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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 七章 2

「精霊たちを引き剥がす理由を聞かせてくれるかい?」

僕は落ち着く為に紅茶のカップを傾けて、喉を湿らせる。
この師弟が精霊を追い払い、僕に危害を加えようとしているなんて可能性は、考える必要がない。僕はこれでも、ヒースを友人として信頼しているから。

それでも理由に納得いかなければ、実行されるのに抵抗が残る。
僕は、彼らがまるで「居ない」状態を、多分これまで一度も知らない。


「今回の実験の目的は、精霊と色違いの瞳に、何らかの関連性があるのかどうかを調べる事にあります。
精霊はその性質上、特定の何かを守ろうと動く事はあっても、必要以上に命を傷つける事は好みません。ましてや、守る対象にとって大切な存在を傷つけるなんて、常識ではありえません。仮に伝承が真実であったとしても、その原因が精霊にあるとは考えにくいのです」

それは僕も同感だったので、スノウ嬢の説明に黙って頷く。
ずっと身近で守られてきたからこそ、僕は彼らの優しさを、誰よりも知っている。不幸を招く原因が彼らにあるなんて、到底思えない。

「では、『不幸を招く』と伝えられてきた原因は、一体どこにあるのか?
精霊が原因とは思いにくい。……ならば精霊が原因ではないと仮定してみる。すると、今度は何故、おまえの周りにばかり精霊が異常に集まってくるのかが疑問になる。
他にもその瞳を持つ者がいれば比較検証ができるのだが、生憎とそういった情報は入ってきていない」

淡々とした口調でヒースが続ける。
彼の言う通り、少なくとも国内には、僕以外に色違いの瞳の持ち主がいるという情報はない。
そして国外でも、今のところ、そういった話は聞かない。

生まれてはいるのかもしれないが、伝承を怖れた親によって内密に捨てられてしまっていて、表沙汰になっていないのだろう。
そう考えると、この瞳を持ちながらこうして生きていられるだけで、僕は充分幸運だ。


「何事も、書物で調べるばかりでは限度があります。そこで私たちは、他に比較できる対象がいない以上は、殿下からありとあらゆる実験に協力していただいて、詳細なデータを取るしかないという結論に至りました」
「……そうなんだ」

悪びれのない笑顔で言い切られ、僕は苦笑するしかなかった。
データの為なら極寒にでも灼熱にでも行ってこいとでも言いたげな、クールで素敵な微笑みは、ある意味ヒースの無表情よりタチが悪い。
スノウ嬢は、思った以上につわもののようだ。

「詳細なデータを取る為には、いつもと違う状況を作り出す必要がある。その一環として、いつもおまえの周囲に群がっているのが当然となっている精霊たちを引き剥がした状態のデータを取ってみたいという話になった。
……これで納得がいったか?」

ヒースに問われ、「とりあえず、理由には納得した」と返す。
こうして実際に僕に話を切り出す前に、彼らだけで何度も議論を交わしていたのだろう。二人の説明は明確でよどみなかった。


それにしても、僕を見る二人の視線が徐々に、実験対象に向ける研究者のそれにすり替わってきているような気がするんだけど、これはどうしたものだろう。
ヒースが研究にのめり込むタイプなのは知っていたけど、どうやらスノウ嬢もまた、同じタイプであるらしい。



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「明日、花が咲くように」 七章 1

七章 『師弟の王子実験』




「研究で試したい事があるから、時間が空いたら来い」と、ヒースから連絡をもらった。


ヒースは、色違いの瞳にまつわる伝承の研究をしてくれている魔術師だ。
僕とヒースはわりと古くからの付き合いで、ある意味では幼馴染みのようなものだ。そして、良い友人同士だと思っている。

最近は、彼が弟子にとったスノウ嬢とも友人になれた。
彼らのところに行って他愛ない会話を交わすのは、僕にとって楽しい事である。

(早めに時間を空けて行ってこよう)

僕は急ぎの仕事を片付けて、早速、馬車の手配をした。


「こんにちは。ヒース、スノウ嬢」
「こんにちは、エディアローズ殿下。先日はクッキーをありがとうございました。家族もとても喜んで、殿下にお礼を申しておりました」
「喜んでもらえたなら嬉しいな」

これから向かうと知らせておいたからか、広い屋敷の中庭で、師弟揃って僕を出迎えてくれた。
スノウ嬢は相変わらず、僕を喜ばせるのが上手い。

本人にはあまり自覚がないのだろうけど、彼女は表情や話し方に、遠慮や嘘といったものがない。口調こそ丁寧だが、思った事はズバズバと口に出すタイプだ。
だからこそ、本心から僕を嫌っていないのがわかって安心できるのだ。
彼女のまっすぐな態度はとても心地良い。

「早かったな」
「何か、面白い実験でもやるのかなと思って」

僕がヒースに楽しげな笑みを向けると、彼はそれだけで嫌な顔をする。
普通ならそんな態度を取られれば嫌われていると思うところなのだが、流石に長い付き合いだけあって、僕も彼相手にはそんな心配はしない。
するだけ無駄だから。

ヒースは口も態度も悪いけど、なんだかんだで僕みたいなのを放っておけない、面倒見の良い性格をしているのだ。
研究者としてだけでなく、腐れ縁の幼馴染みとしても接してくれる、貴重な存在。
そして、僕にとっては一番面白い、からかいの対象でもある。


とりあえず、今回どんな実験を行うつもりなのか説明したいからと、いつものテーブルでお茶会をしながら話をする。
こうしてこのメンバーでお茶会をするのも三度目で、このまま定番になっていったら嬉しいなと密かに思う。

打てば響くような反応をしてくれるスノウ嬢と二人で、ヒースをからかい倒して遊ぶのが、すごく楽しくて仕方ない。
だから僕は、また時間を作って遊びに来ないと、と心に決める。


