「エレインさんはドレスですか。では私は、今年は何をプレゼントしましょうかねえ」
お父様がおっとりと首を傾げられる。
私の誕生日は11月26日で、本格的に寒くなってくる頃だ。暖房費で他の季節よりもお金が必要になるのだから、無理をしないと良いのだけど。
「お父様のくださるものなら、どんなものでも嬉しいです」
私はお父様に笑顔を向ける。
そう。金銭的価値の問題ではないのだ。こうして心から祝ってくれる優しく愛しい家族こそが、私の一番の宝物なのだから。
「スノウさんは本当にしっかり屋さんですね。普段、お金の事では苦労を掛けてばかりなのですから、誕生日くらい、わがままを仰って良いのですよ」
「でも、本当にそのお気持ちだけで、充分すぎるほどですから」
丁寧な言葉遣いをする両親の影響か、私もつい、言葉遣いだけは丁寧なものになる。
両親を心の底から敬うというのは、ありそうで中々ないのが世の常だけれど、私はお二人を敬愛している。
それは私が良い子だからではなくて、お二人が尊敬するにふさわしい人だからだ。
その点、私はすごく恵まれている。可愛い弟と、こんな素敵な両親がいてくれるのに比べれば、貧乏なんてなんでもない。
「ルルもきっと、スノウさんに何をプレゼントしようかと、あれこれ悩んでいるのでしょうねえ」
「考えすぎて、熱を出さなければ良いのですけど」
私はそれこそ、(あの子がくれるものならばどんなものでもいいのに)と、困ったように微笑み返すしかない。
ルルーシェは、朝食の席には来ない。
あの子は低血圧で朝早く起きられないので、いつも、私やお母様が出勤した後で、お父様が部屋まで食事を運んでいる。
ルルは、お父様譲りの蜂蜜のような甘やかな金色の巻き毛に、優しい空色の目をしている。
そして、容姿は美しいお母様譲りで美しく可愛らしい。
男の子なのに天使のような見た目で、性格もとっても優しくて思いやりのある子で、姉としては誇らしい限りだ。
あの子は体が弱くてよく熱を出す。肺が特に弱くて、寒い日は庭にも出られない。寒気の中で長時間呼吸をしていると、肺が内側から傷ついてしまうかもしれないから。
学校にも殆ど通えず、年の大半をうちの中で過ごすしかない。
そんなあの子にとっては、家族が図書館で借りてくる本が、一番の楽しみのようだ。
平日では、図書館の開閉時間に間に合わないので、私はいつも安息日に、お父様と二人で本を借りに行く。
一人二冊までという決まりなので、私はルル用に一冊、自分用に一冊。
お父様も、安息日でもお仕事に行かれるお忙しいお母様の為に一冊、自分用に一冊。
私が安息日にも出勤していた頃は、お父様が家族皆で読めるような本を、二冊選んできていた。
図書館はタダで本を貸してくれる上に、安息日にも開いている(平日に一日お休みする)とてもすばらしい施設だけれど、家族の分を代理で借りてあげられないのだけは、少し残念だ。
ルルは気に入った本の一節を紙に書き記して読み返すのが好きだ。
学校に行けないあの子にとっては、字の勉強も兼ねている。
自分の本ならいつでも読み返せるのだけれど、借りてきた本だから、一週間後には返さなければならない。だから読み返したい部分を、丁寧に写すのだ。
私は本を買ってあげるだけのお金がないから、せめて好きに文章を書いていいと、紙をたくさん渡してあげたいのだけど、それを買うお金さえろくにない。
だから、ヒースから貰える上質な白い紙は、あの子への良いお土産になっている。
師匠も最初こそ呆れていたものの、お屋敷で不要なものや、研究用以外の書き損じの紙などは、どれだけでも持って帰っていいと、あっさり匙を投げてくれたのだ。
お金持ちの師匠って、本当にありがたい。
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