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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 五章 5

朝食後、愛馬アイスブルーの手入れをして餌をやって、馬小屋も綺麗に掃除した。
私はこの子を、アイスという愛称で呼んでいる。賢くて逞しくて勇敢な、自慢の馬だ。

私が通勤中に暴漢に襲われても、相手を脚で蹴ったり、体当たりしたり、踏み潰したりといった大活躍で私をサポートしてくれるし、それでも危ないと思えば、私を背に乗せて、全力疾走してくれる。
馬は本来は臆病な生き物なのに、アイスは勇敢で、私はとても助かっている。

私のお小遣い稼ぎの手段である、襲ってくる暴漢を返り討ちにして褒賞金を得る上で欠かせない、大切な相棒なのである。

アイスに問題があるとすれば、背中に乗る人を極端に選ぶ事だろうか。

うちの家族なら誰が乗ってもおとなしくて良い子でいてくれるのだけど、家族以外の、特に男性が乗った時には、容赦なく振り落としてしまう。(メスなのに男嫌いなのかも?)
一度ヒースが近づいただけで、蹴飛ばされそうになった事もある。(師匠は反射神経がすばらしいから回避できたけど)
あの時は、「飼い主が飼い主なら馬も馬だ!」と、私が怒られた。……私が慌てて止める前にアイスに近づいていった師匠にだって、少しは非があると思うのだけど。


馬小屋の後は、屋敷内の掃除をする。
お父様がこまめに掃除してくださってあるから、古くて小さいけれど、我が家はいつも、明るくて清潔だ。
私の部屋の方がゴタゴタしている。ここも掃除する。
修行に忙しくて平日はつい手を抜いてしまいがちだから、休日くらいはしっかり掃除しなければ。

掃除を終えてエプロンを外す。
ルルがそろそろ起きる時間だ。今日は私が食事を持っていく役目を任せてもらおう。

ルルがゆっくりと食事を摂る間に、体調を診て薬を処方する。
いつもは夕食の後に、本を読みながら話をするくらいしか時間が取れないのだけど、今日はいっぱい話せて幸せだ。

我が弟ながら、ルルは本当に可愛らしくて仕方ない。
最近は、師匠とか殿下とか、周りに美形が増えているような気がするが、やはり、うちのルルが一番可愛い。
私はにんまりする。

血の繋がった弟に、惚れたら破門される師匠に、身分が違いすぎる王子様。
どれも恋愛対象にはならないが、それでも、そういう人たちが間近にいるのは素敵な事だ。
私も女の子だから、綺麗なものは普通に好きだ。

そういえば、エディアローズ殿下といえば、先日また、師匠のお屋敷へ遊びにいらした。
殿下は相変わらずお美しく、そしてリスのシュシュちゃんは相変わらず可愛らしく、見ているだけで心が和んだ。
師匠は何故か、とても疲れていたようだが。

シュシュちゃんに、師匠のお屋敷の庭で拾った木の実を食べさせてあげた。
カリカリと齧る姿が、それはもう愛らしくて、できればお持ち帰りして家族にも見せてあげたいくらいだった。

殿下はその時にクッキーを持ってきてくれて、「スノウ嬢さえ気にならなければだけど、よければご家族にもどうぞ」と、家族へのお土産まで包んでくれた。
さっくりとしながらも味わい深いクッキーで、家族皆で喜んでいただいた。

殿下がわざわざ「気にならなければ」と気遣ったのは、不吉王子と呼ばれる自分と家族を関わらせるのを、私が嫌がるかもしれないと思ったからだろう。
周囲に避けられて育った殿下は、避けられる事に慣れている。

だけど、私も他の家族も、そんな細かい事は気にしない。
だって、殿下からお土産を貰ったくらいでもれなく不幸になるのなら、殿下がこの国の王子として産まれた時点で、国民全員が不幸になっていなければおかしいではないか。

私がそう言ったら、殿下はお腹を抱えて爆笑した。



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「明日、花が咲くように」 五章 4

「エレインさんはドレスですか。では私は、今年は何をプレゼントしましょうかねえ」

お父様がおっとりと首を傾げられる。
私の誕生日は11月26日で、本格的に寒くなってくる頃だ。暖房費で他の季節よりもお金が必要になるのだから、無理をしないと良いのだけど。

「お父様のくださるものなら、どんなものでも嬉しいです」

私はお父様に笑顔を向ける。
そう。金銭的価値の問題ではないのだ。こうして心から祝ってくれる優しく愛しい家族こそが、私の一番の宝物なのだから。

「スノウさんは本当にしっかり屋さんですね。普段、お金の事では苦労を掛けてばかりなのですから、誕生日くらい、わがままを仰って良いのですよ」
「でも、本当にそのお気持ちだけで、充分すぎるほどですから」

丁寧な言葉遣いをする両親の影響か、私もつい、言葉遣いだけは丁寧なものになる。
両親を心の底から敬うというのは、ありそうで中々ないのが世の常だけれど、私はお二人を敬愛している。
それは私が良い子だからではなくて、お二人が尊敬するにふさわしい人だからだ。
その点、私はすごく恵まれている。可愛い弟と、こんな素敵な両親がいてくれるのに比べれば、貧乏なんてなんでもない。

「ルルもきっと、スノウさんに何をプレゼントしようかと、あれこれ悩んでいるのでしょうねえ」
「考えすぎて、熱を出さなければ良いのですけど」

私はそれこそ、(あの子がくれるものならばどんなものでもいいのに)と、困ったように微笑み返すしかない。


ルルーシェは、朝食の席には来ない。
あの子は低血圧で朝早く起きられないので、いつも、私やお母様が出勤した後で、お父様が部屋まで食事を運んでいる。
ルルは、お父様譲りの蜂蜜のような甘やかな金色の巻き毛に、優しい空色の目をしている。
そして、容姿は美しいお母様譲りで美しく可愛らしい。
男の子なのに天使のような見た目で、性格もとっても優しくて思いやりのある子で、姉としては誇らしい限りだ。

