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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 七章 4

スノウ嬢がシュシュを預けに行った間に、ヒースが実験の手順を説明する。

僕の周囲に一つ目の結界を。そして、そのすぐ傍に二つ目の結界を。最後に、屋敷の中庭に三つ目の結界を張ると。

一つ目の結界は僕と精霊を離す為のもので、二つ目の結界は、何かあった場合にすぐ対応できるよう、スノウ嬢が待機する為の結界。
三つ目の結界は、僕から離されて気が立った精霊が、仮に何かをしでかした場合に、他に被害がいかないようにする為に中庭に張る結界だと、ヒースが説明する。

僕に何かあった場合に備えて、ヒースは僕と共に一つ目の結界の内側に。
スノウ嬢は僕らの結界の外側で、一人だけ別の結界に入り、結界を個別に破る為の「結界破りの魔石」を持って待機するそうだ。


「シズヴィッドがいるだけで、力の弱い精霊たちは距離を取る。だが、力の強い精霊はおまえの傍にい続ける。それを徐々に減らしていって、様子を見る手筈だ。
精霊を一度にすべて引き剥がすつもりはない。何が起きるかわからんからな」
「スノウ嬢が精霊から避けられているのは聞いたけれど、傍にいるだけでどれくらい数が減っているの?」
「あれが傍にいるだけで半数近くは減っている。と言っても消滅した訳ではなく、少し離れた場所からおまえを見守っているがな」

(そんなに一気に減っていたんだ)
予想以上の数に、僕は内心で驚く。
スノウ嬢は頑張って魔術師を目指しているのに、精霊魔術の要である精霊に避けられやすいなんて、とても気の毒な体質だ。
ヒースが何か、彼女が精霊に避けられない為の良い方法を考え付いてくれればいいのだけど。

「何かあった場合は即座に中止する。精霊は弾かれてもこの中庭の結界内に留まるから、中止すればすぐに戻ってこれる」
「わかった。誰にも危険が及ばないように気を付けて」
「おまえも心構えだけはしておけ。精霊が引き剥がされる事で、おまえ自身にも何らかの影響が出るかもしれんからな」
「わかってる」

スノウ嬢が戻ってきて、いよいよ実験が開始される事になった。
結界を張ってそれを維持し、精霊を徐々に弾いていくのはヒースの仕事だ。
僕は椅子に座ったまま、何かあればすぐ動けるように心構えだけはしておく。

スノウ嬢は五メートル程離れた場所に佇んでいる。ヒースから渡された魔石を手に、ナックルとかの武器を万全に装備して待機している。

(……武器、必要なのかな)

僕も武人だから常に帯剣しているが、この実験でスノウ嬢があの拳を振るうような事態にならなければいいな、と密かに思った。
本職軍人の僕が負けるとは思いたくないが、あの素早さには苦戦しそうだ。
僕とヒースは、魔術なしならば互角の腕だけど、ヒースは本職が魔術師だ。魔術を使われれば敵わない。
スノウ嬢と戦うとどうなるだろう。

(どちらにしても、僕はもっと剣の腕を磨かないと)



『僕の偉大さに跪くがいいわ! 愚かなる親兄弟ども!』

(う、わ!?)
ふいに弟の声が、大音響で響き渡った。
あまりにも唐突に脳を揺さぶられ、その感覚に眩暈がする。
バランスを失って椅子から転がり落ちないように、咄嗟にテーブルを手で掴んだ。

「どうした! エディアローズ!」
「殿下!?」

こちらの異変に気づいたヒースとスノウ嬢の、緊迫した声が聞こえる。
これは、耳を通して聞こえた肉声だ。

だが先程の声は、脳裏に直接響く、念話のたぐいのものだったようだ。
怪訝そうな顔でこちらを窺うヒースやスノウ嬢には、あの大声が聞こえていなかったらしく、突然の僕の変化に驚いている。

「シズヴィッド! 結界を破れ!」
「はい!!」

僕の異変を察して、ヒースが僕の背に触れながら怒鳴った。離れた場所にいたスノウ嬢が素早く、結界を破る「魔石」を使う。
実験中止の決断が素早いと、僕は妙なところで感心してしまった。


『死なない程度に継承権剥奪……』『昔苛めて返り討ちにあったトラウマで、未だにどう接していいのかわからん~っ』『藁人形でこっそり餌を与えてリスを肥満にさせよう。嫌がらせこそは私の生き甲斐……』『わたくしの方がそなたより美しいぞ』『女顔』『お母様が怒るから、あのお兄様に近づくの怖いよう』『こいつは人をからかって遊ぶ腹黒だ』『精霊に慕われて羨ましい』『不憫な方でいらっしゃるのう』

次から次へととどめなく溢れてくる、たくさんの「声」の塊に、意識が持っていかれそうになる。
額や背中に冷や汗が流れた。……気持ち、悪い。


『おぞましい』

『忌み子が我に触れるでない』



その「声」が頭に響いた瞬間、僕は本気で吐き気がした。
それは、知っている人の「声」だった。



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「明日、花が咲くように」 七章 3

「彼らがいないと、普段とは違う事が起こるかもしれない?」
「その可能性はあるかと。何事も試してみなければ、正確な答えは得られませんので」
「それはそうだね」

実験の意図はわかった。
準備を整えた上で僕が呼ばれたのだから、異存がなければすぐにでも実験を始められるのだろう。
だとしたら、気になる疑問は今の内に解消しておかなければ。

