戦闘において、衝撃を和らげたり、攻撃に力を上乗せしたりといった具合に。
磁気の性質はそれに近く、それでいて違う用途がある。

(磁石を長くくっつけておくと、ただの金属が磁気を帯びる)
磁力が永く続く磁石を魔力で造る事は難しいけれど、魔力を通わせて、一時的に磁気を帯びさせるだけならば案外容易なのだと、師匠が言う。金属であれば更に容易いとも。
磁気は他のものに影響を及ぼしやすい。つまり、変質させやすいという事。確かに私の「変質」の魔力性質とは相性が良さそうだ。


扉をノックする音に、集中がふつりと途切れた。
ノックしたのは執事長のカリクさんだった。「王宮より、急ぎの使者がこられております」と、師匠に報告する。
いつも穏やかな笑みを絶やさない落ち着いた紳士という印象のカリクさんが、今は青褪めた顔色になっていた。

「エディアローズ殿下が倒れられたそうです」

「っ!」
「なんだって」


カリクさんからの報せを受けて使者と面会してきた師匠は、私にもエディアローズ殿下の容態を教えてくれた。

「過労で高熱を出して倒れたらしい。白魔術の使い手が必要らしいから、これから僕が行く」

高熱と聞いて余計に心配になる。
エディアローズ殿下は精霊の加護を持つ方だ。それでも倒れる程の熱があるという事は、精霊の手に余ったという事。そんなに具合が悪いなんて。

「確かおまえは、薬剤師の免許を持っているんだったな?」
「はい」
「ではおまえも共に来い」
「はい!」

勢い込んで返事したのはいいものの、私はハッと自分の格好を見下ろした。
ぎりぎり貴族階級にいるとはいえ、下級で貧乏な私は勿論、社交界なんて縁がなく、王宮に足を踏む入れた経験も一度もない。
清潔さだけは保っているものの、こんな普段着で訪れて良いのか不安になる。

「あの、王宮って、こんな格好で出入りして良いんでしょうか?」
「きちんとした服を見繕っている暇はない。今回行くのは本城ではなく、王の子供だけが住む離宮だ。それで構わない。必要な物はカリクに用意させる。何か入り用な物があれば伝えておけ」
「わかりました」



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