「彼らがいないと、普段とは違う事が起こるかもしれない?」
「その可能性はあるかと。何事も試してみなければ、正確な答えは得られませんので」
「それはそうだね」
実験の意図はわかった。
準備を整えた上で僕が呼ばれたのだから、異存がなければすぐにでも実験を始められるのだろう。
だとしたら、気になる疑問は今の内に解消しておかなければ。
「精霊たちは僕をずっと守ってくれた。僕はこれまで、そんな彼らの行動を止めなかった。僕を害そうとした人間が返り討ちにあって怪我をしても、相手の自業自得だと割り切ってた」
「別に、それが悪い事とは思わんが? 自衛は必要だろう」
「危害を加えようとした相手が悪いのです。誰かの心無い行いで、エディアローズ殿下が一方的に傷つけられたりしたら、私も師匠も、その相手に怒りを覚えます」
「…まあ、そういう事だな」
「ありがとう。ヒース、スノウ嬢」
二人とも、精霊に頼って生きてきた僕の行いを責めない。
それどころか、僕の為に見知らぬ相手を怒ってくれるとまで言う。
なんて心優しい友人たちだろう。くすぐったくて誇らしい気持ちで胸が満たされる。
「それで、君たちや精霊たちに危害が及ぶ可能性はないの? 君たちに何かあっても、僕では彼らを抑えられないと思うんだ。彼らは僕が頼まなくても自分の意志で動くから」
精霊は必要以上に命あるものを傷つけるような事はしないから、僕に危害を加えようとしない限りは危険はないはずだ。
だが、強引にこの場から引き剥がそうとして、もし二人に精霊の牙が向いたら?
僕には彼らが視えないから、実験が行われても、そこで何が起こっているのかわからないだろう。それが不安を煽る。
「勿論、おまえも含めて全員に対して危険がないようにする」
「実験には細心の注意を払います。エディアローズ殿下、どうか師匠の腕を信じてあげてください」
その発言はさり気なかったが、ヒースに対する確かな信頼が込められていて、彼女が師を敬っているのがまっすぐに伝わってきた。
ヒースが照れ隠しで仏頂面になる。スノウ嬢が素で言ってるのがわかるから尚更、どういう表情をしていいかわからなくなっているんだろう。……まったく、ヒースは素直じゃない。
この二人の間に、しっかりと師弟の絆が育ちつつあるのを見ると、僕も嬉しくなる。
「皆が無事でいられるなら、実験に異存はないよ。じゃあ、始めようか」
「そうだな。準備を開始するぞ」
「あ、それでは殿下、シュシュちゃんを少しお借りして良いですか? 実験の間だけ執事のカリクさんにシュシュちゃんを預かってもらおうと思いまして」
「ああそうだね。スノウ嬢、シュシュを預けてきてくれるかな。でも、最近どこかでたくさん餌を貰っているらしくてちょっと肥満になりかけてるから、餌は与えすぎないようにって、カリクに伝えてくれる?」
「はい、わかりました」
シュシュを両手でそっと抱きしめて、スノウ嬢は中庭からお屋敷内へ入っていった。
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