あの子は体が弱くてよく熱を出す。肺が特に弱くて、寒い日は庭にも出られない。寒気の中で長時間呼吸をしていると、肺が内側から傷ついてしまうかもしれないから。
学校にも殆ど通えず、年の大半をうちの中で過ごすしかない。

そんなあの子にとっては、家族が図書館で借りてくる本が、一番の楽しみのようだ。
平日では、図書館の開閉時間に間に合わないので、私はいつも安息日に、お父様と二人で本を借りに行く。
一人二冊までという決まりなので、私はルル用に一冊、自分用に一冊。
お父様も、安息日でもお仕事に行かれるお忙しいお母様の為に一冊、自分用に一冊。

私が安息日にも出勤していた頃は、お父様が家族皆で読めるような本を、二冊選んできていた。

図書館はタダで本を貸してくれる上に、安息日にも開いている(平日に一日お休みする)とてもすばらしい施設だけれど、家族の分を代理で借りてあげられないのだけは、少し残念だ。

ルルは気に入った本の一節を紙に書き記して読み返すのが好きだ。
学校に行けないあの子にとっては、字の勉強も兼ねている。
自分の本ならいつでも読み返せるのだけれど、借りてきた本だから、一週間後には返さなければならない。だから読み返したい部分を、丁寧に写すのだ。

私は本を買ってあげるだけのお金がないから、せめて好きに文章を書いていいと、紙をたくさん渡してあげたいのだけど、それを買うお金さえろくにない。

だから、ヒースから貰える上質な白い紙は、あの子への良いお土産になっている。
師匠も最初こそ呆れていたものの、お屋敷で不要なものや、研究用以外の書き損じの紙などは、どれだけでも持って帰っていいと、あっさり匙を投げてくれたのだ。


お金持ちの師匠って、本当にありがたい。



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「明日、花が咲くように」 五章 3

朝の水やりを終えると、お父様とお母様と私は朝食を摂る。

お父様の作られた食事はとてもおいしくて幸せだ。
お父様の料理はどれもすばらしい。材料がどんな質素なものでも、とてもおいしく仕上げてしまうので、私たち家族はいつも、物を食べる幸せを噛み締める恩恵に預かっている。

私も家事全般は得意だ。家政婦代わりをする事で弟子になってきたのだ。何でもこなせると自負している。
けれどまだまだ、料理の腕前だけはお父様には遠く及ばない。


お母様は安息日でも工房に働きに出掛ける事が多く、今日もこれから出勤されるのだという。
あまり無理をして、お体を壊されなければ良いのだけど。
うちの家計は、お母様の細腕で稼がれているといっても過言ではないから、止められないのが切ない。

美しく強く淑やかで働き者のお母様は、私の憧れる女性像そのままの方だ。
平均より魔力が強く精霊に愛される気質なので、老化が遅く、娘である私と並んでも姉妹で通りそうな程、若々しい見た目をしている。

「スノウさん、工房で余った布をたくさんわけてもらえましたの。貴女の誕生日が来月でしょう。今年は貴婦人らしいドレスを作ってあげますね」
「ええ! よろしいんですか?」

お母様の言葉に、私は驚いた。

貴婦人用のドレスなんて布を大量に使うから、うちのように貧乏だと、新品を買うなんて、夢のまた夢で。中古でも贅沢品というイメージだ。
お母様の勤め先の工房で、余分な布をわけてもらえる事があるので、私たちの服はいつも、お母様の手作りだ。

「お師匠様のところへ通うのにも着ていけるように、丈夫で可愛らしい服を作れるよう頑張りますので、どうぞ楽しみにしていてください」
「はい、すごく楽しみです」
私は驚きの余韻が抜けないままに、こくこくと二度頷く。

「前のお師匠様のところでは、武術の訓練が激しくてスカートを穿く機会もなかったですけれど、今のお師匠様のところなら、訓練以外の時はスカートでも構わないでしょう? 十七歳といえば成人ですから、貴女もそろそろ、貴婦人らしい立ち振る舞いを身に付けなければ」
「は、はい」

お母様のように素敵な方から「貴婦人としての立ち振るまい」などと言及されると、緊張してしまう。
私だって小さい頃に、貴族の令嬢として恥ずかしくないようにと、お母様から礼儀作法を一通り教えてもらっているけれど、それ以降はずっと、魔術や護身術にばかり熱心に取り組んできたから、あまり自信がないのだ。

貴婦人らしい礼儀作法なんて、私にできるだろうか。

……ああ、でも、ドレスを着れるのは、すごく嬉しいかもしれない。
ようやく私の内で、驚きが喜びに変わって、じわじわと実感が湧いてくる。

私だって幼い頃は普通の少女らしくスカートで過ごしていたのだけれど、護身術を習うようになってからは動きやすさを重視して、自然とズボンばかり穿くようになっていた。

それでも、私だってやはり、年頃の女の子だ。
どうせなら、男の子のようなズボンよりも可愛いドレスが着たい。

でも、ドレスを作ってほしいなんて贅沢なわがままは言えなかったから、ずっとなし崩し的にズボンばかりだった。
だけど、お母様はちゃんと考えてくれていたのだ。嬉しい。

ああ、一体どんなドレスになるんだろう。毎日着ても大丈夫だろうか。


ドレスの事を考え出すと、どうしようもなく心が弾んだ。



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