「精霊たちは僕をずっと守ってくれた。僕はこれまで、そんな彼らの行動を止めなかった。僕を害そうとした人間が返り討ちにあって怪我をしても、相手の自業自得だと割り切ってた」
「別に、それが悪い事とは思わんが? 自衛は必要だろう」
「危害を加えようとした相手が悪いのです。誰かの心無い行いで、エディアローズ殿下が一方的に傷つけられたりしたら、私も師匠も、その相手に怒りを覚えます」
「…まあ、そういう事だな」
「ありがとう。ヒース、スノウ嬢」

二人とも、精霊に頼って生きてきた僕の行いを責めない。
それどころか、僕の為に見知らぬ相手を怒ってくれるとまで言う。
なんて心優しい友人たちだろう。くすぐったくて誇らしい気持ちで胸が満たされる。

「それで、君たちや精霊たちに危害が及ぶ可能性はないの? 君たちに何かあっても、僕では彼らを抑えられないと思うんだ。彼らは僕が頼まなくても自分の意志で動くから」

精霊は必要以上に命あるものを傷つけるような事はしないから、僕に危害を加えようとしない限りは危険はないはずだ。
だが、強引にこの場から引き剥がそうとして、もし二人に精霊の牙が向いたら?

僕には彼らが視えないから、実験が行われても、そこで何が起こっているのかわからないだろう。それが不安を煽る。

「勿論、おまえも含めて全員に対して危険がないようにする」
「実験には細心の注意を払います。エディアローズ殿下、どうか師匠の腕を信じてあげてください」

その発言はさり気なかったが、ヒースに対する確かな信頼が込められていて、彼女が師を敬っているのがまっすぐに伝わってきた。
ヒースが照れ隠しで仏頂面になる。スノウ嬢が素で言ってるのがわかるから尚更、どういう表情をしていいかわからなくなっているんだろう。……まったく、ヒースは素直じゃない。
この二人の間に、しっかりと師弟の絆が育ちつつあるのを見ると、僕も嬉しくなる。

「皆が無事でいられるなら、実験に異存はないよ。じゃあ、始めようか」
「そうだな。準備を開始するぞ」
「あ、それでは殿下、シュシュちゃんを少しお借りして良いですか? 実験の間だけ執事のカリクさんにシュシュちゃんを預かってもらおうと思いまして」
「ああそうだね。スノウ嬢、シュシュを預けてきてくれるかな。でも、最近どこかでたくさん餌を貰っているらしくてちょっと肥満になりかけてるから、餌は与えすぎないようにって、カリクに伝えてくれる?」
「はい、わかりました」

シュシュを両手でそっと抱きしめて、スノウ嬢は中庭からお屋敷内へ入っていった。



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「明日、花が咲くように」 六章 4

僕が財務長官として国庫を預かる事になったきっかけは、前の財務長官が国費を横領をしていたのを、聡明な僕が気づいて告発したからである。

丁度、上下水道の公共工事で大規模な金が動いたのが、元長官の横領を見過ごす原因となったらしい。
そんな中、偶然目にした書類から不正を見抜いて、独自の働きで証拠を揃えて罪を明らかにした僕は偉大だ。
(長官という重要な立場にありながら、税金を横領した前の長官は死ね。まだ服役中だが、僕に言わせれば刑が生ぬるい。刑を執行したヤツも死ね

そうやって、せっかく僕が腐った頭をもぎ取ってやったというのに、今度は誰が後任になるかで、内部で派閥争いが起きた。
しまいには賄賂まで飛び交うようになるに至り、僕の怒りの一撃で、財務官の半数が石と化した。(他から泣きつかれて、仕方なく後で元に戻してやったが)

財務省の惨状を見かねた僕が、「こんな馬鹿どもに国庫を任せてはおけん! 僕が財務長官になってやるわ!」と宣言し、若すぎるだの何だのとうるさい連中を石化して黙らせて、無事に長官となり、今に至る。

しかし、僕が長官に就任したら、今度は僕を補佐する人材に困るハメになった。財務官が、揃いも揃って無能の極みだったからだ。
まったく、次から次へと問題が絶えない。

就任当初は無能な部下に苛立って、僕が周囲を石化して騒ぎとなるのも日常茶飯事だった。
それに困った連中が不吉眼を補佐に推薦してきたのだ。あれは僕の石化を無効化できる数少ない存在だったから。
精霊に過剰に溺愛されている不吉眼は、本人が頼まなくても精霊が勝手にその身を守るという、反則的な特技を持っているのだ。本人はろくな魔力も持たんクセして生意気な事に。

不吉眼はそれ以前から軍属だったから、現在は軍務と財務省を兼任している。
兼任しているという事は、僕の補佐として傍に控えていられない時間も多いという事である。

いかに僕が有能であっても、流石に一人ではできる事に限りがある。なので仕方なく、不吉眼がいない時は他の財務官が補佐役をしているのだが、これがまた使えない。
すぐミスる。しかもその度に僕に怯える。怯えるからまたミスる。その悪循環だ。

いくら僕に石化された過去があるとはいえ、いい加減、そのムカツク態度を改めろ。殺すぞ。




今日も今日とて忙しい。
だが僕は、大事な国庫を守る為、誠心誠意、身を粉にして働くのだ。

僕はなんて偉大な男なんだろう。



ミスばかりの財務官を石にして、ようやく静けさを取り戻した執務室で、僕は満足して仕事の続きに取りかかった。



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