「おまえの周りの精霊を、一時だけ引き剥がしてみるつもりだ」
「え?」

いつも仏頂面のヒースが、眉間のしわをいつも以上に寄せて、これから行う予定の実験内容を告げる。

それは僕にとって、ちょっと意外な内容だった。


僕の周りには、いつもたくさんの精霊が溢れているという。
魔力をろくに持たない僕には彼らの姿を視る事はできないが、「何か」がずっと傍にいる気配だけは、昔から感じていた。

彼らは物心つく前からずっと僕を護ってくれている、優しくてあたたかな存在だ。
害意ある者が僕に危害を加えようとすると、彼らが大怪我を負わせない程度に退散させてくれた。

仕返しされた連中が不気味がって、「僕に近づくと不幸になるのは本当だ」と吹聴したせいで、色違いの瞳の伝承に真実味を与えてしまった一面はあるが、それでももし、彼らが護ってくれていなかったなら、僕への嫌がらせはもっとひどいものになっていたと思う。
もしかしたら、事故を装って殺されていた可能性だって否定できない。

姿が視えなくても、僕にとって、彼らは大切な恩人たちだ。
その彼らを僕から引き剥がすなんて言われれば、正直戸惑ってしまう。


「確かに、驚かれるのも無理はありません。私としても、こんなにも殿下を慕っている精霊たちを強引に引き剥がすのは心苦しいのですが、師匠と話し合った結果、これも実験の一環として必要かと判断したのです」

僕の困惑を見て取って、スノウ嬢が申し訳なさそうに言う。
彼女は弟子として師に学ぶだけでなく、ヒースの助手としても大変優秀なようだ。

これまでヒースの弟子になった者たちは、「役立たず」「邪魔」「研究を盗もうとした」といった理由からヒースによってクビにされてきたというのに、彼女には今のところ、そういった気配がない。
むしろ、訓練でヒースと善戦している姿や、こうして研究の手伝いをしようとしている姿を見るに、ヒースが彼女を信頼しはじめているのが伝わってくる。

僕は初対面の時から彼女の態度を気に入っている。だから、彼女がこのまま無事にヒースの弟子として、ここにいられるのを願っている。



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「明日、花が咲くように」 五章 6

正午過ぎ、軽い昼食をお父様と二人で摂る。
ルルは小食の上に朝食が遅いので、お昼は食事を摂らない。本当は三食きちんと食べてくれた方が健康にも良いし私も嬉しいのだけど、無理やり勧める事もできず、悩みの種だ。


午後からはお父様と一緒に図書館に行って、その帰りに日用品の買い物をする。

露店に可愛らしい小物があると、「これはエレインさんに、こっちはスノウさんに似合いそうですね」なんて、お父様が立ち止まってしまうから、私はお父様の腕をぐいぐい引っ張って、露店の前から急いで離れる。

お父様は露天商の人から言葉巧みに勧められるとはっきり断りきれなくて、つい余計なものまで買ってしまうような人なのだ。

「無駄遣いは駄目です、お父様」
露店を離れてから私が腰に両手を当てて睨むと、お父様は困ったような顔をされて微笑まれた。これも、毎週のように繰り返される光景だ。


買い物から帰ってきた後は、夕食を作りながらお父様からお料理のコツを教わった。
平日なら私の方がお母様より遅く帰ってくるくらいだけれど、今日は私が家にいるので、お母様が帰って来るまで待って、家族揃って食卓を囲んだ。

具合が悪くない時はルルも一緒だ。家族が揃うと嬉しくなる。
私の為のドレスの色や型の話題が出たり、ルルが読んでいる本の話が出たりして、話をしながら和やかに食事をする。

私が師匠や殿下の話題をすると、楽しげな笑い声も上がる。
私と、王都でも有名な人達との心温まる(?)エピソードは、話を聞く家族にとってはおかしくて仕方がないらしくて、皆よく笑って聞いてくれる。
私としては笑い話のつもりではない部分でさえ、笑われてしまう時もある。

私の普段の何気ない言動が、家族にとってはおかしく感じる部分があるらしいのだが、「スノウさんはそれでこそスノウさんです」とお父様が言うのだから、別に悪い事ではないのだろう。
ルルだって、尊敬するように眼を輝かせて、私の話を聞いてくれているのだし。


夕食の後は、お風呂をたてて順番に入りながら、居間でそれぞれ借りてきた本を読む。
こうして夕食の後の一時を一緒に過ごすのは、家族で共に過ごす時間を少しでも増やしたいからでもあるし、部屋の灯かりの代金を節約する為でもある。



夜、二階の自分の部屋に戻って、ベッドに横たわる。この寝る前のわずかな時間が私は苦手だ。
疲れてすぐに眠れるのならいいのだけど、暗い部屋に一人でいると、不安になってしまうから。

いつまでも芽が出ないのに、私は私自身の夢を追っている。十三歳で中等学校を卒業してから、もう三年が経った。
家の事を考えるなら、いつまでも弟子として修行しながら魔術師を目指すより、働いてお金を稼ぐか、爵位が欲しいお金持ちにでも嫁いだ方が確実だけれど、お父様もお母様も、決して、そうしなさいなんて言わない。
「自分の人生を悔いのないように精一杯生きてください」と、いつだって優しく、私の夢を応援してくれる。

だからこそ、夢を諦める時には、私は自分で決断を下さなければ。

時間は無限ではない。できる限り精一杯やって、それで駄目なら諦めるより他はない。


(だけど、まだ、諦めたくない)


諦めたくないから、全力で頑張っている。いつか結果が伴う日が来ると信じて。


早く眠れればいいのに。
不安を覆い隠す夜が過ぎて、いつもの朝が来ればいい。



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