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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 五章 2

この国では十数年前から、上下水道の大規模な整備が行われている。地方はまだ工事の最中だが、王都は王のお膝元だけあって、真っ先に整備が行われた。

我が家は高級住宅街からはかなり外れた寂れた住宅街にあるのだけど、ここの区画も、九年前に上下水道の工事が行われた。

あの時は、毎日の生活がとても大変だった。

いくら国の一大事業とはいえ、工事費すべてを国の予算で賄ってはくれない。そこに住む私たちにも、一部の負担が求められた。
うちは貧乏だったから、それはそれは苦労した。下級とはいえ貴族階級だったので、求められる負担金も一般より多めだったのだ。

織物工房に勤めているお母様は、連日のように残業をして、少しでもお金を稼ごうと頑張った。
家事全般を任されているお父様も、少しでも家計を浮かそうと、自分の分だけ食事をこっそり減らしたりしていたらしい。

それでも、弟の薬代にさえ欠く有様で、熱を出したあの子の傍で、私はお金を稼ぐすべのない自分の無力さを歯噛みしながら、何度も何度も、額を冷やす布きれを取り替えた。
そんな状況が続いて、私は自分にできる事はないかと考えて、自分の髪を自分で切って、これを売って家計の足しにしてほしいと、お父様に差し出した。

私の髪はお母様譲りの淡い銀色で、容姿が平凡な私にとって一番の自慢とも言えるものだったから、それなりに高く売れると思ったのだ。
短くなった髪を見て、お父様は私を抱きしめて、何も言わずに泣いてしまわれた。

馬につける車など、家財道具の多くを売ったのもあの頃だ。
工事は区画ごとに行われるから、納税が滞るとご近所さんにまで迷惑を掛けてしまうし。とにかく、お金をひねり出すのに必死だった。


生活に少しは余裕が出てきた今も、私が節約・倹約にこだわり続けるのだって、あの頃の経験が忘れられないからだと思う。

うちの区画の工事が終わると、水道によって、いつでも綺麗な水が使えるようになった。

私はその衛生さに驚いた。
水道の普及によって、毎年のように街を襲っていた流行り病の数が減って、ルルの体調もそれまでより、少し良くなった。
貧乏人にとっては過酷だった負担金と引き換えに、私は綺麗な水がもたらすもののありがたさを知った。

水道は今や、私たちの生活にとって欠かせない。
だからこそ、水道維持費や水の料金を払えなくなって水道が止められては困るから、普段から、地道に倹約に努めないといけないのだ。



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「明日、花が咲くように」 五章 1

五章 『貧乏貴族の安息日』




今日は、週に一度の安息日だ。

私は毎日、体を鈍らせない為に朝稽古をつけている。
今日も空が明るみ始める頃に起き出して、庭の片隅で格闘技の型を確認したり、基礎トレーニングをしたりして汗を流した。

いつもならその後、お風呂場で汗や汚れを落とし、お父様の作った朝食をいただいて師匠のお屋敷へ馬で出勤するのだけど、今日はお休みの日だ。
デヴィッド師匠とクラフト師匠の元にいた時は、魔術や武術を磨くのに必死で、時間がほんの僅かでも惜しくて、安息日も出勤していた。
だが、アイリーシャ師匠とヒース師匠は、安息日には休むようにと言う。

(そう言う本人は、研究に没頭してばかりなのに)

今の師匠であるヒースは、休日でも研究に没頭している。私が休日明けに出勤すると、明らかに研究資料などの散らかり具合が違っているから、訊かなくてもわかるのだ。
師匠がそうなら弟子の私だって、掃除なり何なりできる事をしに出勤すると言ったのだが、「安息日の意味をわかっているのか?」と、あっさり断られてしまった。

そう言う本人だって、ろくに休んでいなさそうなのに。

師匠は自分で天才と言うだけあって、研究分野が多岐に渡っているし、魔術師としての仕事の依頼も多くて、とても多忙な人なのはわかる。
けれど、日々が魔術漬け、研究漬けで、見ているこちらが心配になってくるような生活を送っている。
女嫌いだけあって、異性の影など微塵も見当たらないし。
私も人の事は言えないが、何が楽しくて人生送っているのかと不思議に思うような暮らしなのだ。


だが、せっかく師匠が休んでいろと言ってくれているのだ。出勤しないならしないで、やりたい事はたくさんある。
師匠に言ったら怒られそうだが、貧乏人には安息日などないのだ。


私は朝稽古を終えてから、鶏小屋の掃除をして産みたての卵を回収する。
卵は貴重なタンパク源だ。栄養満点でおいしいから、日々の食卓には欠かせない。
朝食の準備をしているお父様に、まだ温かい新鮮な卵を渡してくる。

それから、こじんまりとした庭で自家栽培している野菜や薬草たちに水をあげた。
野菜も食卓に欠かせない大切な栄養源だし、薬草は病弱なルルに必要なもの。どちらも大切だから、お父様が毎日しっかり手入れしてくれている。

滑車を取り付けた井戸の底から、桶で何度も水を汲み上げて運ぶ。
水道はあるけれど、そちらの水は有料だから、必要最低限以外は使わないようにしているのだ。

(前の工事でうちの井戸が潰されなくて良かった)

桶いっぱいの水をくみ上げて運ぶのは大変だけど、家計の節約には変えられないので、いつもは肉体労働に適さないお父様が一生懸命、桶で水をあげているのだ。休日くらい私が代わって差し上げないと。

