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オリジナル創作ブログです。ジャンルは異世界ファンタジー中心。 放置中で済みません。HNを筧ゆのからAlikaへと変更しました。
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「明日、花が咲くように」 七章 7

「あの。私が傍にいると、殿下の周りの精霊たちの数がかなり減ってしまっているのですが、そのせいで何か異変はありませんか? 体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。スノウ嬢とこうして話していても普段と何も変わりないから。そもそも最初に会った時からずっと何ともなかったしね。だから安心して」

せっかく気さくな友人になれたのに、これが理由で彼女から距離を置かれたりしたら、僕の方が辛い。
僕は視えないから、スノウ嬢が傍にいるだけで精霊の数が減っていたのに、ろくに気づいてもいなった。
ヒースが精霊を結界の外に弾いている実験の最中も、取り囲む気配が薄くなったのを、少し知覚できた程度だ。
だから、唐突に大きな「声」が、頭の中に響き渡ったのに驚いた。
実験中に何が起きても対処できるよう気を張っていたというのに、あんなにうろたえるなんて。僕はまだまだ未熟者だ。

「シズヴィッドの魔力性質を避けて距離を取る精霊は皆、力の弱いものばかりだ。残っている数だけでも充分、エディアローズを守るのに力が足りているのだろう。僕が今回それを更に引き剥がした事で異変が起きた。あの時点で精霊の数は、四分の一程度にまで減っていた。あの状態が、「声」を防げる限界だったと考えるべきだろう」
「そのようですね。殿下と精霊たちを引き離す実験はとても大きな危険を伴うようです。今後は行わない方が良いでしょうね」
「……確かにな。エディアローズ自身にその感覚を探らせるのが近道ではあるが、その方法ではエディアローズの精神に負担が掛かりすぎる。そんな危険は冒せない」
「でもそれじゃ、また手詰まり状態に戻るんじゃない?」

二人が研究者としての知的好奇心よりも僕の身を案じてくれるのはありがたいけど。僕としては、一刻も早く、色違いの瞳の研究を進めてほしい。
実験に多少の危険が伴っても、それが僕自身にだけ降りかかるものならば構わないのに。

「他の手段を考えればいいだけだ。言っておくがくれぐれも、軽はずみな行動はするな」
「……」
流石幼馴染みとでも言うか。ヒースは僕の考えを読んだように、きっちり釘を刺してきた。

「それで、殿下が聞いた「声」は、あれですべてだったのですか? 先程の話を聞いた限りでは、第一王女の「声」がなかったようなのですが」

ふと気づいたように、スノウ嬢が小首を傾げて遠慮がちに指摘した。直接会った事はなくとも、知識として現王家の子供の数を知っているので、どうして一人だけ抜けているのか不思議に思ったのだろう。
言われてみれば確かにその通りだ。

母親が違う兄弟が多いが、僕を含めて、グリンローザには現在9人、王の子供がいる。
だが、聞こえてきた「声」の中には、長女のグレイシア・オリゼラ殿下の声だけがなかった。

「そういえばそうだね。隣国に嫁がれたグレイシア殿下の声は聞こえなかった」
「国外は対象外という事か?」
ヒースもそこに興味を持った。

「ギーレンの声は聞こえていたんだったな」
「うん。『不憫な方だ』と」
「師は確かに、おまえの境遇を気にしていたからな」

過去の記憶を溯り、懐かしさを噛み締める。
幼い頃、色違いの瞳のせいで誰からも避けられる僕を憐れに思った宮廷魔術師長のギーレンが、僕に様々な教育を施してくれた。
そして、彼の弟子となったヒースと出会って、共に学んで時を過ごした。
ヒースとギーレンがいてくれたから、僕はあの宮廷において、完全な「孤独」に、絶望せずにいられたのだ。


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ネット小説ランキング>【異世界FTコミカル/異世界FTシリアス】部門>明日、花が咲くようにに投票
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「明日、花が咲くように」 七章 6

「大丈夫。けど、もう少しだけ考えさせて」

僕がそう言うと、ヒースは先程実験の為に張った結界を取り払い、スノウ嬢は新しくお茶とお茶菓子を用意してきてくれた。
今感じたものを話すのに、心の準備がほしかった。
彼らはこの瞳の真実を探る為の協力者であり、得難い友人であり、冷静な思考の持ち主たちだ。
だから実験で得られた今の「感覚」をありのままに話しても、僕を避けたり嫌悪したりはしないだろう。
それでも、話すのに躊躇した。
こちらに向けた負の感情を読み取る存在なんて、避けたいと思うのは当然だから。

(だけど、彼らなら、大丈夫)
そうやって、自分の中で今起きた事を話す覚悟を決める。


「多分、色違いの瞳が不吉と言われる、原因の一端に触れたんだと、思う」

僕には、この瞳に纏わる伝承が、今起きたあの感覚に起因しているという確信があった。
迷信なら良かったのに。伝えられてきた伝承が真実の可能性が高いと、今の出来事で、身をもって思い知ってしまった。

僕が感じたものを、できる限り感じたままに再現するように話してゆく。
口にしづらい内容だったけれど、実験で得られた「成果」を何も言わずに、自分の裡だけに留めておく訳にはいかない。