私は力仕事が得意だ。こじんまりした庭だから、庭全体に水をあげるくらい、私にとっては大した労働じゃない。

普段から鍛えているだけあって、私は余分な脂肪などは一切ついていない。そのかわり、柔軟な筋肉がついている。
筋肉はつけすぎて重くなっても、身軽に動けなくなる。素早さを最優先する私は、しなやかながらも重くなりすぎない、最適な状態を保つ必要があるのだ。



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「明日、花が咲くように」 四章 6

「殿下のお立場の改善にも役立つでしょうが、同じ瞳を持った人たちはきっと他にもいて、ただ公になっていないだけではないかと思います。
そんな人たちの為にも……、そして、未来に生まれてくる子供たちへの差別を失くす為にも、魔術的な研究は、ぜひとも必要かと」
「そうだな。その通りだ」

確かに、シズヴィッドの言う通り、事はエディアローズ一人の問題では済まされないのだ。
伝承は大陸全土に広まっているのだ。今この時にだって、差別され迫害されている者がいるかもしれない。むしろ、他にもいると考えて動いた方が良いだろう。

僕が伝承を否定できるだけのしっかりとした根拠を示せれば、今後、色違いの瞳に対する差別を減らしてゆける。
仮に伝承そのものを否定できなかったとしても、その瞳の原理をはっきりと解明するだけでも、人々に根付いた畏れを、ある程度は払拭できるはずだ。
僕の研究成果が、幾つもの人生を左右する可能性を秘めている。極めて責任重大な立場だ。やりがいがある。
いずれは、「生まれてすぐに捨てられても当然」などと言われるような現状を打破したいものだ。


「おまえは今の段階では、伝承をどう解釈している?」

僕が試しに訊ねてみると、「難しい質問ですね」と眉を顰める。

「師匠のように研究を重ねてきた訳ではありませんので素人意見になりますが、色違いの瞳が精霊に愛されすぎる特性を持つ可能性はあるかと。それで、精霊たちが彼らを守ろうと行った行為が、周囲に何らかの作用を及ぼしたとか」

首を傾げてしばし考え込んで、己の推論を口にする。
それは、エディアローズの周囲に群がる異常な精霊の数を直視した魔術師ならば、誰でも考える可能性だ。
僕もまず、それを可能性の一つとして考えた。

「当然それも、可能性としては考えている。だがそうなると、愛する者や身近な存在を不幸に陥れると伝えられてきたのは不可解だ。
精霊は己が守護する者に害のある存在を敵視する事はあれど、愛する存在に害を加えるような事はしない。
それに、記述を調べても、精霊の影響を書き記したものが見つかっていない。
これだけ広く知られている伝承だ。それがもし精霊の仕業なら、視える者にはわかっただろう。それらしい記述があってもおかしくないはずだ」
「そうですね。色違いの瞳の持ち主が皆、あのように精霊に愛されるのであれば、それに関する記述がないというのは不自然ですね」

僕が探し出した関連記述は、数十年前のものから数百年前のものまで溯る。
それ以前の古い記録は見つかっていないが、いずれ見つかるかもしれない。
生まれてすぐに捨てられて存在そのものを認知されてこなかった例が大半だが、それでも確かに、色違いの瞳の持ち主は歴史上存在してきたのだ。

だが、不吉をもたらすと伝えられてはいるが、その原因について言及する記述は見つかっておらず、魔術師から見た考察も、一切見つかっていない。
それが僕の研究を遅らせている。

「私の最初の師匠も精霊にとても愛された方でしたが、あの方の周囲の精霊たちは、弟子となった私を避けこそすれ、いつも遠くで見守ってくれているような感じでした。危害を加えられた事など一度もありません」
「おまえは精霊たちに避けられてはいるが、嫌われてはいないからな」
「師匠はとっても愛されていますよね。周囲をうろうろされるのが嫌だからって、用がなければ近づきすぎないように言いつけているのに、それでも健気に「ご用があればいつでも呼んでください、それまではそっとお傍に控えています」って感じで、こちらを窺っている精霊たちの、なんて多い事か」

シズヴィッドが軽く肩を竦める。

僕は確かに膨大な魔力の持ち主で、精霊に愛される性質を持ち合わせている。
用があって軽く呼び掛ければ、一体で済むような用であっても、先を競ってワラワラと集まってくるくらいには好かれている。

「エディアローズのような視えない者とは違って、視える者にとっては、ある程度の距離は必要となってくるものだ」
もし視えていたならエディアローズだって、もう少し離れてくれと哀願するに違いない。あの精霊すべてが視えていれば、それらが邪魔で、視界すらろくに確保できない。

「モテる方の台詞ですね。ああ、私も一度でいいから精霊たちに囲まれる幸せを堪能してみたい」
「囲まれるのが幸せか? ……とりあえず、あいつが来た時には囲まれていただろう」
「あれは、殿下の傍をどうしても離れたくない精霊たちが、私を苦手としながらも、渋々残っていたような感じでした」
「確かに、そんな感じだったな」

僕が肯定すると、シズヴィッドが恨みがましい視線を向けてくるが、こいつが精霊たちに避けられているのは厳然たる事実だ。今のところ、どうしようもない。

(だが、精霊魔術が使えないこいつを一人前にする為には、何らかの手を考えなければならないのも事実だ)

色違いの瞳の伝承を、しっかりと解き明かす事。
変質の魔力性質を持つ弟子を、魔術師として育て上げる事。


僕に科せられた役割は多い。



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