「思ったよりはずっと、向けられてきた感情がまともだったのが救いだけど」

ただ「不吉だ」と避けられていたとばかり思っていた長兄が、昔僕を苛めたのを気にして、接し方に困って、戸惑っているのを知れた。
シュシュが最近肥満気味になっていた原因が、親兄弟に嫌がらせするのが大好きな、二番目の兄の仕業だとわかった。
いつも怯えてばかりの弟が、「僕に」ではなく「彼の母親に」怯えて、こちらに近づいてこないのだと知れた。

他の兄弟は……まあ、普段の行動から予測できる範囲内だった。
ある意味では笑える。
彼らは常に裏表のない態度で、僕に接してくれていた訳だ。


「ヒースやスノウ嬢の声も聞こえたよ」

『こいつは人をからかって遊ぶ腹黒だ』『精霊に慕われて羨ましい』
ヒースをからかう事に楽しみを見いだしている僕を理解している、ヒースの心情。
精霊に避けられてしまうスノウ嬢の、悪意のない小さな妬み。

「では、私の身勝手な妬みが、殿下にそんな辛い思いをさせてしまったのですね」
「おい、泣くな!」

スノウ嬢が切なそうに顔を歪めたのを見て、僕よりもヒースが先に過剰反応した。女嫌いの彼は、女性に泣かれると条件反射で苛立ちを感じるらしい。
もっともスノウ嬢はヒースに言われるまでもなく、初めから泣いていなかった。ただ、自身の不甲斐なさを責めつつ、それを必死に表に出さないようにしているのが見て取れた。

(そんな顔、しなくていいのに)
彼女が精霊に取り囲まれる僕を羨ましいと感じるのは当然で。けれど、こちらを逆恨みするような悪意がないのは、ちゃんと理解している。
彼女がそれを僕にぶつけるような人じゃないのはわかっているから。そんな顔、しなくていいんだ。

「スノウ嬢やヒースの「声」は、全然嫌なものじゃなかったよ」
彼女を安心させようと微笑む。言葉は本心からのものだ。
負の感情だけを読み取ったはずなのに、それでも決して彼らのそれは、僕の心に突き刺さるような、棘のあるものではなかった。

「当たり前だ。僕はおまえに悪意など抱いていなからな」
「腹黒だとは思われてるみたいだけど?」
「それは単なる事実だろう」
居丈高に腕を組むヒースの、これまでと変わらない態度が嬉しい。




『おぞましい』

『忌み子が我に触れるでない』


…………そう。

実の両親であるあの人たちから向けられた、本物の嫌悪に比べれば。
他の皆の「声」は、なんて無邪気で害意がなく、優しかった事か。



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「明日、花が咲くように」 七章 5

(これは…………、僕に向けられる、こころの声?)

嫌悪、苦手意識、戸惑い、妬み、怯え、忌避、憐憫。
……種類は違えど、どれもまぎれもなく、この僕に向けられる思いの一部。

スノウ嬢が魔石を使って結界を破ると同時に、ふわりと周囲を包まれる感触がした。
いつも、僕を守ってくれる彼らの気配がする。
そして、脳裏にガンガンと響いていた、「声」が、いきなり消えた。

意識を覆っていた重苦しさがなくなって楽になる。
助かったと、心から安堵した。
あんな「声」ばかりを延々と聞かされ続けていれば、遠からず気が狂っていたかもしれない。

「大丈夫ですか!?」
「何があった?」

スノウ嬢が慌てて駆け寄ってくる。ヒースは僕の背に手を添えたまま、険しい表情で僕の顔を覗き込んでくる。
二人の心配そうな表情を見ていると、ささくれ立っていた心が、次第に落ち着いてゆく。

僕は意図的に深く呼吸して、自身の精神を落ち着けようとする。そうすると、徐々に吐き気が収まっていった。

それでも、すぐに話ができる状態になく、「ちょっと待って」と、心配してくれる二人に、力なく微笑みを返す。

今、僕の内側で感じたものを、どう話せばいいのだろう。


あれは、近しい者たちから僕へと向けられた、「負の感情」なのだと思う。
すべて、僕にとって、知っている人の声をしていた。

奔流のように一気に流し込まれたので、脳の処理速度が間に合わずに気持ちが悪くなったけれど、少し落ち着いてみれば、誰がどの声だったのか、ちゃんと識別できた。

声の主たちの心から、「負」と分類されるものだけを汲み取ったら、きっとあんな感じになる。

ただ……あの声だけが、僕に向けられる感情のすべてだとは、考えなくていいはずだ。
現に今、固唾を呑んでこちらを見守っている二人からは、嘘偽りのない純粋な心配が窺える。
いつもの僕ならば、ヒースのそんな珍しい表情をからかって、怒らせて遊ぶのだけど。今は、そんな些細な楽しみに浸るだけの余裕がないのが残念だ。


結界が消えてすぐ精霊たちが僕を包んでくれたから、あのどす黒い嵐はやんだ。
彼らが僕を守ってくれたから、あの「声」は聞こえなくなった。


(ありがとう、助かったよ)

僕を取り巻く精霊たちに、心から感謝する。
目には視えなくても、そこにいるのは感じられる。
本当に、いくらお礼を言っても足りない。

(ああ、きっと。彼らがこれまで守ってくれていたのは、僕の身体だけじゃなく、心もだったんだ)

いつだって、危険に合いそうになると、目には視えない力が僕を守ってくれた。

だけどそれだけじゃなく、これまで認識していなかった精神が侵される危険からさえも、とても注意深く、守られてきたのだと。


彼らの情の深さを改めて思い知って、泣きたくなって、掌で瞼を覆った。



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